39+転入生は突然に。
「――つー訳で、アサキ、頼んだぞ」
「え、何が?」
スパンッ
叩かれた。見事に頭をスパンッと。
「先生、頭を叩かないでくれないかい」
「担任にないかいとか言うな、ないかいとか」
だってないかいって気分じゃないかい。そうだ、僕はアサキじゃないかい、……もう良いよ僕。
「だから、今から来る転入生の案内をお前に任せるっつってんだ」
「何のご冗談を」
「カイリの奴がお前に任せたって言ってたぞ?」
転入生? ……嗚呼、何時の話だそんなの。めっきりすっきり忘れていたじゃないか。
「あーはいはい、了解でーす。じゃあ早めに終わらせたいので来たら早く連れて来て――」
「もう来てるぞ」
「下さい――って早いな」
流石に其の可能性は低いと思ったのに。
そんなこんなで担任サクライ先生は放課後残された僕を更に一人残して廊下へ行ってしまった。
「……チョロQ」
懐かしいな、呟いてみたけど特に意味はないよ。だって暇なんだもん。
「ニズベルグ」
此れ何だっけ。ニズベルグ……駄目だ、何なんだか全く分からない。
「ムッソリーニ」
……誰だっけ?
「オーヴィル」
あ、此れはライト兄弟の兄貴の方か、……いや違う弟だ此れ。兄貴はオリバーか何かだ。……あれ、どっちだ?
「スルメイカ」
「お前さっきから何呟いてるんだ……?」
「アンポンタン」
「俺を見て言うな」
嗚呼、先生か。何処のスルメイカなアンポンタンかと思った。サクライ先生がキレかけているのでやめておこう、で、転入生は?
「入って良いぞ」
「はい、失礼致します」
先生の後から入って来たのは私服の餓鬼だった。未だ制服届いてないとかそんなオチか。
「つー訳で、コイツがうちのトップだから後はコイツに聞いてくれ」
「分かりました、先生」
そう返事をした私服を置いて先生は消えた。……全面的に僕に押し付けやがったな、あの野郎。
「ふふっ、宜しく。私はサキネユキと言うんだ」
「あ? ええと、僕はヒコクアサキ」
ニコリと笑顔を作った奴――サキネ。何やらまた癖の強い奴女子が来たもんだ。
「君が此のクラスのクラス委員なのかい?」
「や、僕は奉仕委員、クラス委員はロクジョーって奴」
またの名を馬鹿と言う。しかし転入生に無駄に知識を入れるのは止そう。
「ロクジョー……さん?」
「君」
「嗚呼失礼。まぁ彼に挨拶をするのは君達がスキーから帰ってきてからにするとするよ」
「そうだな」
日曜日からのスキー林間だ、サキネが来るのは其の後だと聞いている。とりあえずどうするか……。
「サキネ」
「ユキでいいよ、私もアサキと呼ばせて貰いたいからね。是非友達になって欲しいな」
「じゃあ……ユキ、何処に案内して欲しい?」
「うん、そうだね……私は読書が好きなんだ。図書室の場所が知りたいね」
「了解」
そう言ってからグータラとしていた席を立つ。実にかったるいがそういう訳にはいかないだろうしな。
「此処が図書室」
「うわぁ……沢山の蔵書があるんだね……!!」
図書室に案内すると、サキネ……否、ユキは眼を輝かせてそう言った。本が好き、と言った言葉に嘘はなかった様だ。
「アサキ、少し中を見せて貰っても構わないかい?」
「五分以内」
「実に良い配分だ」
そう言ってユキは中に入っていく。僕は嫌という程図書室の本は読み耽ったので、廊下で待つこととする。
「――あ、あれ、ヒコクアサキ?」
「其の呼び方は」
横を見る。案の定其処に居たのはカトウだ。
「何よ、何でこんなところに居るのよアンタは……! こんな格好見られちゃって凄くハズカシイんだけど……!!!!」
何かごちゃごちゃ言っているがあまり聞こえない、何言ってんだあいつ……?
カトウは部活中なのか、体育着にジャージ、そしてウインドブレーカーというセットを着込んでいた。
「カトウ」
「何よ!」
「君何部?」
「私はバドミントン部よ! 何か問題ある!?」
無ぇよ。
「あ、アナタは何やってるのよ? こんな所で……!」
「僕は――」
「アサキ、もう良い、待たせてすまないね」
「平気だ」
良いタイミングで出て来たユキ。何やら一物ありそうな笑顔だな、会った時からそんな感じ。
「うん? こちらの運動部さんは君の友達かい?」
「ああ、とりあえず」
「……あ、え……?」
「そうか、ならば挨拶をしなければね」
ユキは相変わらずの笑顔でカトウに向き直って、
「私はサキネユキ、今後お世話になるよ」
そう述べましたとさ。
「ユキは今度転校してくるんだって」
何故か唖然なカトウ、どうした。
「い、今……アサキって……? そしてヒコクアサキはユキって呼び捨てで……何なのよ此の人……負けないんだから……!!」
カトウがまたブツブツ言っている、一体何を言っているんだ……?
と思ったらダッシュで廊下を駆けていってしまった。……一体何だったんだあいつは。
「おや、一体どうしたというんだろうね、彼女は……?」
「さぁ」
「ふふっ、アサキも分からないのか。何となくならば私にも分かったというのに……」
ならば教えて欲しいね。
「ではアサキ、次に行こうか。そうだな……施設は通い始めてから君に聞くとして、先程の彼女がやっているような部活が見たいね」
「お前、通い始めてって……全部僕に聞くつもりなのか?」
「駄目なのかい?」
「駄目じゃないけど……友達とか作って聞けば?」
「……嗚呼、そういうことか。アサキ、君は勘違いをしている様だね? 言っておくけれど私は――」
――確かに勘違いをしていたみたいだ。其れを聞いて気付いた、そういう事か。というか、もしやカトウも勘違いを?
ま、其れは転入日になればどうとでもなるだろ。