324+いざ、白銀の世界へ。/in白銀の世界3
はろう、ゼン君だよ。
日は変わって三日目、要するに最終日ってやつになった。午前のギリギリまでスキーして帰る、正直もう帰っても良いんじゃないかなって思わない訳でも無いけど俺の同室の約二名は二日前から変わらぬテンションで滑りに出て行ったから凄いと思う。ちなみにカイ君に至っては――俺もだけどね――二日間ほぼ完徹だってのに元気だよねー、恐らくバスの中爆睡だけど良いっすかね。
「ワタヌキ君、其処で何をしてるんですか?」
「ん? あ、ハヤサカじゃーん」
「人をナチュラルに呼び捨てないで下さい」
自由滑走だ、ってことであっ君は勿論俺もほぼ滑らず下でぼうっとしてる訳だけど、そしたらハヤサカに声掛けられた。スキーウェアを着ては居るけど眼鏡掛けっぱだし此の人滑る気さらさら無いね。どうでも良い情報だけどハヤサカって遠視らしいよ、だから運動の時は眼鏡外してる訳だね。
「ワタヌキ君みたいなタイプはスキーとか好きそうなのに滑らないんですね」
「何其れ、スキーにタイプってあるの?」
「馬鹿みたいなクソ餓鬼タイプは幾度こけても楽しそうに滑るじゃないですか」
最近前より口調に乱れが現れてるんだけどハヤサカ気付いてんのかな。
恐らく気付いていないハヤサカは俺から視線を外して端の方で座り込むあっ君を見た、言わずもがな完全にやる気を失っていて座り込んでるあっ君を。
「……」
「潔いやる気の無さですね」
「ある意味凄いよね」
まぁあれには理由があるらしいんだけどね。
一日目の夜全然寝れなかったっていうのもあるんだろうけど、朝のあっ君の機嫌がフルスロットルで悪かったらしい。俺は知らなかったんだけどあっ君て朝ガチで機嫌悪いんだって? コガネイが居たからどうにかなってた機嫌抑制スイッチが二日目にして壊れただとかゆっ君が言ってたけど――
『あ、アサキ君、そろそろ起きないと遅れちゃいますよ……?』
『……』
『アサキ、君? 起きてます?』
『起きてるんじゃない? 目が開いてるし。アサキー、起きて――』
『――るせぇんだよ』
『――る……?』
『起きてんだから起こしてんじゃねぇよ何度も近くでガタガタ抜かしやがって……二度と喋り掛けんなよカスが』
『『……すみません』』
――どんなだったんだろうなぁ?(※彼は其の惨状を知りません)
「まぁ今は自由の時間なので何をしていても構わないですけどね」
幾ら自由だからってスキーしなくても良いんだなぁ、という俺の考えは良いとして。「ハヤサカ先生!」なんて誰かがハヤサカのことを呼ぶ声がしたものだからハヤサカ共々其方を見れば、見たことのある生徒――二組の生徒なんだろうな――が慌てた様子で此方に滑ってきていた。
「……どうかしたんですか?」
「う、ウタカタ先生がこけて起き上がらないんですけどどうしたら良いですか!?」
「そのまま野垂れさせときなさい」
「え!?」
「冗談です」
冗談言うなら其の止してよハヤサカ。
はぁ、と深々溜息をつけば仕方が無いと言った具合に歩き出し、「何処に居るんですかあの人は、……全く世話の掛かる」なんて漏らしながらも助けに行ってあげる感じだった。流石はハヤサカ、見た目は鬼畜、頭脳は天才、中身も鬼畜、でも優しさだって持ってます☆ が売りの教師だよ。(※売ってません)
「いってらっしゃーい」
にっこりと、我ながら嫌味たらしい笑みをハヤサカに送って俺はひらひらと手を振った。ふ、あの人絶対鬼にはなれないタイプだな。
スキーももう終わりなのに何時も通りだなぁホノちゃん、なんて思いながら、俺は端っこで寂しんぼやってるあっ君の横にでも座っていようと其方に向かった。
運動は嫌いじゃないけどスキーだから言わせて貰おう、嗚呼、やっと帰れる。