367+笑顔の夕方。
リョウコです! 久し振りにモモの家に遊びに来たんだけど、学校帰りにアポ無しで来たからユズ君しか居なかったわ。
「リョウコちゃん、そういやコトナは?」
「コトナ? あの子ならテストが近いとか言って机にかじりついてたわよ、何時からなの?」
麦茶を運んできてくれたユズ君にそう尋ねたら、「明日」と簡潔に答えを返されあの子しねばいいのにと心の中だけで唱えた。どいつもこいつも馬鹿のやることは本当変わらないのね! 一夜漬け以外の道が馬鹿には無いのかしら!!
中学二年のユズ君とコトナはなんやかんやで一年からずっと同じクラスらしく、調子乗ってたから今日は置いてきた。大抵は一緒に来るんだけどね。
「ユズ君は勉強とか、苦労してないの?」
「まぁ、苦労って程では無いかな。八割程度って感じ?」
モモが来るまで相手をしてくれるらしいユズ君は、自分の分の麦茶を一気飲みしてそう笑った。笑顔はお姉ちゃんそっくりなのに頭の良さは雲泥の差みたい、……口には出せないけど。
「分からないところは姉ちゃんに聞いたりすっから、……勿論ろくな答は返って来ねぇけど」
…………ごめんモモフォロー出来ない!!
「と言っても、今まで解決出来ないくらい難しい問いに立ち向かったことなんて無いからなぁ。だからそん時はリョウコちゃんに聞きに行くよ」
「……私もそんなに頭良い訳じゃないのよ?」
「いやぁ、姉ちゃんと比べると」
「……………………」
「――リョウちゃんごめんねなんか際どい問いに直面させて」
「きゃあ!!!!」
どう答えることがモモの姉としての威厳を保つことに繋がるか考えていれば、いつの間にか張本人が真後ろに立っていた。心臓に悪いというかどう回ったのよ!!
「ちょっ、と、モモ!?」
「こんにちはリョウちゃん、……あ、もうこんばんはかな〜」
「そうね、こんばんは、――じゃなくて!!」
「姉ちゃん、今日母さん遅くなるってよ」
「あ、そうなんだ〜」
此ののほほん姉弟どうしてくれよう。
「其れにしてもリョウちゃん、ちょっと振り〜」
「えぇ、少し振り」
俺は此れから城に引っ込むぜ! と言って――キッチンにね――ユズ君が引っ込んで。ほんの少し会わなかっただけなのにちょっとだけ懐かしいモモの笑顔に和んだ。 ……うん、……忙しいという訳では無いけれど、此れから先自然とこうやって会わなくなっていっちゃうんじゃないかって急に不安になった。
「何かご用事だったの?」
「ううん、たまには会いに行こうかと思っただけよ」
「そっか〜」
にこにこと微笑むモモにつられて笑う。高校に遊びに来た二人を見て会いたくなったっていうのもあるんだけど、……何となく、やっぱり良いな、って思う。
「ねぇモモ」
「ん? なあにリョウちゃん」
「夏休み、久し振りに二人でどっか遊びに行こっか」
「そうだね〜、最近二人で出掛けてなかったもんね〜」
皆で出掛けたりすることは多かったけど、中学の時は学校帰りに二人で出掛けたりしてたのよね。
「楽しみだな〜」
夏休みが楽しみだよ〜、と、笑うモモ。滅多に思うことは無いけれど、――やっぱり、会えないのって寂しいことなのよね。
本当に用事無く来たのに、ちょっとナイーブになっちゃった。……嫌ね私ったら、此れから会えなくなる訳でも無いのに。
「私、やっぱりモモと同じ学校行きたかったかも」
「えへへっ、私もだよ。……学校で何かあったの?」
「あ、ううん! 違うわよ? 心配掛けてごめんね」
「ううん、私こそ勘違いしてごめんね」
あー、……和む。
ナイーブな気持ちが飛んでいく、やっぱり私、モモと居るのは凄く落ち着くみたい。テスト前だからかしら?
ほんの少しほのぼのした、夕暮れ時だった。