34+誰しも飽きる。
『次にスキー研修中の注意を、キクカワ先生から――』
暇だ。
……あ、すみませんアサキです。午後の授業使ったスキー林間に向けての集まりが暇なんだよ。
マイクからの響く五月蝿ぇサクライ先生の声。前の方に居る僕としては、んな怠そうにやるなら司会なんてやらなきゃ良いのにと思う。
『ではスキー研修についての話を私の方から――』
「ねぇアッサム君」
「誰が紅茶だよ」
体育館に集まるとなるとともかく隣に居る我が兄ユウヤ。隣女子列なのに其処に乱入してくる辺りが五月蝿さを醸し出していると思うよ、僕。
「アッサム美味しいよ」
「知ってるよ」
「じゃあ何が不満なんだね!!」
「紅茶じゃないからだよ」
『生徒静かに』
叫ぶなよ。サクライ先生がこっちに目だけ笑ってない笑顔を向けてるじゃないか。
「……んでさ、アサ君」
「何だよ。寧ろ後で聞くから列戻れ」
「嫌ーよ、アスカの居ない列なんてゲームを失った休日のアサ君だよ?」
あー、そりゃつまらん。って、何で例えが僕なんだ。そして久しぶりにアスカ君が休みな様だ、んー、暫く来ない予感。
「スキーまで一週間切った訳ですし、持ち物準備しなきゃだね!」
「それはそーだ、ゲームの充電MAXにせんと」
「……持ってく気なんだ」
『くれぐれも節度ある持ち物を――』
キクカワ先生め、丁度そんな注意を。
「俺はとりあえず父さんに言っておやつ代を貰――」
「また父さんかよ、父さんだってそうはくれな――」
「――いました」
「過去かよ」
こいつ本当に早いな動きが。
「がっつり五千円」
貰い過ぎだろ、あげすぎだろ。僕と分けたとしても多いよ。
何より清々しい顔で親指を突き立ててるユウヤうぜぇ。
「これでスキー中何も困らないね!」
「お前の心配は餓死だけ?」
『生徒喋るな』
おっとサクライ先生怖ぇ。先生達の前だからってクール装ってるつもりだろうが、安心して下さい。目が据わってますから。
「アサ君しーッ!」
「確実にお前だ下衆」
声を潜めて言われたって僕は騙されんぞ。
『インストラクターの人の話をよく聞いて――』
キクカワ先生、気持ちこっち向いてるのは気の所為でしょうか。僕を馬鹿ユウヤと同じ目で見ないで、お願いします、僕此の馬鹿とは全然似てないんだから。
「うーむ、キクカワ先生話長い」
「聞いてないのにそういう事言っちゃうんだ君」
流石の馬鹿兄貴。其れをキクカワ先生の前で言ったらお前の成績は確実に降下するだろうな。
『――では終わります』
――と、本当に話終わりやがった。
――余談。
「じゃ、帰ろー。今日ご飯何がい?」
「グラタン」
「そんな手間かかるもん要求しないでよアサ君」
「……軍曹」
「何だ、一等兵?」
「何故あの双子はあそこまでマイペースなんだろうな?」
「……参謀と派遣だからだろ」
――他人から見れば、充分似てるという扱いを受けているヒコク兄弟でもあった。