328+ワタヌキさん家の波乱多き日常。
「あーあーあー! 早く春休み来ないかなー!」
「急にどうしたんすかゼン君……」
ゼン君だよ! 学年末テストなんて頭の隅にも入ってなかったもんで今回ズタボロな予感するんですけど!!!!
少しあったかくなったかと思ったらまた冬に戻るし、こんなん体調壊せ! って言ってるようなもんだよね、とか朝思ったら本当にカイ君が学校休みでびっくりした。だからあっ君が遅刻してきたんだけど、あっ君てカイ君休む時歩きで来る癖に、家出る時間変えない――ってそりゃ遅刻するっしょ。……ツッコんだら負けって俺知ってる。
んで今はそんな学校の帰り、テスト期間だから部活も無いし、シギと帰路を共にしてるって訳だね。
「だってもう疲れない? 毎日家でゲームしていたい衝動に駆られる」
「あははっ、……でもゼン君、そんなこと言いながらも何やかんやで学校サボらないっすよね?」
「そりゃそうでしょ、俺はそんなくだんない理由で学校サボる野郎共とは違うっての。遅刻とかも以ての外だよね、基礎がなってる人間だから流石ゼン君」
「……アサキ君はめっちゃ遅刻してくるっすけどね」
「……まぁ、カイ君もダントツで遅刻率トップだけどね」
そうだった、よく考えたらカイ君が休みだろうが休みじゃなかろうが二人の遅刻は日常茶飯事だった。……ははっ、なんかごめん。
「――おにーちゃん、おかえりなさぁい」
家の近くに辿り着く、そしたら何故かミヤが居た。……アレ? 俺確かに今日送ってったよね、保育園に。未だ未だ小さい其の身体を精一杯広げて、此方に手を振っている。普段なら直ぐにでもそっちに行って笑顔で迎えられるんだけど、……うん?
「あれ? ゼン君、ミヤコちゃん何で居るんすか?」
「ゼン君が知ると思ーう?」
朝一緒に来たシギが不可思議そうに首を傾げる、其れはもう俺が聞きたいことを。……まぁ、可能性は一つだけ考えられるんだが、其れはもう滅多に無い。でもミヤは此処に居る訳で、……信じたくないけど、なぁ。
「……ミヤ?」
「?」
ミヤが無邪気に首を傾げる。
「――お母さん、うちに居るの?」
「うん!」
嗚呼、家に帰る気が失せた。
「あらん、お帰りマイリトルブラザー、お昼に帰るとか聞いてないわよ」
「其れはこっちのセリフだクソ女、帰る時は朝言えっつってんだろ」
こんな真昼間から大嫌いな姉の姿を見る羽目になるとは……!
ウェーブの掛かった亜麻色――若干紫強し――の長髪を背に流した認めたくは無いけど我が姉貴がキッチンから満面の笑みを浮かべて登場した。俺の口調が非酷いのは最早日常なので気にしてはいけない、此れが日常である。
「急遽よきゅうきょ! アタシだって最初から分かってたらちゃあんとゼンに言ったわ。だからちゃんとミヤちゃんもお迎えに行ったじゃない、ねえミヤコー?」
「うん!」
「そういうことを言ってるんじゃなくてさ、」
笑い合っている微笑ましい親子(※見た目)を尻目に、俺は机の上にがさりと、シギと一緒に寄ったスーパーで買い込んだビニル袋を置いた。
「――うちで食うならちゃんと言わねぇと飯無ぇぞっつってんの!! お前今日帰らないっつったろ! お前の分何も買って無いんですけど!!」
「あらん?」
ナンデスカ其のあっけらかんな感じ! ゼン君間違ったこと言ってませんけど! 遅くなるからご飯勝手にしろとか言ってただろうが!!
「大丈夫よん、ゼンがアタシの為に念の為とかしてくれる子じゃないことは知ってるからー? ちゃんと自分で買ってあるわよ??」
――カチン。
「嗚呼そうですかい、だったら良いんですけどね。あんたが居ても居なくても俺の人生に於いて何の支障も無いデスカラ?」
「あらん? 何言ってくれちゃってるのかしらん、お姉さんが居なかったらあなた其の歳まで立派に成長出来なかったんじゃなくて?」
「ええ、ええ、其の通りでございますよ姉君。お陰であなたの弟は世界中の女の子が放っておかないくらいカッコイー御仁になりましたから、クソ女姉様には構ってられませんでごめんなさいねー?」
「おーっほっほっほ全然困らないわよー、面倒みてあげた借りはちゃんと返してもらえるのかしら?」
「勿論ですよクソお姉様、お姉様がよっぼよぼのババァになったらクソ不味い飯を毎日たらふく作って差し上げるからご安心して下さいねあっはっは!」
「――おかあさんとおにーちゃん、けんかしてるの……?」
「違うわよ、ミヤ」
「此れはコミュニケーションだよ、ミヤ。仲良しだからお話してるんだ」
「……そっか!」
……はぁ、疲れたからもう良いや。飯食ってとっととゲームしよ。今日バイトもあるし早く始めないと。
「おい姉貴、昼飯」
「アタシ達今食べ終わったんだけ――」
「バイト帰りにケーキ買ってこようかな~」
「仕方ないわねぇ、お姉さん優しいから今から作っちゃう」
「……けっ」
※ワタヌキさん家ではこれが日常です※