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351+ほんのすこしの遥かな昔。



 ――昔々あるところに、とてもとても孤独な男の子が居ました。


 幼い頃から両親はお仕事でお家には居らず、朝も夜もたったひとりで食事をし、朝も夜もひとりで過ごすのです。

 けれど男の子は両親に愛されていない訳ではありませんでした、たまにある両親の休みは何時だって一緒に居ましたし、男の子も両親のことが嫌いな訳ではありませんでした。


 けれど。


 ある日の夜中、男の子が何かに誘われるようにふと目を覚ますと、一階から人の声がしました。両親が話をしているのだろう、何となくながらそう思い音も立てず階段を下れば、予想通りに両親が、隙間分だけ開くドアの向こうで話をしていました。



 ――心配なんだよね。



 実年齢よりずっとずっと若く、息子の自分が思うにしても見た目は大分幼き母が続ける。



 ――お腹の子供達があの子のように、笑わない子になってしまったらって。



 ……あの子?

 一体誰のことを言っているのだろうか? 男の子は数度瞬きをしながらも、聞き耳を立て続けた。



 ――私がもっとちゃんとしたら、あの子は笑ってくれるのかしら。



 だから、あの子とは誰なんだ。

 男の子の頭には其の問いだけが縦横無尽に飛び交っていた、あの子とは一体誰なんだ、大好きな母を悲しませているあの子とは一体誰なんだ。



 結局答が分からぬまま、男の子は再び部屋へと戻ってきた。あの場で聞き出せば良かったのかもしれないけれど、何となくそうは出来ませんでした。

 もしかしたら、気付いていたのかもしれません。



 あの子は男の子。

 ひとりきりの生活の中、彼自身が気付かぬままに。

 喜怒哀楽という感情表情が、何処かへ消えてしまったのだと。














「――とっとと起きんかい!」


 なかなか目を覚まさない父親につい叫んだ俺、読書に耽ると本当に此の人は動かないから困る。たまの休みくらい休めよ本当に。で、寝るのは良いが書斎で寝るなよベッドで寝ろ。


「……おやマヒル、お帰りなさい」


「ただいま、――じゃねぇよ、」


 やっと起きた父さんは、普段通り暢気だった。



「折角帰って来た珍しい日曜を読書で終わらして尚且つ飯朝から食ってないってどういう?」


「……あー、……もう六時?」


 本当に此の人は……!

 俺は怒るを通り越して呆れながら、恐らく百面相する俺を見て楽しんでいる父さんに向かいひとつ溜息を吐いた。暢気だよ此の人、いやマジで。

 其れを証拠に父さんは、くすくすと様になる苦笑を零している。バイト帰りで自宅帰還した疲労困憊の息子など、……どうでも良いんだろうな……うん。



「――マヒルがこんな子で、本当に良かったな」


 父さんは急にそんなことを呟いた。一体どうした、頭でも打ったか。


「そんな訝しげに父親を見ないで下さいよ」


「いやぁもう発言が危ういんでつい」


「そんなつい嬉しくないです」


 其れでもやはり楽しげに。父さんは笑う。



「良い子じゃなくたって良いから、どうか笑顔を忘れた子だけにはならないで欲しい、って、奥さんと話したものだよ」


「……」


 何となく、断片的に思い出せる昔の自分を思い描き、俺はやはり何となく、ふっと気の抜けた笑みを零す。




「――ばっかじゃねぇの」


 笑うことは確かに少なかった、だってひとりなのに笑ってたら気色悪いだろ。


「んなこと頼まれなくたってな、」


 だから笑顔を忘れてただけ、あの頃はきっと、笑顔を忘れていたことにすら気付かなかった。


 でも今は違うだろ、俺の周りにゃ沢山の人が居るんだから。






「俺は何時でも笑ってるっつーの」


 そうやって、弟達が言うにニヒルな笑みを浮かべれば。父さんは俺よか遥か綺麗に、微笑みを浮かべたのだった。



 うん、そりゃ未だ無理だ。




最近のマヒルがシリアスターンな件。

大丈夫、次にギャグターンが来る。←

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