406+小さい秋が見つからない。
「秋つったら茄子食いてぇなー」
学校帰り、自転車を漕ぎながらカイトがふとそんなことを言いました、ユウヤでっす!
「秋茄子だねっ!」
「おう!」
暦の上ではとっくに秋だけれど、最近やっと肌寒くなってきて、秋になったって感じ! 秋の味覚は美味しいからつい食べ過ぎちゃうよねー! っていうか其は其れで良いんだけれど、カイト君はとりあえずそろそろ学ランを着ようか、ワイシャツじゃ寒いって。
「夏にも食えるじゃん、茄子」
「ばっかだなぁアサキ、秋茄子は秋に食うから美味ぇんだろうが」
何時も通りにカイト君の荷台の荷物と化しているアサキが、何時も通りに横座りで本を読みつつ(良い子は真似しちゃ駄目だよ!)そんなことを言う。まぁ、確かに茄子は夏野菜でもあるしねー、でも、やっぱり秋茄子なんだから秋に食べたいよね!
「別に、茄子好きじゃないし」
「……あれ? アサ君茄子嫌い?」
「普通」
「おま、食事係だろユウヤ」
「アサ君好きとか嫌いとか言わないんだもん……」
文句言わないでくれるのはすっごく助かるんだけど、好きなものすら言わないから作り甲斐が無いというか。……というか良く考えたらうちの家族って皆食事に文句言わないや、マヒル兄も父さんも美味いだの美味しいだのしか言わないし。俺と母さんだけじゃないかな……此処で分かれるか、うちの家族。
「何でも食べんなら良いんでねぇの? ……あ、でもアサキお前、旅館の飯は食わないよな」
「量多い、あとはまずい時ある」
「其れは遠回しにユウヤとかマヒルさんが作る飯は美味いってことか?」
「まずくは無いよ」
「だとよ」
「うん、美味しいって言葉が聞きたいかな!」
「……」
言ってくれない様だ。――まぁ良いんだけどね! 俺めげないし!! 何時か絶対言わせたる……!
「秋っていやぁ、他に何があるっけか」
「柿」
「秋刀魚!」
「……栗」
「さつまいも!」
「……葡萄」
「ええと……銀杏?」
「おい双子、別に俺は古今東西ゲームを強制した覚えは無ぇよ?」
カイト君に苦笑されはしたけれど、俺としてはアサキが其れほどに秋の味覚に詳しかったことにびっくりした。興味無いと思ってたからね!
「後はマツタケとかか? 」
「あー、キノコは確かに食べるかも」
「キノコは野菜炒めで食うのが一番だ!」
「……生で?」
「なぁアサキ、俺今炒めっつわなかったか?」
「どうやら聞こえてないようだ」
「テンメェ……せめて本から目を離して言えよ!」
「前を向いてクダサイ」
出来ればアサキも前を向いて欲しいんだけどね! 二人乗りの時点で若干危ないのに、尚且つ横向きでしかも読者って……アサ君のバランス感覚が良いのか、カイト君が気を遣ってくれているのか。
「あ、ねぇねぇアサ君、アサ君って秋の味覚で一番何が好きー?」
ふと、そんな疑問が過ぎる。全体的に好き嫌いを言わないアサキだけど、秋限定なら何かしらの反応が帰ってくるんじゃないか、という思いから。
「別に無い」
――玉砕したけどね!!!!
「お前なぁ、何かあんだろひとつくらい」
「……」
カイト君が呆れたように言うのを聞いて、何やら考え出した我が弟。なにかひとつくらい、何でも良いけど何かひとつくらい好きなものを……! アサキってファミレス言っても頼むもの気分で決めるし、バイキング行っても其の時食べたいものしか食べないから本当好き嫌いが分からない! 此れでも十六年お兄ちゃんやってるんだけどなー!!!!
「……柿」
柿……!? が好きな――
「――を、マヒルがひとりで食ってたイメージがある」
――では無いようだ。
「だからきっとマヒルは柿が好き」
「知ってる! っていうか其れはマヒル兄がバイト帰りでゾンビ化してる時に柿出したら黙々と食べてただけでしょ!?」
「うん」
好きなのかどうかイマイチだよね其れだと……!
「ゾンビ化……レイズで一発だな……」
「カイト君、帰ってきて」
カイト君がゲームの世界にトリップしちゃったし家着いたから、此の話はとりあえず此処までにしよう。学校帰りだからって二人共、何だかライフ削られ過ぎな気がする。
「秋の味覚……ユウヤ」
「ん?」
「マカロニグラタン食べたい」
「うん、全然関係無いね!」
良いよアサ君、君は其れで良い。