394+夏の合宿編。/二日目3
リョウコです、もう夜なんだけれど何となく寝れなくて。夜風にでも当たろうか、なんて洒落たこと考えて勉強で疲れているだろうフウカ先輩を起こさないように部屋を出た。――のは良かったんだけど。
「……部屋、何処だったかしら」
洋館チックな廊下を歩いてみたけれど、完全に部屋を忘れてしまったわ。生憎携帯は部屋だし、扉大きいし暗いし怖いしどうすれば良いのよ本当!
――かたん。
「!?」
つい身体が跳ねたわ……!
な、何!? 何の音!? べ、別に怖くなんて無いんだ……けど、――何の音なのよ!!
『 ――よ、うん―― 』
怖くない怖くない怖くない怖くない怖くな(※エンドレス)
声がしたなんてこと無いわよね!? そんな訳無いじゃないこんな夜中に!!!! ええそうよっ、私の気の所為! 気の所為なんだからねリョウコ!!!!
――ガチャ。
「申し訳ありませんでしたあああああ!!!!」
「リョウコか?」
扉が開いたことで、色々限界点を越えてしまった私は叫んだ、ええ、叫びましたとも! このまま泣くかと思ったわよ、聞いたことのある此の声が聞こえていなかったら泣いてたわよ!!
「え、……ハヤ先輩?」
「嗚呼、俺だよ」
な、な、何だ、本当に良かった……!
扉から顔を出したのは、普段掛けている眼鏡を外したままのハヤ先輩だった。私の様子に気付いた先輩はくすくすと笑い、「驚いたか?」なんて意地悪く尋ねてきた。
「先輩! 驚かせないで下さい!」
「そんなつもりは無かったんだ、足音が聞こえたから様子を見に来ただけで」
そりゃあ分かってるですけど、ハヤ先輩がそんなことするはずは無いし、分かってはいるけど一度言っておかないと落ち着かなくて。
「で、何してるんだお前」
「え、あ、其の……」
迷いました。率直に言ったら、一瞬キョトン顔になったハヤ先輩が後にははっ、と笑みを零した。
「親に電話してたんだ、部屋で掛けるとサチトを起こすから」
身体のこともあって心配性なのだと、ハヤ先輩は溜息交じりに呟いた。
「サチト先輩なら、一度寝たら起きなさそうですけどね」
「ああ見えて眠りは浅いみたいだ、入れば深いとか、どれだけナイーブなんだあいつは」
部屋まで送ってくれるというハヤ先輩に次いで歩きながら、たわいない話をする。こうやって一対一で話す機会はあまり無いけれど、ハヤ先輩なだけあって凄く話しやすかった。
「ほら、此処だ」
「本ッ当すみませんでした……!」
「良いさ、此処は確かに分かりにくい造りになっているしな」
そんな分かりにくい造りの中、眼鏡すら無しで他の人の部屋すら把握しているアナタが凄過ぎます。
「宿題は終わりそうか?」
「あ、はい! 馬鹿二人を除けば、明日には!」
「馬鹿二人で通じてしまうのが恐ろしいところだな」
元気良く言った私に、ふっ、と笑ったハヤ先輩。其れだけを聞けば長居するでもなく、「じゃあな、早く寝ろよ」と私に手を上げた。
「あ、はい。お休みなさい」
「嗚呼、お休み」
ハヤ先輩の後ろ姿、其れだけなのになんとなく、……格好良かった。あのヒコクアサキですらがストイックで格好良いと言うくらいだものね、当たり前か。
別に何がどう変わった訳では無いけれど、私はああいうタイプの人を格好良いと思う。
……なのに何で、アイツなのかしら。
なんて。
疑問には思うけれど、――別に後悔とかはしてないわよ? ……なんてね!