402+夏の合宿編。/五日目2
「楽しかったな、合宿」
「は? お前は勉強三昧だっただけじゃねぇの?」
ふ、とらしい笑みを浮かべて、ハヤは俺にそう言った。四日間は勉強で、今日は此処に一人で居ただけな癖して、一体何が楽しかったってんだろうか。
「勉強三昧って訳でも無いさ、少しは皆でゲームもしただろう?」
少しって、本当数時間の話だろ。
「第一、遊ぶよか勉強ばっかで超疲れたっつーの。合宿なんて暫く要らねぇわ」
「そうか」
其の一言も何処か楽しげで、ハヤの神経は良く分からねぇ、と毎度ながら思った。同室という訳ではないが、部屋に居るフウカは若干うとうとと船を漕いでいて、今にも寝そうだからとハヤをヒヤヒヤさせている。
「……フウカ、眠いなら、部屋に戻って良いんだぞ?」
「……ええ……もう少し……」
此処に居る、と続くはずだった言葉すら続かないのに、未だ此処に居るらしい。昼間にはしゃぎ過ぎたんだよ、お前。下の奴等とよ……まぁ、俺も大分騒いでたけど。
入り江まで行って、はしゃぎ疲れた奴等は既に部屋に戻って寝ちまっている。まだ九時も回ってない時間だっつのに、部屋を覗いたら真っ暗だった。……俺達以上に疲れてどうすんだよな。
「サチト」
「ん?」
「聞いたこと無かったが……お前、大学はどうするんだ?」
「俺? ……んー、ぶっちゃけ、未だ良く分かってねぇ」
一年からずっと一緒だけど、確かにそういう話をハヤが持ち出して来たこと、無かったな。俺から持ち出すなんてことがあるはずも無く、そういう話をすんのはマジで初めてだ。
「お前はどうすんのよ」
正直、ハヤが大学に行けるのかどうかってのも頭の片隅にあるっちゃああるんだが。まぁ、普段通りの興味本位で俺は聞いてみた。
「行くつもりではいるさ」
「……マジかよ」
「言うと思った」
笑われた、読まれてたか。
「場所は限られてくるけどな、家から一番近い大学くらいなら、恐らく通えるさ。家族も支援してくれると言っている」
「へぇ……」
「身体のことを理由に、やりたいことを諦めたくは無いからな」
「へいへい、向上心旺盛なこって」
呆れて物も言えないけど、其れがハヤだから仕方ないわな。
ハヤが何をやりたくて、どんな道に進みたいのかなんて俺には分からない。でも、少なからず現時点まで、いや、多分これからも雰囲気で進路を決めちまうだろう俺よかはまともなんじゃねぇかと。
「お前も、今からだって遅くは無いさ。頭は足りるだろうし、考えてみろ」
「へいへい、生徒会長様は言うことが違ぇわ。なぁフウカ?」
「……ん?」
「……お前、寝ろよ」
全然頭入ってなかったろ、今の話。
「合宿は終わるけど、」
ふらっふらのフウカを部屋に送るべく立ち上がってから。
「勉強、ちゃんとしておけよ」
ハヤがそんなことを言った。
「決まってないなら尚更、行きたいところが見つかった時、後悔しない様に」
常に病人の癖して、そんなこと言いやがって。――だから俺はハヤには敵わねぇんだと、ずっと知ってたことを再確認した。
しとくよ、勉強。お前が言ったことで、間違ったことなんて無ぇからよ。