339+少年よ、大志を抱け?
「へぇ、其れは凄いじゃないか」
ただ今現・生徒会室では無い方、と回りくどい言い方をしてみるゼン君だよ。此の前の話を前例稀に見る元気さが伺えるハヤ先輩にしてみたら、相変わらずの笑みでそう一言返って来た。
「新入部員は一人でも居た方が良い」
「まぁ、そうなんですけど」
常に部員ギリギリというか、先輩達の代で一時三人になったっていうのに此の人は、今年も勧誘らしい勧誘を一切行っていないという素晴らしさ。なるようになれば良い精神で本当、良く此処まで部(又は生徒会)が成り立ってたもんだよ。
「其の話、サチトとフウカには?」
「いんや未だ」
「部長はサチトだし、ちゃんと話しておいてくれよ? ――にしても、」
首を横に振る俺を苦笑して見れば、先輩は机上に置いていた眼鏡を掛けて現・生徒会室でない――部室を見回す。
「――此の状況じゃあ其の一年生も、至極入り辛かろうな」
しみじみと、そう呟いた。
入口から見て右ソファ、其処を洩れなく陣取って寝てるあっ君に、俺達から二歩程度の位置にある備え付けのデスクトップPCに無言でかじり付くカイ君、そして左ソファではかちかちという効果音を奏でつつも、ヘッドフォン装着済で黙々と携帯ゲームに勤しむゆっ君が居て。
――今の彼等に俺達の話が通じている可能性は限りなく零、要するに。
「来たことに気付いて貰えなかったりしそうっすよね」
「充分に有り得るだろう」
というかね、其れは三人にだけ言えた訳じゃなくて――寧ろ此の場合あっ君は例外で――、俺やサチ、フウカ先輩でも有り得ることで。
――大音量でゲームしてて、来客に気付かないなんてことが有り得る部活だっていう。
「お前の話じゃ、其のムラサメさんの弟君はとても慎ましやかな子なんだろう?」
「ん、そうみたいです」
「もし今此の場に俺とゼンが居なかったとして……ゲーム的難易度に置き換えてしまえば、ランクSSはくだらないな」
「冒険者どころか間違いなく村人Aなんだけどなぁプレイヤー」
本当、もう少しフレンドリィな環境が作れないものかね此の部活も。少しでも勧誘チックなことをしてれば、其れは其れで入り易い気もするんだが。
「迎えに出向いてやれば良いんじゃないか?」
「あー、なる」
確かに其れもそうだ、しかしムラサメちゃん曰く『弟の性格をどうにかする為』の処置なんだし、最初の一歩は本人に頑張ってもらった方が良いと思うんだよな俺。
そんな心情を吐露すればハヤ先輩は頷いてくれて、何かの力が働かない限り開かない扉に視線をやれば、「気長に待つとするか」と、そう言って背凭れに身を預けた。
何事も最初が肝心って言うじゃないか。最初を頑張ったら、後はゆっ君みたいな世話好きがどうにでもしてくれるだろう?
だから頑張れムラサメ弟。――姿も知らぬ少年にエールを送り、俺は唯一空いているソファへと腰を下ろした。