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378+乙女は走る、何処だって。


 リョウコです、母親に頼まれて愚妹と買い物に来てます。久し振りだわ、二人だけで買い物とか。っていうか髪型とか服装とか適当だけど、別に構いやしないわよね。


「お姉ちゃん、私に甘いものを恵めば宿題が捗るわ」


「はいはい、素直に買いたいって言いなさいよ」


 本当に宿題が捗るのかどうかは定かじゃないんだけど、言えば大抵は買ってあげるわよ。うちのお母さんの甘さナメちゃいけないんだからね、頼まれたものより余分に渡されたお金の方が多いってどれだけなのよ。


「何買いたいの?」


「此処から此処まで大人買いするというのが夢ね」


「今アンタの夢聞いてないわよ」


「夢を育てるのも姉の役目だと思わない?」


「もう二年くらいしたら考えてあげても良いわ」


「ちゃんと高校に行けってことね、お姉ちゃん酷く鬼畜」


 何とでも言いなさい、アンタはどうせ宿題に飽きて着いて来ただけなんだから。

 選ばせてたら長いので――私もなんだけどね――、一人先に頼まれたものを買いに行くことにした。どうせ直ぐには決まらないんだから大丈夫でしょ、そういうところ、私にそっくりなんだから私が一番良く分かる。




「――ええと、野菜野菜……」


「あ、リョウちゃん」


「え?」


 買い物リストに目を通して、カートの向きを変えたのとほぼ同時。誰かに呼ばれて動きを止めれば、其処には案の定ヒコクユウヤが居た。


「ちょっ、アンタ何で居るのよ……! 知り合いに会わないと思って適当な格好してきちゃったのに……!!」


「え、大丈夫だよ、リョウちゃんはそのままで充分だよ」


 礼を言うべきなのか分からないわよ其のフォロー……!


「でも、まぁ、……奇遇ね」


「だね、リョウちゃんが買い物なんてめっずらしー」


「べ、別に珍しくなんて無いわよ? 何時も母さんの手伝いで買い物に――」


「野菜はあっちだよ、リョウちゃん」


 独り言聞かれてた……! っていうか行こうとしてたのと真逆方向指差されたんですけど! あ、あれ? 此のお店配置変わった……?


「さ、先に違うものを買いに行こうとしただけだから……!」


「あ、そなの?」


 何だごめん、と笑うヒコクユウヤ、見るからに買い物慣れしてるわ。


「リョウちゃんは夕飯の買い出しか何か?」


「ん、そんなところよ。アナタは?」


「俺もだよ。まぁ、何にしようかは未だ決めてないんだけどね」


 未だ空に近いカゴを引っ提げて彼は言う。……今更だけど、同学年の男子なのにコイツ毎日の様にご飯作ったり洗濯したり、って家事熟してんのよね……頭の良し悪しはともかく、そういうところは尊敬するわ。しかも其れ、一人分じゃなくて二人分でしょう? お父様もお母様も滅多に家に居ないらしいし、……んー、やっぱり凄い、私には此の歳から毎日家事なんて考えられないわよ。


「毎日大変ね」


「そう? 楽しいけどね? ……え、何が?」


 理解してないのに楽しいのね。


「買い物とかよ。家事とかも毎日、アンタがやってるんでしょう?」


「あ、そういう。まぁ、俺が好きでやってるから苦じゃないけどねー、やっぱり楽しいよっ!」


 ヒコクユウヤは言葉通り、とても楽しそうに笑った。……私には真似出来ないわ。


「家族が喜んでくれるし、世話するのとかも好きだから、俺!」


「世話するのは主に一人でしょ……」


「まぁそうなんですが」


 世話し甲斐のありそうな彼の弟を思い浮かべ、私も世話し甲斐のある妹なら世話してやりたくなるのかしら、と考える。思考二秒でやめた、あの子は今でも充分世話し甲斐あり過ぎだわ。



「でも、最近はちゃんと手伝ってくれたりするんだよ?」


「……彼が?」


「うん、勿論」


 満足そうに頷く目の前の彼には悪いけれど、あまり想像は出来ない。


「ああ見えて優しいんだよ」


「……」



「……あ、ごめんリョウちゃんは知ってたよ――」

「五月蝿いわねアンタ!!!!」


 お店で何てこと言うのよ!! っていうか叫ばせないでよご迷惑じゃないすみませんでした!!!!



「――って訳で、」


 私が息と調子を整えている間、ヒコクユウヤはもう一度、私を見て楽しそうに笑った。




「――あれ、カトウだ」


「え?」


 他方からまた呼ばれた、自然と首を其方に向ければ、其処には。



「――今日はアサ君にも、買い物付き合って貰ってるんだよね」



 無論、ヒコクアサキが居た訳で。手には頼まれたんだか分からないけど、数種類の食材の束。

 其れをバサッ、とヒコクユウヤの持つカゴに入れる彼。


「……あ、」


「……あ?」


 夏休み入って未だ少ししか経ってないのに見るの久し振りだなぁ、とか、今日も暑かったのに買い物付き合うなんてやっぱり優しいなぁ、とか、色々考えたんだけどね? そんなことより最初に浮かんだものがあった。――やばい、私今すっごい適当な格好してるんだった。


「あははははは! 久し振りねぇヒコクアサキも!」


「うん、数日振り」


「それじゃあ私は買い物の続きがあるから、じゃあね!!!!」


「じゃ」


「あ、リョウちゃん!」


 呼ばれたけど気にしない、私は超特急でカートをかっ飛ばした。あああああ早く帰ろうもう一度ばったり会う前に帰るったら帰る!!!!






「コトナ! 早く選びなさい!」


「あらお姉ちゃん、今日はせっかちね」


「良いから!」


「分かったわ、此れにする」


「じゃあ行くわよ!!」


「お姉ちゃん、何かお野菜頼まれてなかったかしら?」


「――忘れてた……!」



 買い物リストを買い揃えてからコトナの元へ向かい、直ぐさまそんな会話をしたんだけれど。――実は此の会話が隣の列で飲み物を選んでいた、ヒコクアサキに聞かれていたなんてこと私は未だ――というか一生――知らない。





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