332+誰でも一度はやらかす事情。
ファミレスです、……いや、俺はゼンだけど。
「何食べよっかなー! あ、此のデザート美味しそー!」
「……」
「ゆっ君は先ず主食を決めようね、そしてあっ君はドリンクバーを一心に見つめるのやめようね。いや頼んで良いけど」
「俺は肉を食う」
「潔い決めっぷりっすねカイリ君……。ええと、僕は……ええと」
「時間掛けても良ーんだよシギ、カイ君は頭がアレなだけだから」
何だとてめぇ、たっけぇの頼んでやっからな! なんて言ってメニューにかじり付いたカイ君を見て、つい苦笑した俺。そんな皆の様子を観察するのも飽きたし、俺も頼むの決めよかな、と隣のシギが見るメニューを覗き込んだ。
察しの通りただいま俺達はファミレスでしかも、俺の奢りで昼飯と洒落込んでる。何故俺の奢りなのかと言えば、……まぁ単純にバイト代が普段より多く入ってるというか、まぁ今月分の月給バイトは未だ入ってないんだけど、臨時でダチから連れ出された日給バイトのバイト代が入ったからって感じ。無論何時ものバイトの方もかなり入らされたのもまた事実、電車の運行状況の所為で人が来れなくて、地元の俺がバンバン入れられたって訳。
だからたまには飯でも――って思ったのは良いけど、
「友達にご飯奢ってあげるなんてゼン君なんて良い人なんだろう」
「ゼン君、口から本音が出てるっすよ」
いけね。
本当ははっ君も誘ったんだけど用事があるってさ、『誘ってくれてありがとねー、また誘ってくれたら嬉しいなー(笑)』ってメール来たけど最後の(笑)超気になる。
「――ていうか、皆何でバイトしないで生きてけんのよ」
一年付き合って今更だけど、此のメンバーでバイトしてんの俺だけなんだよね。まぁ両親居ないってのが響いてんだろうけど――うちの両親は片田舎でのんびりしてるだろうよ――さ。
「「――親が」」
「嗚呼、二人ん家は良いよ、医者とか反則だから」
しかも太っ腹ってマジ羨ましいんですけど。キョトン顔の双子兄とメニューから顔すら上げない双子弟を見つつ俺は溜息を吐く。
「俺は別に。欲しいもんは姉ちゃんが買ってくれるしある程度は制限してるし。まぁ姉ちゃんっていうか金自体は父さんだけど」
「……優しいお姉さんだね……」
「……え? ゼンどうした? 何かすっごく世知辛い表情してね?」
うちのクソ姉貴に見習わせたいんだが。カイ君ん家はうちとは逆で親御様が働きに出てる感じなのよね、あーあ本当うちの両親何してんだか。――ちなみにうちのクソ姉貴を嫁に貰うなんて稀有な神経を持つ我が義兄さんは海外単身赴任中で、滅多に会うことは出来ないけど非常に素敵な男性なんだよ。
「……俺は義兄さんの為にあのクソ姉貴と一緒に住んでるんだ……あの露出狂……ミヤは俺が守る……!」
「……ちょっとゼン君どしたの? どっかトリップしちゃってない?」
「気にしなくて大丈夫っすよ、ゼン君はたまにこうなるけど直ぐ戻って来ますから!」
「幼馴染の余裕だな」
ゆっ君の声で我に返ったけど、何言ってたんだろうか。其処にあったのは清々しい程に輝くシギの笑顔だけだった。
人の金だと思って容赦なく頼みやがった食事が次々に消費されていく光景は実に滑稽だった、ははっ、笑えねぇ。
「ゼン君、本当に大丈夫なの?」
「え、何が?」
「いや、五人分って結構多額じゃ――」
嗚呼、流石はあっ君、相変わらず君しか常識無いからある意味素敵。他の三人はファミレスといえば恒例のドリンクバーの飲み物混ぜて楽しんでるからね、アレ誰が飲むんだろ。
「大丈夫大丈夫、ゼン君にまっかしなさーい? 年中バイトしてるから大丈夫なのよ」
「そう、なら良いんだけど」
そう言えば一寸も動かなかった表情のままあっ君は、カイ君のセットメニューで付いて来たスープに自分用なのかと思っていた珈琲用のスティック砂糖を数本ぶち込んでいた。……あれ? 早くも前言撤回しなきゃになったぞ?
「……実にナチュラルな動作なところ悪いけど何してんの?」
「ファミレス恒例の嫌がらせ」
「どんな恒例だよ其れ」
「大丈夫、カイトは甘党」
「いやいやいや甘党とかの問題じゃない色になってるけどね!」
さっきまでコンソメだったのに今何よ此れ、何と称せば良いの此れ。色どころか塊だからね砂糖、ざらざらのバレバレだから。
俺のツッコミを気にすることなく入れ尽くせば三人が戻って来て、――此方も此方でドス黒い飲み物を持って戻って来た。泡立ってんのが余計に不気味だ。
「さぁゼン! 飲め!」
「わぁいそして其れゼン君が飲むんだぁ」
カイ君が意気揚々といった風に俺の目の前に其の危ない液体(仮)を置いた。何か俺悪いことしただろうか、と考えてみたものの其の隣のゆっ君はあっ君に「アサ君此れどうよっ、滅茶苦茶美味しいんだよ!」と言って此れまた微妙な色した飲み物を渡していた。何故赤なんだ其の飲み物、何入れたら赤くなるの?
「――……うわまず」
そして其れを躊躇い無く飲むあっ君凄ぇんだけど、超慣れてんじゃん、つーか此の三人何時も此の調子なのかしら?
「えぇ!? まずくないよう!! ねっ、シギ君!」
「はい、さっき飲んだら美味しかったっす!」
「二人して舌馬鹿かお前等」
俺もそう思う、誰がどう見ても其の赤い液体が美味しいもんだとは思えない。
ひとつ溜息を吐いて再びカイ君に視線を戻したら、普通に食事に戻っていた。そして先のスープの存在に気付けば一に凝視、二にあっ君凝視、三四に停止で――五で飲みやがった。
「――甘い」
「反応其れだけ!?」
「え? 何が?」
何が? じゃないよカイ君あの粗目スープ飲んで『甘い』で済ます君の舌どうなってんの! 流石にびっくりした! ゼン君超びっくりした!!
「カイト君甘党だもんねー、……うんやっぱり美味い」
「幾ら甘党でもスティック砂糖六本入れたコンソメスープ絶対美味しくないよ、絶対。てっきりあっ君が珈琲に入れると――」
「六本も砂糖入れたら珈琲まずくなるだろ!」
「ごめんって!! ――あれ? 何でゼン君が謝ってんの?」
意味が分からなくなってきたからか、とりあえず俺は目の前に置かれた危ない液体(仮)を一口だけ飲んでみることにした。いや、此処乗らないとゼン君の名が廃るじゃん? いや何のとか言わない。
「ゼン、どうだ美味いか」
「――……うん、とりあえずカイ君、メロンソーダ持って来て」
普通に言うね、――クソ不味い!!!!
あの後皆で飲んでみたけど、非常に強烈な後味を残してくれた危ない液体(仮)は晴れて――晴れなくて良かったけど――危ない液体(確定)に昇格した。あの液体の調合の仕方はカイ君しか知らないらしいけど、俺は全然知りたくないと思った。
「あー、食った食った! よーし! 今からゼンん家行ってゲーム大会と行こうか!」
「良いね、賛成」
「俺も行くー!」
「ぜ、ゼン君、勝手に決まってるっすけど……」
「ん、六時くらいまでなら全然大丈夫だよ。其れまで一人だし」
「其れまで? ――そうかゼンは姉ちゃんとミヤコちゃんと三人暮らしか」
「俺ミヤコちゃんに会いたい! そしてお姉様を見たい!」
「前者は何時でも! 後者は死んでも会わせん!!!!」
「えーっ!! ゼン君のけち!!」
何と言われようが其れだけは阻止せねば……! あの馬鹿姉に会わせるなんて恥ずかし過ぎて死ねる……!!
「アレは完璧なゼン君にとって人生最大の汚点だ……」
「さりげなく自分完璧だけどね」
気にしないのよあっ君たら。
という訳で午後はうちでゲーム大会――って何時も通りじゃんね。いそいそとチャリ置場に急く皆の後ろに付きながら苦笑した俺だった。
っていうか、――何此れ楽しい。