342+平日の出来事。/後
という訳で現・生徒会室にやってきましたアサキです。何がどう伴ってこうなってしまったかは分からないが、何時までも廊下で立ち尽くすのも疲れたし、だったらこっちに来てみようと言い出したのは脇腹を押さえているゼン君で。どうしたんだろうか、……嗚呼、僕が肘入れたんだっけ。
「え? つーことは其の下級生放置してきたのかよ!?」
「そうだよ悪いかサチトの癖に」
珍しくも此方に居たサチト先輩とフウカ先輩――ハヤ先輩が居ないのが――に先の出来事を話せば、驚いた表情でサチト先輩が立ち上がった。
「おま、とっとと声掛けてやれって! 何で冷静にこっち来た!?」
「何か声掛け辛くないですか」
「いや、そうかもしれないけど其処は上級生のお前達が頑張って――」
「うるせぇ黙れ」
「知ったような口を」
「……あれ? 俺って部長でこいつ等よか上級生だよな?」
泣きそうなサチト先輩をフウカ先輩が真顔で慰めているが、僕等は一向に気にしなかった。
「中のユウヤ君達に、声を掛けてもらうのはどう?」
「……無理だと思います」
「あの三人じゃアドリブ効かないっていうか」
絶対に白々しくなる。
特にユウヤなんかに今更招けなんて言ったら、
『あ、あーっ! 今気付いたけど君もしかして入部希望の子かなー!? 今気付いたけど!!』
とかなること間違い無しだ。そして自慢じゃないが此の僕もそういうのは得意でない、どうだ参ったか。
「じゃあ俺が声掛けるか」
「えー、さっちゃん頭悪そうだから駄目だよ」
「んだとゴルァ!!」
「確かに」
「私もそう思う」
「じゃあフウカッ! お前が行って来いよ!!」
「私は三次元の人間に好意的な感情を向けるスキルを持ち合わせていないから無理」
「……え? 何て?」
いや、本当もうどうすんだよ。
「ていうか、未だ居るんかね」
「どうなのかしら? 元々扉の前、っていうより近くをうろうろしてる感じなんじゃない?」
戻ってユウヤですが。電話が切れる直前、
『お前等はともかく何もすんな』
と言われたので一向に何もせず、俺達はのんびりぐだぐだ日頃通りの部活に勤しんでいます。寧ろこんなんが部活として成り立ってるって本当凄いよね、GC部作った人尊敬するよ。(※マヒル兄です)
「でも良く考えたら、俺達も帰れないよな」
あ、確かに。此れで外出てばったりとかになったら大変気まずいっすもんね。……あれ? じゃあ此れ袋の鼠的な?
「んー、まぁでも流石に部活終わる時間になったら弟君も帰るんじゃ……?」
「え、帰っちゃって良いの? 其れじゃあ折角勇気出して此処まで来た彼が可哀相じゃない」
「いやでもさぁ」
「ちょい待ち」
唸るように今後のことを考えていれば、俺とリョウちゃんの会話に人差し指を口元に携えたカイト君が割って入る。静かに……って、ん?
「どうかしたの?」
「多分――話し声?」
俺とリョウちゃんは視線を一度合わせてから、とうに扉を凝視するカイト君を見て、つられ扉へと視線を持って行く。話し声……だと?
『――……』
『――』
確かに聞こえる――気もする、うん。此の、何て言うのかな。見てはないんだけどテレビ付いてるのは分かるみたいな、そんな感じ。
会話内容は分からないけど、喋っている事実だけが確認出来た。……直ぐに止んだけどさ。
ガチャ、
「それじゃ、また休み明けにな」
『……ハヤ先輩?』
突然開いた扉から入ってきたのは、我等が生徒会長ハヤ先輩だった。間まで完璧に三人でハモってしまった。
「……何だお前達、居たのか?」
「はい、ずっと居ました。――ところで先輩! 今喋ってたのって……」
キョトン、と表情を無にしてから苦笑を見せた先輩は、机に荷物を下ろすなり「嗚呼、ムラサメ君、だろう?」と小さく首を傾げた。
「ハヤサカ教諭に呼ばれてたもので、今日の(生徒会の)仕事は二人に任せていてな。時間もそう無いがこっちに――」
「――そっ、そうじゃなくって!! ムラサメ君? に何て言ったんですか!?」
ハヤ先輩は再びキョトンとして、俺達の視線に気付けばふっ、とひとつ、柔らかい笑みを零した。あ、今の表情超イケメン。
「此処から少し離れた場所に突っ立ってたもんだから、声を掛けただけだ。其れだけなのに逃げようとするものだから、もしやと思ってな」
嗚呼、ハヤ先輩でも逃げられかけたんじゃ無理だわ。
「後は、『折角来てくれたのに皆気が利かないな』てのと、『こんな部活じゃ戸を叩くのも一苦労だろう』てのを話して、」
まぁどちらも凄い勢いで首を横に振られたが、はは、と乾いた笑みを浮かべハヤ先輩は言った。……どうやらムラサメ君は大分謙虚な模様。そりゃ聞いてはいたけどさ。
「で、今日は遅いから、また休み明けに来てはどうか? と俺が提案した。折角来たのにゲームひとつ出来やしない時間だし、皆でやれば直ぐに打ち解けられるだろうしな」
実にホッとしたであろうムラサメ君の表情が思い浮かべられる。まぁ俺、ムラサメ君知らないんだけど。
「――という感じか? 最後は若干ながら微笑んでくれたな」
「はい、充分です」
「流石っす先輩」
「一生着いて行きます私」
「……?」
ド緊張してる少年を、ナチュラルに救ったんだよ先輩……流石だよ先輩……!
そして此の話は直ぐさまアサキやゼン君に知られ、先輩の知らぬ場所で先輩の株が急上昇していくのであった。
「そうそう、休み明けの部活は入口の扉開けておけよ。ノックするのは勇気がいるみたいだからな」
「了解しました!」
流石っす先輩……!!