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333+GC部の部活内容、春。


「ぅおるァ!!!!」


「――ひゃ! ちょっ、ちょっと危なっ!! アンタなんて球投げんのよ!?」


「ふっ、俺様の辞書に“男女差別”の文字は無ぇ」



 カイトが何か言ってる、アサキです。



「そうさカイリ! 我が部は誰に於いても“男女平等”! よってドッジボールであろうが本気――だァ!!」


「普段皆からろくな扱いを受けていないからつい忘れがちだけれど一定の教科以外は別に出来ない訳じゃないから頭はさほど悪くないサチト先輩最低」


「――長い! アサ君無駄に長い!」


 外野から其れ程抑えていない威力で投げられたボールが、僕の横に居るカトウの肩に当たった。相手側のユウヤに盛大なツッコミを受けたが、……まぁ其れは其れだ。


 という訳で僕等はドッジボール中、学校の体育館で着たくもないジャージ姿晒してボールを投げ合っている。……実にくだらない。

 ええと、大分前頼まれていた備品移動をやらされ、ついでに天災によりぐっしゃぐしゃになった各部屋の整理も手伝わされ――正確にはハヤ先輩が二つ返事で了承してしまった為――、大分疲労感が溜まった其の日の午後二時どき。本当は未だ全部終わった訳じゃあ無いけれど、今日のところは疲れたからと明日に持ち越されることになった。


 ――疲れたから明日に持ち越したのに、何故僕等は体育館でドッジボールやってんだろうか。


「勝負に最低も何も無ぇ! やーいやーい!」


「くぅ、先輩だけど何かムカつく……!」


「良いんじゃない、アレ先輩じゃなくて愚劣者だから」


「部長! サチト先輩部長だからねアサキ君!!」


「え? 今何か言いました?」


「……もう良いもん」


 外野で落ち込むサチト先輩の肩にポン、と手を置いたフウカ先輩の表情は、何処か憐れみの其れに似ていた。というか味方側外野のゼン君は笑い過ぎね、あとハヤ先輩は笑いを微妙に噛み殺せてない。


「はははっ! サチって何処行っても本当弄られキャラというか憐れみキャラだよね! ざまあみろ!!」


「こらゼン。幼馴染とはいえ仮にも上級生なんだ、指を差すんじゃないぞ」


 仮じゃなくても上級生なんだけどね。悪気は恐らく無いハヤ先輩の言葉に、遠くのサチト先輩が更に落ち込んだのが見えた気がした。







 体力馬鹿共――僕とハヤ先輩を除いたらほぼ全員――が力尽きたのは其れから一時間程して。体育の時間でも無いのにフルスロットルではしゃぎ過ぎなのがいけない。普段は二つある内僕が占領する機会が多い片側のソファも使用して、正にぐったりと屍が数人、――死屍類々とは此のことを言うんだな。

 という訳で委員会も部活もほぼ兼用の旧生徒会室に戻って来た。



「やっべぇ疲れた……つか此の部屋暑くね?」


「暑ィ」


 主にはしゃぎ過ぎたカイトとサチト先輩――プラスユウヤはくたばり過ぎて声も出せない様子――は、ソファに座りながらそう呟く。今日の気候はそう春日和という訳でも無かったし、別に僕は暑くないのだが。


「冷たい飲み物でも出すか?」


 其処でそう言うは我等が生徒会長。自分の体調を管理することに関しては一級品――しかし此れが仕事になると機能が停止する――、ハヤ先輩が苦笑しながらそう言えば、数名が無言の肯定を促した。


「……皆して疲れ過ぎでしょう」


「確かにはしゃぎ過ぎたわ……。でもアンタだって其れなりに動いてなかった?」


「僕は適度にしか動いてない」


 ドッジボールの後にバドミントンなんてやり出したもんだから、カトウまで同類と化していた。中学バドミントン部だった血が騒いだのか髪を括り上げて全力投球気味で、ユウヤがボロ負けだったのは実に滑稽だった。


「リョウコはバドミントン部だったの?」


「あ、はい、とりあえずは」


「続ければ良かったのに」


「いや、別に上手い訳じゃなかったですし……」


「アレで上手くないんだ」


 フウカ先輩の問い、というか軽口にも謙遜するように答えたカトウだけど、……アレで上手くなかったら上手い人ってどんだけ上手いんだろうか。


「う、上手くないわよ。っていうかバドミントンやったことない癖に私と同じくらい出来る皆がおかしいのっ、特にアンタ」


 僕ですか。っていうか君が一番上手かったですが。


「アサ君微妙な空振り多かったけどね」


「五月蝿ぇ、横に振るもんにしか慣れてないんだよ」


「野球ですね分かります」


 茶々を入れる体力は残っているらしいユウヤ、無駄な体力だけ残すな。



 とかなんとか談笑していれば其れなりに喋れるようにまでなった面々、ハヤ先輩が飲み物を持って戻って来る頃には皆元気を取り戻していた。回復力抜群かお前等。



 こんこん、


「はい、」


 其処に響いたノック音。反射的なのか素早くハヤ先輩が反応して扉が開けば、最早見慣れた顧問ことハヤサカ先生がいらっしゃった。



「未だ居たんですか皆さん」


「――ハヤサカテメェ! 俺達に備品移動任して先帰りやがったな!?」


 呆れた、という風な表情を作り溜息を吐いたハヤサカ先生。其れに噛み付くは部長殿。しかしハヤサカ先生は一寸も変わらぬ表情で「帰ってたら此処に居ないでしょう」、と再び溜息を吐いて扉を閉めた。ちなみにサチト先輩が此の言葉の後を紡ぐことは出来なくて、何せ頭良くても馬鹿なんです此の人。

 しかし確かに此の教師、僕等が体育館倉庫の備品移動に取り掛かって三十分もしない内に消えたんじゃなかっただろうか。カイトやユウヤ、其れにカトウ達もキョトン顔で先生を見ていれば、机の上にことん、と。何やら長方形の白い箱を置いた。

 何処かで見たことある……何の箱だったか。


「――じゃあ、僕はこれで」


 其れだけが用事だったとでも言わんばかりに身を翻せば、ハヤサカ先生は無駄の無い動きで部屋を後にしようとする。


「な、何だ? 此れ激物?」


「えぇ!? 爆発すんのサチ先輩!?」


「え、サチト先輩が爆発すんの?」


「箱無視だな最早」



「……あなた達程買い甲斐の無い生徒会は無いでしょうね」


 サチト先輩ユウヤ、其れに僕やハヤ先輩のやりとりに呆れた先生は三度に溜息を吐いて立ち止まった。

 激物なんて訳が無い、と常識的考えを持って箱に手を掛けたのはカトウ。上開きの箱を開ければ一度キョトンとして、「あ、」なんて声を上げてから並び立つ僕とフウカ先輩の方を見た。



「ケーキ」


「……ケーキ?」


「えぇ、ケーキが沢山入ってるわ」


 其の声に先まで訝しんでいたサチト先輩が箱を覗き込み、つられユウヤとカイト、其れにゼン君もひょっこり覗いて、皆して先生を見る。中身を確認しはしなかったハヤ先輩も、何処か楽しげに先生を見ている。



「――皆で食べて下さい、今日はお疲れ様でした」


「は、ハヤサカ……お前……」


 わなわなと震えるサチト先輩、「お前が買って来たのか……?」と尋ねれば、ハヤサカ先生は口角を上げるように珍しくも笑って、ひとつ頷いた。




「――部費で」


『おい!!!!』




 感動が半減以下に下がったのは言うまでも無い。


「まぁとにかく、明日も宜しくお願いしますね。とっとと食べて早く帰って下さい」


「少しでもお前に感動した俺が憎い! へいへいとっとと食って帰りますよ!!」


 ハヤサカ教諭は一年経ってもハヤサカ教諭だということが分かり、逆に安心した僕だった。







「じゃ! 解散! 俺鍵返してくっから昇降口で待ってろよハヤ!!」


 人数分より多かったケーキに「ハヤサカは数学教師なのに数も数えられなかったのか」なんて呟いたサチト先輩の頭がどうなのか気になった中、何故か人数分の倍近くあったケーキに疑問を抱きながら昇降口にいるハヤ先輩と共に僕とゼン君は、カイト等が自転車を出してくるのを待った。



「ねぇ先輩、あのケーキってさ、」


「嗚呼、ゼンは気付いたか」


 くすり、と笑みを零す二人に僕は首を傾げた。


「そりゃ分かりますって、ねぇあっ君?」


 何がだ。


「あのケーキの量、――あれ、俺の所為だと思うから」


 そう言って笑ったゼン君を見れば、ふと思い出した事実を持ち出して、嗚呼、とひとつ頷いた。



「ゼン君、――甘いもの食えなかったもんね」


「正確には、一部以外食えないってだけなんだけど」


 あんまし友達には言わないようにしてんだけど、と付け加えたゼン君を見つつ、ハヤ先輩が笑う。


「ハヤサカ教諭も不器用な方だよ、素直に自分の厚意で買ってきたと言えば良いのに」


「ははっ! 言えてる! というかアレあの人の自費だよね?」


「勿論。うちの部活の部費なんて残っちゃいない、委員会なら未だしも、あんなに高そうなケーキを山程買える程残してはいないよ」



 『皆は甘いもの、食べれるでしょうか』って尋ねられたから、ゼンのことを言っておいたんだ。ハヤ先輩はそう言って、左腕の時計を見遣ってから空を仰いだ。



 変わっていないように見えて変わってる、か。否、見えていなかったものが見えてきただけなのか。

 どちらにせよ、良い方向に変わることを悪いなど思う訳が無く、僕は先輩につられ今にも泣き出しそうな空を仰ぎ、どうか泣かないでくれと希いながら呆れたように笑った。






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