384+疲れようとも突っ込め!
「――ふざけないでくれるかしら?」
マヒルだ。夏休みは夏休みだが、何やかんやで大学に通う日々が続いている。まぁ、そう長い時間居る訳でもなく、午前中に用事が終わったりすることが多いんだが。
今日も例に洩れず午前中に為すべきことを終え、たにも関わらずセツが学食で飯を食っていきたいと言うから其れに付き合うことにして、だ。
「悪いのはあなたでしょう? なのにひとつの謝罪も無いなんておかしくなあい?」
――心底帰っておけば良かったと、思ったのは恐らくセツも同じだろうな。
此処から離れた所で、聞き慣れたウミの声がした。人込みだらけで場所までは未だ判明出来ていないが、……嫌な予感がする。
「なぁ、セツ」
「……ん」
食べていたカレーのスプーンを置いたセツが、首と視線で其方を差す。どうやら先に場所を見つけたらしい。
「また何かやらかしてんのかね」
「其の前に退散してぇ……」
目は悪くない方だが、遠くてあまりよく見えない。ちらほらと歩く学生の狭間から見えたのは、やはりウミの爽やかな笑みを浮かべる姿で。
今度は何やってんだよ……と、セツ共々溜息を吐いた。というのも、ウミが学食で騒ぎを起こすなんていうのは今に始まった訳じゃなかったりする。寧ろ俺達の初対面はウミが学食で暴行を働いていたことで起こり得たもんで――無論、正義の鉄槌的意味で――、其れ以来ウミがたまに起こす問題は、大抵此処学食で起こることが多い。
そして今回もきっとそう。ほら、晴れた視界にはウミと、恐らく友人の女子学生、其れに、見知らぬ男子学生が――――ん?
「ちょっ、ちょいセツ! あれはやばくないか……?」
「は? ……は!?」
何時もはそう、見知らぬ男子学生――とは言え俺は大抵見たことのある学生だが――に喧嘩を吹っ掛けているんだが。今日ウミが喧嘩を吹っ掛けてんのは――
「どうしてああなった……!」
「何でうちの学部長!?」
ということで、大学の教員にだった。セツにすら呆れられる事態とかウミ、お前も大分問題児になってきたぜ……!?
「おいマヒル、巻き込まれる前に出ようぜ」
「良いけど、お前飯は」
「飯よかアレに巻き込まれる方がよっぽどだろ!」
がやがやとした喧騒に紛れウミの声は聞こえなくなってしまった為、彼等がどんな会話をしているかは分からない。けれど一瞥だけ、ウミがちらりと此方を見た気がして――俺とセツは機敏な動きで姿勢を低くした。
「何でバレた!?」
「お前が逃げようとしたからじゃね?」
「お前も賛同したじゃねーか……!」
周りは騒がしくそうする必要は無いけれど、何故かワントーン声音を落としひそひそと声を潜める俺達。ウミ元凶の問題に巻き込まれたことなんて腐る程あるが、今回は出来ることなら見なかったことにしたい。学生なら未だしも、うちの学部の長だぞ、下手なことになったらどうしてくれるってんだ。
――けど。
「さぁセツ、二者択一の時間だ」
怪訝そうな顔でウミが居る方向をリアルな低姿勢で見遣るセツに――まぁ俺もだが――、俺は苦笑しながら言った。
「んもうっ、何であんなくそオヤジに私が頭下げなきゃいけないのよ! というかあなた達も! 何もしてないんだから頭なんて下げないでくれる!?」
「喧 嘩 売 る 相 手 !!」
「……悪いのは私達じゃないのよ。ねぇマヒル、其れは分かってくれるわよね?」
「嗚呼、分かってるよ」
『今行ってあいつと一緒に平謝りして愚痴聞くのと、後で(※理不尽に)怒られるの、どっちが良いよ』
『俺は嫌なことは先にやっちまいたい性質だ』
『同感』
そう言ってから立ち上がり、言葉通りの後ウミを回収した俺達。
必死な表情で俺を見るからそう言ってやれば、「なら、もう良いわ」なんて言って微笑んだ。もっと愚痴られるかと思ったんだが。
けれど此れ以上何か言ったらまた振り返すだけだろうし、満足そうに歩くウミと、疲れたように溜息を漏らすセツの後ろを歩く俺だった。
「結局、何があったんだ?」
「授業、もっとまともにやんなさいっていってやっただけよ。……女の子ばっかに視線流してないでね」
――確かに、ウミの勝ちだなこりゃ。