326+結局どうなる彼女の名前。
ユウヤでっすでっす! でっす! ……言いたいだけです。
何だか随分長いことスキー行ってた気がするんだけど其れは気の所為なんだよねー、あははっ。スキーで浮かれ過ぎたかなぁ……と食卓机で一人茶ァしばきながら考えています、――いや、俺は歴とした十六歳だけども。
「ふ、此の一杯の為に生きてるぜ、俺」
「何処のおっさんだ弟よ」
あ、マヒル兄居たんだ。そういえば此の人もう冬休みなんだっけ? ずるいよなぁ大学生、来年から就活だからそうも言ってられないらしいけど。昼過ぎまでパジャマ姿な兄に言われたくはないとか思いながらも珍しく良い寝起きのマヒル兄の邪魔をするのは悪いので、俺は結局お茶を飲んでいることにした。
「にゃう」
「んぁ? お前未だ居たのか」
お、猫も起床だ。そんなことを言ってにゃんこを抱き上げるマヒル兄だけど未だって、其の子多分このままうちに居続けると思うけど? だって探してないじゃん、其の子飼ってくれる人とか。
「――まぁ探させないけどな! 何せこんなに可愛い!!」
「え、何? ユウヤどした?」
おっと口に出た。つい勢いで立ち上がってしまったのでマヒル兄がびっくりしてしまった、すません。
「やっぱりにゃんこ飼おうよ」
「え、嗚呼、俺は良いけど、動物好きだし」
という訳で本格的に相談してみることにし――ちょっ、早い、承諾早い。
え、今更? みたいな視線を感じながらも兄の承諾を得たので飼おう、アサ君は何か前に反論は無いみたいなこと言ってたからもう勝手にしよう、飼おう、何てったってこんなに可愛い。
「だったらやることはひとつさマヒル兄!! にゃんこに名前付けなきゃ!!」
一度立ち上がっちゃったし座るのもアレだ、そのままマヒル兄とにゃんこの方に行けばそう宣言する。マヒル兄は良い寝起きではあるものの寝起きには変わりないのでワンテンポ遅れて「へぇ、そう」と返事をすればにゃんこを机の上に置いた。ええと、先ずは此の子の性別だ、男の子かな? 女の子かな?
「ねぇマヒル兄、おっすめっすどっちかにゃー」
「お前が言っても気持ち悪くないのってある意味凄いよな」
「ふぇ?」
いや、何でも無い、と首を振ったマヒル兄が何を言いたかったのかは分からなかったけど、とりあえず性別の確認だぞう。
「つーか、どうせメスだろ?」
「え、何で、マヒル兄猫の性別の特定出来るのかい」
「三毛猫ってメスばっかなんだよ、知らなかったか?」
そりゃ知る訳が無い。
「――三毛猫のオスが生まれるのは染色体異常とか染色体自体がモザイクだった場合とかで、クラインフェルター症候群と呼ばれる染色体異常でオスの三毛猫が生まれる確立は約三万分の一だとか」
「……」
「バイ、某ネットフリー百科事典」
其処はちゃんとwikipediaって言えばいいのに……! 目の前のにゃんこと戯れながら説明されたけど、今の文章俺の中には全然入らなかったけどね。ていうか何でそんなことまで知ってんのよ、定期的にwiki通ってんの? アサ君も良く見てるけど何が楽しいのっていうか見たことを其処まで的確に説明出来るくらい覚えてるって何其れいじめ? 記憶力が良い人ならではのいじめ?
――と、ぐれても仕方ない。今の説明はへぇ、で流しておく。ともかく其の子はメスなんだね、其れが分かればもう良かったんだけど。
「三毛にゃんこの名前かー、マヒル兄何が良いと思うー?」
「知らん、俺はネーセン無ぇからやめとけ」
無いの? ネームセンスなんて無くて元々な気もするんだけど。
「俺だって無いと思うけどなぁ、三毛猫に平気で“ミケ”って名付けるタイプの人間だと思う」
「三毛猫を飼って其の猫に“ミケ”と名付けた全国の飼い主さんに謝れ」
だってダイレクト過ぎない? 三毛猫に“ミケ”とか、黒猫に“クロ”とか。あ、でもカイト君家のにゃんこ名前ここあちゃんだっけ、茶色いから。なんかごめんウミさん。
「……」
「……」
「……何も浮かばない」
「……同じく」
「……」
「……」
此の後も暫く、沈黙が続いた。
「ただいま」
「お帰りアサ君! 今ぱっと思い浮かんだ言葉言って!」
「……は?」
「理解はしなくて良い、とにかく言え」
「兄貴まで一緒んなって何なの」
「「良いから!!」」
「――上野国碓氷郡里見郷」
「「……は?」」
ユキと共にカイリの家で歴ゲーに励んできた弟の一言。