377+重なる影と久しい笑顔。
「カイちゃ〜ん!」
カイリだ、寝起きだ。
正確には姉ちゃんに呼ばれた気がして目ぇ覚めたばっかなんだが、其れは夢の中の話か? 何か無い限り何時まで寝てても起こされねぇからな、夏休み万歳。
「カーイーちゃ〜ん」
あ、夢じゃなかった。
「お友達が来てるわよ〜!」
一階からのそんな声に仕方なく起き上がる。友達? アサキとかユキなら姉ちゃん名前で言うし、一体誰が来たってんだ。割れながら覚束ねぇ足取りで階段下れば、姉ちゃんは何時も通り笑顔で、「礼儀正しい女の子だったわよ〜」なんて情報をくれた。…………は? 誰?
「へいへいどなた」
「私だ」
「……お前かいミノル」
玄関の戸開けたら直ぐ返事が帰って来た、何時も以上に増してキリッとしてるがどうしたよおい、そしてもうひとつ。
「お前何で俺ん家知ってんだ?」
教えてねぇよな、以前にお前ん家かなり遠いんじゃなかったか?
ミノルは寝起きの俺に起こしてすまなかった、とひとつ謝罪を入れてから、取り出した携帯電話を手に一言、
「GPS万歳」
とだけ呟いた。……嗚呼、登録されてた住所おって来たのな、文明の利器流石。
「すまない、案内してもらって」
「べっつに気にすんな、リョウコん家なんざ十分もありゃ着くぜ」
着替えを済ました俺は今、ミノルに道案内をしている。どうやらリョウコん家に行きたかったらしいんだが、土地勘無ぇらしく迷ったんだと。車で近くまで送ってもらったらしいのに何故其処から俺ん家の近くまで来ちまったのかは謎だが、まぁ予定も無ぇし連れてってやるのも良いだろう。
「此処いらにゃ来たこと無ぇん?」
「嗚呼、全く」
ふるふると振られる首。
ま、ただの住宅だし来る必要も無ぇか。
「アサキ達ん家も此処らだぜ」
「そうなのか? ご近所さんなんだな」
「中学一緒だからな」
「私もテナとはご近所だ、近くに友人宅があるのは良いものだと感じているよ」
「俺も俺も、特に切羽詰まり過ぎた夏休み最終日とか」
「……宿題か」
「はっは当たりィ!」
近所にあれば直ぐに助けを求めに走れるからな! ミノルは何とも言えない表情をしたが、俺は何も見ていない。
「つーか、何でリョウコに連絡しなかったんだ?」
「嗚呼、其れは単純にリョウコが約束の刻ぎりぎりまで出掛けていると言っていてな。……本当はカイリ、お前が寝ていたら仕方ないがリョウコに連絡をと思っていたんだ……まぁ、結果起こしてしまったがな」
お前の姉君はせっかちさんなのだな、とミノルは溜息を吐いた。寝ているなら良い、と断る前に俺を起こし出してしまったんだろう。姉ちゃんは確かに早い、何が早いって切替が一番早い。喜怒哀楽の切替が特に早い。
「姉ちゃんは俺と違って優秀だからなぁ、弟のダチ待たしちゃいけねぇと思ったんだろ。――頭はどっこいどっこいっぽいけど」
「……ははっ、似た者姉弟、という訳だな」
ミノルは朗らかに笑みを浮かべる、……そういう笑顔はユキに似て爽やかなのなお前。
「――今こうやって、困った友人の道案内をしてくれる心優しき御仁にそっくりだ」
「……へいへい」
そんな煽てたって、何も出ねぇんだけどな。
ミノルを無事送り届けて、家に帰れば。
「カイちゃん、携帯光ってたわよ?」
「へい?」
持って行き忘れた携帯のことを言われ、数回瞬きしてから其れを開く。
「……ははっ」
来ていたメールはユキからだった。
何てことない文面を読んで、何となく笑えた俺。別に何か言いたい訳じゃあ無ぇけれど、久しく見てねぇユキの顔でも見に行くか、と思った。
勿論、アサキも誘ってな。