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「《二年ヒコク、至急職員室に来い》」



 っていう校内放送で目が覚めた僕。

 こんにちは、朝から寝てるが未だ未だ眠いアサキです、何やら放送で呼び出しを喰らったみたいだ。――が。


「今のは僕か……?」


 そう、ヒコクアサキと常々名乗っている僕だが、そうなると勿論ヒコク君はもう一人居る訳で。


「アサキくーん、弟君が呼んでるよー」


「?」


 クラスの女子が何やら言っている、つか確実にあれじゃん、あれ? 僕弟じゃん。……嗚呼、“兄”の事ですね分かります。窓際の席の僕に向かって、廊下から何やら手を振る奇妙な物体が一匹。


「うぉーい!!」


「……気の所為か」


「ちょ、待ちんしゃい。たまにはまともな話だから」


 自分でもたまにはな自覚があるのか此の人は。そして廊下から僕の呟きを聞き取るとは奇跡的な聴力だな。


「今呼ばれたんはアサ君かい?」


「今日は特にヘマした覚えはないが」


 するとまたも放送が鳴った。



「《あー、二年のじゃ二人居た。弟の方だ、以上》」



 …………僕で良いのか。


「でもちょっと待ってくれよアサ君」


「何だよ」


「俺は未だにアサ君の弟呼ばわりされてる訳であってだよ、先生も勘違いしているパターンはないかい?」


「……有り得るな」


「どうしますか」


 という訳で色んな生徒を超越しての会話をやめ、仕方なく僕が廊下移動。よく分からない兄弟会議の始まり始まり。


「今の声ってさっちゃん先生だよね」


「人のクラスの担任をさっちゃん先生呼ばわりすな」


 本名サクライ イツキ。齢二十五歳の新任教師様。我がクラスの担任にして、何やら先生に見えないヤーさんチックにしてヤーさんにしか見えないヤーさんです。……あれ、結論がヤーさんだ。


「じゃあやっぱアサ君?」


「かなー」


 しかし僕は今日、担任に呼び出しを喰らう様な行為をしただろうか……? 寝てただけなのに……――其れか!


「むむ……」


「じゃーアサ君でいんじゃない? 何かよく考えると俺さっちゃん先生に呼び出し喰らう理由ないし」


「いや、あるな」


「何さ」


「存在」


「泣いていいかお兄ちゃん」


 冗談だ。


「んじゃ行ってくる」


「違ったら言ってなー」


 スタスタと歩き出した僕にヒラヒラ手を振ったユウヤは自クラスへと戻って行った。








「失礼します」


「あれ? 呼び出しは弟じゃなかったか?」


「僕です」


「あれ? ユウヤ君じゃないの?」


「だから僕です」


「兄貴がどうした?」


「だから僕ですってば」


「おやユウヤじゃな――」


「此の学校の教師に俺等の家族構成をしかと覚えてる奴は居ねぇのか」


 職員室の中心で心中を叫ぶ。

 某映画の様だが、悲しみの部類が大分違う。


「アサキ、こっちだこっち」


「先生、僕のことですよね。決してあのユウヤ略してクソ馬鹿兄貴ではないですよね? そして何故こんなにも僕は兄貴呼ばわりされているのでしょうか」


「嗚呼、あのユウヤ略してクソ変態兄貴ではない。知るか、俺が覚えてる限りはお前が弟だ」


 うちの兄貴は数学の授業中何をやらかしたんだ――サクライ先生は数学教師だ――。

 にしても先生、担任だけあって覚えていてくれたのか……! じんわりと感動が滲み出る。しかし先生、注意所満載の僕の発言をツッコまないなんて貴方は一体何なんだ?


「でだ。これ運んどいてくれ、多少来るのが遅かった事は大目に見てやるから」


 そう言って先生が渡して来たのは大量の書類の山。運べない量ではないが、何故に僕なんだろうか。


「分かりました」


「おう。ところでアサキ」


 サクライ先生はクラスの皆を名前呼びする、何故かと前に聞いた所、


「苗字を覚えるのは苦手だが、最近の餓鬼共の名前は特徴的だから覚えやすいんだ」


 との事。


「お前が弟で合ってるんだよな?」


「はい、其れが?」


「いや、何故か理解している俺でも……あれが兄貴にゃ見えない」


 先生は親指を突き出して左の方を指差す様にスライドさせた。そっちは職員室入口……――


「……」


 ――何やらキラキラした目の変な物体が居た。


「先生、あれは僕の常識範疇に存在するものではありません。あれはクソ馬鹿変態野郎です」


「嗚呼そうか、あれはクソ馬鹿変態超ド級クズ野郎か」


「いいやもしかしたらクソ馬鹿変態超ド級クズで最低最悪カス野郎かもしれません」


「せんせー! 何故か俺身内と先生にイジメられてます!!」


 クソ馬鹿変態超ド級クズで最低最悪カス野郎略してユウヤが僕に続く職員室の中心で心中を叫んでいた。僕は叫んじゃいないが。


「叫ぶな、はしたない」


「いやいやいや、誰がそうさせたのアサ君」


「はしたないな、変態」


「先生に至っては未だ変態扱いですか俺は」


 という事で一旦落ち着きましょう。


「……うん、何の用……?」


 あからさまに面倒そうに聞く僕に、ユウヤは元気良く答える。


「いや、暇だし結局アサ君で良かったのかなって」


「俺様が間違える訳無ぇだろ」


 先生、他の先生達が先生を意外そうな目で見てます。あれ、普段はクールが売りのサクライ先生は何処?


「他の先生は皆さん僕を兄と呼びましたが」


「だから俺様は他の先生とは此処が違――ゴホンッ」


 背後を通った校長先生の存在で、自分の頭を指差そうとしていた先生がやっと何時ものクールな先生に戻った。おかえり先生。


「まぁ、ちゃんと指摘を入れたんならもう間違われないだろ、うん」


「そうですね」


「むー、俺はそんなに頼りないかなー」


「ユウヤは稀に女の子の格好なんてするからだよ」


「何か言ったか?」


「何も言ってませんよ先生」


 そして僕は先生より預かりし書類をユウヤに持たせて職員室を後にする。理不尽? 誰が?

 手ぶらで廊下を歩く事少し。


「ねぇアサ君」


「何」


「この書類、俺のクラス用なんだけど」


「……」


 僕等を見分けられても、書類を間違えてどうするんだ先生。



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