381+姉として。
「コトナー! コットナー!! 居るかー?」
リョウコです。自宅なはずなんだけれど、何故かしら、ユズ君の声がする。妹を探しているみたいだけれど、コトナならほんの少し前何か買いに行くって出てったばかりなのよね。
「ユズ君?」
「あ、リョウコちゃんおっじゃまー。コトナは?」
昼間は両親居ないから、私かコトナしか居ない。ユズ君も其れ知ってるから入って来たのかしら。
もう中学二年生だというのに幼馴染の女の子ん家に普通に入って来ちゃうユズ君は、リビングの私を見つけるなり首を傾げてそう尋ねた。私とモモは中学からの仲なのに、此の二人って保育園からだからより仲が良いのよね、……まぁ、脈はあるんだか無いんだか分からないけれど。
「コトナならちょっと前に出掛けたわよ?」
「あ、そなん? 何処?」
「多分雑貨屋かしら」
「はぁ!? 何で俺に声掛けねぇんだよ!! 超行きたかった! かも!」
普通雑貨屋行くのに同学年の男子は誘わないんじゃないかしら。
「直ぐ帰って来ると思うけど」
「むー、うーい、んじゃ待ってる。今日一緒に遊ぶ約束だし」
「……羨ましいじゃない」
「何か言った?」
「いえ、今飲み物出すわね」
つい口が滑った……!
でも本当に羨ましいわよ、何よコトナの奴、意中の人と遊ぶ約束って何よ其れ。幼馴染効果? 幼馴染だから成し得られるの!?
「二人で何処か行くの?」
「んー、決めてないから多分家で人生ゲームする」
「二人で人生ゲームって何が楽しいのよ其れ……!」
つい注いでいる飲み物零しそうになったわ。二人で人生ゲームってある意味素敵過ぎるわよ。
「あ、夜になったらリョウコちゃんもうち来てな」
「ん? また何か作ったの?」
「おう! 今回は冷たいものブームに乗っかりましてひえひえの――」
うん、此処から聞かなくて良いわ、長いから。(※此れが慣れです)
「でもさ、正直なところ、」
「ん?」
直ぐ帰ってくると思っていたコトナはなかなか帰って来ず、ユズ君が自宅宛らにテレビを見始めてから。
「中学生にもなって女の子と遊ぶって、ユズ君友達に何か言われたりしないの?」
二人がずっと仲良し――まぁコトナはちょっと違うんだけど――なのは姉である私が良く知ってることなんだけど、年頃の子って結構そういうの気にするじゃない? コトナはまぁ良いとしても、ユズ君はどう思ってるのかしら。
「言われるぜー」
ユズ君テレビに夢中で興味なさそうだわ。
「でもー、ずっと仲良かったコトナと遊んでるのとやかく言われるのもなー」
けれど夢中なら夢中なりに、ちゃんと答えてくれているようだった。
「俺は気にしないかなー」
「……そう、」
其れは良かったかな。別に、あの愚妹を応援とかそういうんじゃないけれど、
(好きになった人は、間違ってないってことかな)
姉として、改めて安心したかも。
「まぁ、コトナが迷惑だったらアレだが」
「其れは無いわね」
「……え?」
「……ははっ!」
他人を気遣う台詞に間髪入れず否定すれば、ユズ君は素っ頓狂な声を上げて首を傾げた。つい笑ってしまったけれど、家の戸が開く音がしたから聞かれなくて済んだ。丁度コトナが帰って来たみたい。
「ただい――」
「コトナー! 遅ぇ!」
開口一番に怒られてる我が愚妹。
「ごめんなさいユズ、途中で自転車のチェーンが外れてしまって」
「俺との約束忘れたんかと思――」
「其れだけは無いから安心して」
表情変化はやはり無いのだけれど、私から見れば何時も以上に鋭く訂正を入れた。他のどんなことを忘れても、ユズ君との約束だけは忘れないわよね、アンタ。
「……マジ?」
「マジ」
「なら良いや、チャリ大丈夫なん? 俺直そか」
「お願いしても良いかしら」
「任しとけ!」
訝しげにコトナを見たユズ君、返事を聞けばぱっと笑みを浮かべ、元気良く外に向かっていった。勿論、コトナも一緒に。
ユズ君ってモモに似て、お世辞にも格好良いじゃなく可愛いだけど。背は最近伸びてるみたい、でもコトナより大きくはならないんじゃないかな、なんて。
――でも、コトナはユズ君が良いみたいだし。
見守りましょうか、姉として。