358+絶好日和? 体育祭!/午後2
「アッサくーん!」
「あ?」
相変わらず続くよ、ユウヤだよ!
普段は直ぐ其処ら辺で寝転がっちゃう弟が、木陰でシギ君とはっ君と三人で落ちてたテニスボール使って野球してました。バットは落ちてたポールらしい、これで三人とも文化部だから笑っちゃうよね! 人のこと言えないとか言わない!!
現在バッターのアサ君はポールを肩にしょい上げてこっちに来てくれた、珍しく元気だし機嫌が良くてお兄ちゃんびっくり。
「ゼン君が呼んでたってさー」
「ゼン君? また何かやらかされたんか」
「そーみたい」
滅多に無いご機嫌モードのアサ君の機嫌を損ねるか否か不安だったけど案外平気だった。くるりと振り返って「フドウ、ちょっと出てくるから此れ」とポールをシギ君に投げたけど、棒なので軌道が逸れてかなり飛んでった。
「いー! あー! とっ! いってらっしゃいっす!!」
「さっすがシギー。はい、いってらっしゃいアサキー」
ナイスキャッチなシギ君だった。
アサキだが。
ユウヤはクラス競技に出るからと、場所だけ聞いて来てみた――は良いが。
「あ、あー君来たあ!」
うん? 何でお前居んのドウモト。と、よく見れば其の億に見慣れた金髪が居て、其の隣にはまさかのハヤサカ先生が居た。
「アサキ、こっちこっち」
「うん、どうした」
実行委員が座るべきテント内に、何故か座っているゼン君が、今は――此処重要――笑顔で僕に手を振った。
「ハヤサカ先生まで来てどうかしたんですか」
「ヒコク君、尋ね方が違いますよ」
「――ハヤサカ先生まで来なければいけないどんな事態になってるんですか」
「宜しい」
どんな言い直させ方だよおい。というかドウモトが居るのは一体何故だ。
バインダーに挟んだ書類と昨年同様眼鏡レスのジャージ姿で対面するハヤサカ先生、確か重度の遠視とか言ってたっけか、かなり遠ざけて見ている。
「生徒会が振り回されているのには気付いていたんですが、ワタヌキ君が対処してくれていたので遠方で見守っていたんですよ」
「出来れば早めに手伝って欲しかったなゼン君」
完無視で先生は続ける。
「――昇降口の看板、あれが倒れましてね」
此処からは、何時もの先生のトーンだった。
「来賓の方々に被害は及びませんでしたが、うちの生徒が二名程怪我をしまして」
「……あの看板って確か、」
「ええ、例年万が一にも倒れ誰かが下敷きにならないよう、しかと門横に縛り付けておくことになっています」
そう、確か去年は生徒会でやっていた。僕等は未だ未所属だったけど、先輩達が見回った際にそんな話をしていたはずだ。
「あの看板は今年から変わりましてね、貴方方も見たでしょう」
「はい」
「おーよ、勿論見た」
去年見た看板は何とも堅ッ苦しい文字で堅ッ苦しく体育祭と書かれていた気がするのに対し、今年のは……何というのか、……奇抜だった。
「あれは今年実行委員が美術部に頼んで作って貰ったものなんですよ」
「……嗚呼、だから」
赤青緑、黄紫と何十色で彩られた看板を作ったのは、ドウモトが所属する美術部だったらしい。美術部に話を聞きたくて、ドウモトを呼んだって訳か。
「ねえあー君! テナ看板取り付ける時見てたけど、確かに実行委員の人、ちゃんとロープ取りに行ったんだよ!」
話の区切りを悟ったドウモトがそう言って、僕の腕を抱き込んだ。
「でもその後、多分返って来なかった! 忘れて他のお仕事始めちゃったんだよきっと!!」
折角頑張って作った看板だったのに、と、普段明るいドウモトが、若干しょげてみせた。……看板が倒れたということは、看板自体も無事では済んでないってことか。
「で、僕に何をしろと、巡回?」
「察しが良くて助かる」
其れしか無いだろう、此れ以上失敗されても困る。元を正せば馬鹿ばっかりな実行委員が悪い癖になんだってんだ。こういう仕事を普段からハヤ先輩達は、文句も言わずやっていたなんて思うと――
「……ん……?」
ちょっと待て。
そんなお人好しな先輩達が何で今居ないんだ……?
――まさか。
「ゼン君、さっき言ってた怪我人って――」
「一人は足に擦り傷だから、別に対した怪我じゃなくもう動けるはずだよ。もう一人はそっちを庇ってちょい頭打ったみたい、軽い脳震盪ってところかな」
ゼン君は、あくまで笑顔だった。
「一人はフウカ先輩、もう一人はサチトだ」
「失礼します」
「――あら、アサキ君」
保健室にやってくれば、ベッドの横に座ったフウカ先輩が僕に気付いた。此処には別に頼まれて来た訳では無い、頼まれた巡回の途中で立ち寄っただけだ。
「……大丈夫ですか」
「私は平気よ、サチトもさっき目を覚ましたけど、眠ぃってまた寝ちゃった」
若干だけ口角を上げて、フウカ先輩は言った。サチト先輩が何とも自由である、心配して損した――とか別に差ほど心配してなかったけど思ってみる。
「――どちらかと言えば、ハヤが心配」
「……?」
フウカ先輩は馬鹿面で寝入るサチト先輩――まぁ、元が良いからそうでも無いが――を凝視しつつ呟いた。
「三人で、散歩がてら巡回していたの。其の時に看板の脅威に遭って、ハヤ、多分一気に心労が募った」
「……」
今は此処に居ない先輩の後ろ姿を思い浮かべながら、フウカ先輩の話を聞いた。
「人一倍責任感が強いから、私達のことも自分の所為だって考えてる」
「え、……でも、あれは今年から――」
「実行委員の係。でも、生徒会長はハヤ」
まぁ、分かる気もする。其れを止められる人はよりにもよって今寝てるし、……というかハヤ先輩何処行った。
「ハヤは今多分だけど、旧生徒会室。さっきゼン君から実行委員の書類掻っ攫ってるのを、此処から見たから」
「仕事してるんですか」
「多分」
そんなもん、ゼン君に任せときゃ良いのに。ゼン君だってアレだろうけど、ハヤ先輩の為なら恐らくやるし。とか考えてたら、フウカ先輩が此方を見ているのに気付く。
「こう見えても、」
「はい」
「二人の心配をしています」
「はあ」
きりっとした顔で言われた、何て答えたらいいのか誰か教えてくれ。
「だから、」
何が言いたいんだろうか、そんなことも考えてみたけど、其れは考える必要は無かったらしく。
「サチトが起きたら、ハヤのところに行く。其れまでお仕事、任せて良い?」
小さい傾げられた表情に、僕は一言、
「――愚問です」
そう返した。