364+絶好日和? 体育祭!/午後7
ユウヤでっす! 待ちに待ったぜ此の時を!!
「ふっふっふっふっふっ」
「不気味なんですけど」
其れは仕方ないってもんさ! 今年こそ、今年こそはと思って俺は生きてきたんだから! 大袈裟だけども!!
最後尾に並んでいる俺の横で、アサ君はかったるそうに俺を見た。此れが王者の余裕ってやつかい。
体育祭もクライマックス、此のクラス対抗リレーを〆として今年も体育祭が終わる。去年は馬鹿な奴等に邪魔されてちゃんと勝負出来なかったけど――捻挫した足で走られて負けたとかもう何か無い――、今年こそはアサキに勝ってやるんだ……! ――と、意気込んでる訳です、俺一人で。
「絶対勝つ!」
「勝手にすれば、やれるもんなら」
興味無い癖に自信満々なんだからこいつ! 其のニヒル過ぎる笑みが憎たらしいけど、俺は怒らない。何せ今年は勝てる算段ってものがあるからさ! 何と、アンカーだけトラック一周! ちなみに他の人は半周なんだぞ☆
「アサキが体力一周保つはず無いんだから……!」
本人の目の前でそんなことを呟いたけど、其の本人は至って冷静に俺を見ただけだった。
パァン!
「新しいの赤だっていうんだけど、やっぱり青のが良いかな」
「ゼン君は赤が良いな」
「そうなの? 僕は青で良いかな、カイ君買うのかしら」
「今のところ興味無いみたいよ、何かめぼしいソフト出たら買うっぽいこと言ってた気が」
――競技が始まったのに、一組の二人の話は専ら某ゲーム器の話だった。
アサ君の前に座るゼン君はどうやらアンカーふたつ前に配置されているらしく、競技開始の音に見向きもせず空を見上げながら会話していた。――やる気無いなお前達!!
「もうっ、やる気とか無いの!? 俺こんなに張り切ってんのに!!」
「無ぇよ」
「ゼン君走り回り過ぎて疲れたー」
嗚呼、ゼン君はお疲れ、っていうかアサ君もだよね、お疲れ!
「ゆっ君も赤良いと思わない?」
「うん、俺も買うなら赤。でも俺そんなにゲームしないし、アサ君の借りれば良いかな――って、だから違くて!」
俺がツッコミって駄目だよ此の事態!! いや最近結構多いけど!!!!
そうやって俺が一人でヒートアップしているのに見兼ねた訳ではないだろうけど、ふと、――頬にぽたりと雫が落ちてきた。といっても、俺が其れを雫だと認識したのは頬に触れてからなんだけど。
「……雨?」
延々と曇り空だった白が、とうとう泣き出してしまった、とでも言おうか。俺ってば詩人。
俺の一言で空を見上げた二人、片方は実に嫌そうに、片方は元から悟っていたかのように微笑んで。
「もう少し保って欲しかったんだけどねー」
「天候に文句言っても仕方ない」
「ですよね」
ゼン君は溜息ひとつで立ち上がり、気付けばもう回って来てるし、とトラックに向かった。
「あっ君、ファイツだよ」
「何故に複数形」
一度降り出した雨は箍が外れたように徐々に本降りになっていく。アスカは大丈夫かな、なんて暢気なことを考えつつ俺は、絶対勝ってやる、とか、馬鹿みたいに同じことばかり考えていた。
――まぁでも、うちのクラス得点的に既にボロ負けなんだけどね!
『火事場の馬鹿力というのは本来人間が規制している力も火事場のような危機的状況に陥った時規制が解け発揮出来るという意味なんだ!』
『へぇ! で、今は其の時なの!?』
『無論!! 貴様になんざ一生抜かれるかよ!!!!』
『テンメェ普段其の力何処に隠してんだよ……!』
『知るかばーか一生負け犬やってろ!!!!』
って怒鳴りながら走ったのは何時以来だろうか。結果は無論――悔しいけど――アサキに軍配は上がった。珍しくバトンも同時に回ってきて、此れは勝てるんじゃないかなんて夢見たものだが其処はアサキ、気持ち悪いくらい気持ち悪かった。
「アサキ君凄かったっすね!」
「お前のずっこけ具合も凄かったけどな」
「み、見てたんすか!?」
「まぁ、うん」
三組のシギ君も出てはいたけど、バトン受け渡し直後に盛大にずっこけて今回のユーモア賞にノミネートされていた(※アサキの)。
「一度減速してから一気に行ったからな……、アサキ、お前は陸上部に入るべきだ」
ミノルちゃんが本気の目でアサキを勧誘している、残念だけど此の子運動部には靡かないよ。
ミノルちゃんの言う通り、俺は途中まで本気で此れはキタと思っていた。何せ半周した位置でアサキは一度減速して、俺が普通に抜いたから。なのに我が弟は其処から息を吹き返し、あろうことか再び俺と並走して戯言を交わしてから抜いていきやがった。本当、そんな体力何処にあったの……!
「お疲れ様でーす、皆さーん」
俺はムカムカしていたはずなんだけど、少し離れたところに居るアスカとユキちゃん見たらどうでも良くなった。
「アスカー!!!!」
「……知り合いか?」
「中学の時のね。遊びに来てたみたい」
「きゃは☆ 超格好良い! ああいうタイプもテナ嫌いじゃないよお? …………あっちの人もオトコノコだよ、……ね?」
「あっはっは聞こえているよ少女!」
ユキちゃんを指差すテナちゃんにも、ユキちゃんは楽しそうである。慣れっこって凄い。初対面の人達も居るけどまぁ、あまり深く気にしちゃいないみたいだから良かった、究極のサボり魔だからなぁ二人共。
「結局、最後まで居たんだね」
「帰っても暇なだけですから」
若干びしょ濡れ――変な表現だけど――なアサ君に傘を差すシギ君はアスカと会話するアサキをキョトン顔で見遣っていた。良く分からないけど珍しいのかな。……何が?
「ですが、そろそろお暇しようと思いますので声を掛けた次第です」
「そっか」
そうか、帰っちゃうのか。折角久し振りに会えたのにあまり話せなかったなぁとちょっと残念。
「また今度皆で遊ぼうね! ねっ、リョウちゃん!」
「え? 私?」
「そうだよっ、最近俺モモちゃんに会ってないし!」
「……ラン、学校行けてんの……?」
「失礼なこと言ったでしょヒコクアサキ!! 幾らあの子が馬鹿でも進級くらいは…………」
「リョウコ、間が怖いのだが」
「モモさん、大丈夫なんですか……?」
「だ、だいっ、大丈ッ夫……だと……」
次の休み会いに行くわ……! リョウちゃんはわなわなと戦いた様子でそう決意したらしい。モモちゃん……大丈夫、大丈夫だよね! 俺が進級出来てんだからさ! あ、あはははは……!!
カイリ君に宜しくお伝え下さい、それじゃあね! ――ゼン君と共に実行委員の方へ出掛けたカイト君にそう残して二人は帰って行った。
「……此の後、」
後はショートだけだなぁ、なんて考えて校舎に向かっていれば。アサキが皆の方なんて見ずに呟いた。
「朝、ゼン君が皆で打ち上げしようって言ってた」
ふと思い出したように呟かれた其れに、何人かと顔を見合わす俺。っていうか、
「え……、万が一にもアサキ行くの?」
そういうイベント後のお疲れ様会みたいの、中学の時から嫌いじゃなかったっけ? けれどアサキは小さくながら頷いて、俺及び元中のリョウちゃんをも驚かせた。
「だ、だって雨だよ!?」
「たまには良い」
「アンタさっきの全力ダッシュで足ガックガクだったじゃない!」
「もう治った」
高校メンツはそんな俺達の様子に苦笑していたけど、俺達からすれば当たり前の驚愕である。
散々言い募ってみてから少し落ち着くと、アサ君が若干不機嫌なことに気付く。むってしてる、可愛――何でもない。でも多分リョウちゃんはそう思ってるんでしょうね、――顔がそう言ってる。
「二人共、僕が居るのそんなに不満?」
「――そんなことない!」
「――そんなことある訳ないでしょ!?」
俺は別に良いけど、リョウちゃんはある意味口走ってる気がする。テナちゃんにニヤニヤされとる。
「不満なんて多分誰も無いっすよ、皆アサキ君のことが大好きなんすから」
そして極めつけにシギ君の此の一言。リョウちゃんが顔を赤くするには充分だった。
「なっ、何馬鹿なこと言ってんのアンタ! 馬鹿じゃないの!?」
「二回馬鹿って言われたっす……!」
「まぁまぁリョウコお、テナもあっ君大好きだよお? 勉強教えてくれるしい」
「其処なんだ」
此処に居ないゼン君やカイト君が居たら、悪乗りしてアサ君にぶちのめされること山の如しだろうなぁ。
クラスに戻ってきたカイト君に打ち上げ行こう! って言ったら恐らく即オッケーだろうから。打ち上げなんて珍しいこと出来るのはアサキの機嫌が良いのが主な要因だろうから、目一杯楽しもうと心に決めた俺だった。
ちなみに優勝は四組だった、全然関係無ぇ。