350+台風二号とか今年来るの早くない?
「――あっくーん……?」
「アサキ君起きないんすか?」
「……」
「あ、起きた? 起きたよね? 目ぇ合ってるよね?」
「おはようございますアサキ君!」
確かにアサキだがお前等寝起きに五月蝿いんだが。
「いやんそんなに睨まないでよ、お昼だから起こしてあげたのよゼン君達」
お昼……嗚呼、もうそんな時か――え?
驚いて、思わず勢い良く立ち上がった。ええと、学校、昼、……あれ?
「もう昼……?」
「あっ君二限からずっと寝てたよね、一回も目ぇ覚めなかったの?」
「全っ然」
ゼン君に苦笑されながらも、とりあえず今の状況を把握することにした僕だった。
今日の朝、完全に雨に降られた。台風の野郎が逸れやがったのは良いが、逸れたなら逸れたでとっとと温帯低気圧にならねぇからいけ好かない。荷台に乗りつつ傘を差してはいたが其の意味は最早無く、勝手にキレた僕は傘を畳んで合羽のカイトに慌てられたのだった。
学校に着いた時はそれなりにびしょ濡れ、クラスでも群を抜いてびしょ濡れ、此の時点で既に非常に眠かったのに一限体育ってどういう。荷物は無事だったからジャージに着替え、授業後もそのままで次の授業を受けた――ら寝た、と。
したら三時間程目が覚めませんでした。今此処。
状況確認が終わり席に着いた僕の正面にはゼン君、左右には他クラスだけどこうやってたまにやって来るフドウとコガネイが居た。コガネイに至っては食い終わってるし、昼飯。
「やっほーアサキ、お目覚めかーい?」
「何とか」
相変わらず呑気だ。
其れに打って変わり、真反対フドウは全然進んでいなかった。本人曰くサラダってなかなかフォークに刺さらないとか何とか。……昼にサラダてお前女子か。
ゼン君は普段買い弁で大抵はパンを食べてるんだけど、
「……弁当?」
「……」
だった。何其の嫌そうな間と表情。
「自分で作った……んじゃあ無いよね」
「勿論。ゼン君何でも出来ちゃうタイプの人間だから料理出来ないことは無――うんごめんちゃんと話すから何事も無かったよう弁当取り出すのやめてお願い」
「で?」
「まぁ本当、弁当くらい作れないことは無いけど、朝そんな時間無いよ俺」
へらりと笑いながら箸の先を踊らせてゼン君は言う、じゃあ其の弁当は一体。
「――姉貴が作ったらしい」
嗚呼、だから嫌なのか。
「絶対何か企んでんだよあのクソ女、昨日の夜あれだけ言い合ったのに今日になって弁当置いとくとか絶対おかしい。食い物のどれかに何かトラップが――」
「あるの?」
「――其れが無いんだよ、たまに喧嘩よろしくした後日に弁当作りやがるんだけど毎回普通の弁当なんだよ、しかも俺が好きなのばっか。此れどういうことだと思う?」
ゼン君は摩訶不思議な現象とでも言う様に眉間に皺を寄せて首を傾げた。ゼン君本当お姉さん嫌いなんだな……いや、嫌いだろうが家族だからとある範疇の嫌いだろうけど。
「さぁ」
「だよねー、本当もう何考えてんだか」
まぁ食費浮くからイイけど、と続けてからゼン君は笑顔に戻り、「飲み物買ってくるね」と言って席を立った。
ゼン君の姿が消えてひとつ考える、……さっきはああ言ったけれど。
「フドウ」
「はい」
「ゼン君のお姉さんが弁当を作る理由だけどさ、お前分かる?」
「……はい、何となく」
ほら、フドウですら分かることだ。苦笑というか苦笑いというかぎこちないというか、な笑みを浮かべながらフドウは言い、「俺でも分かるけどなー」なんてコガネイの声すらもがそう言っていた。
「何で気付かないんだろうねー」
「――“謝罪”の気持ちくらい口に出せば良いのに」
「昔からそうなんすよ、ゼン君とカスガさんは」
幼馴染のそんな見解に呆れつつ、僕もさっさと昼食を済ます為に鞄を漁るのだった。
うちは喧嘩しないから分からないが、普通兄弟ってそんなもんなんかね。
ヒコク家で喧嘩が起こらない理由。
→喧嘩する気力ある奴が居ない。(真理)