312+風邪が大流行中。
「――あっくーん!」
廊下から誰かが人の名前を叫んでいる気がする、っていうか確実に特定の一人に呼ばれてるんだけど生憎姿が見えないからスルーしてみていますアサキです。
「ヒコク君、明らかにゼン君が呼んでるっすよ」
「ゼン君、あー君に何の用なんだろうねえ?」
他二人もそう言いつつスルーだから良い性格してるよ、特にフドウ、お前はあれと幼馴染じゃあ無かったか。
昼食後の昼休み、何時もの如くのんびりと憩いに徹していれば廊下からゼン君が呼んでるっぽかった。何時もだったら平気で突っ込んでくるのに一体どうしたってんだ迷惑だからとっとと入って来いよ、其れとも何か企んでんの?
「フドウ、面倒だからお前行け」
「えー、呼ばれてるのヒコク君っすよー? ゼン君もきっとヒコク君に来て欲しいから――」
「良いから行け其れかしねよ」
「毎回思うっすけど清々しい程選択肢が少ない!」
騒ぎながらも結局席を立ったちっさい金髪――こいつ何時になったら髪色直すんだか――はすたたっと素早く廊下へと消えていった。
「あっくんって本当に期待を裏切らないよね」
「一体何だってんだ」
五分か其処等かしてから、フドウとゼン君が一緒になって戻って来た、否、ゼン君の場合はやって来ただが。何故か苦笑気味なのがちょっと気になる。
「いや、ゆっ君がね、中途半端に何か企んでそうなことするとあっ君は警戒するって言うからやってみた」
「何て無駄なことを……」
「ゼン君はそんな無駄なことに全身全霊を掛けられる人なんすよヒコク君!」
「ちょーいシギ、本人の前でそういうこと言わないの」
ガッツポーズを決めつつ言うものだから僕は若干納得した。まぁゼン君だしね、学校のテストよりゲーム優先しちゃうゼン君だもんね。……まぁ僕も人のこと言える立場じゃないんだが。
「で、何か用事あったんじゃないの」
「嗚呼、うん、俺は特に用事無いよ」
「は?」
「うんごめんあっ君睨まないですんません」
そんなに謝らなくても良いんだけど、え、そんな強く睨んだ?
ゼン君の訳分かんねぇ言い草に苛立ったのは確かだが出来ればとっとと用件を言って欲しい。何も無いのに呼んだんなら改めて蹴り飛ばすから其れは其れで。
「まぁ、別に本人に言われた訳じゃないんだけど、今さっきゆっ君とカイ君が用事あって体育着で外出てったんだよね」
「何しに行ったのお?」
「多分生徒会の仕事じゃない? ハヤ先輩に前頼まれたんだと思うよ。まぁ其れは良いんだけどさ、」
ゼン君は窓の外を見る、僕等の席は窓際じゃないから勿論校庭すら見えやしないんだけど、ゼン君の視線は何処か吹っ切れた笑みだった。
「カイ君、ジャージ忘れたって半袖で出てったんだよ」
「は?」
吹っ切れた笑みの理由が一瞬で分かった、――あいつ馬鹿なんじゃねぇの?
「いや、俺も今日ジャージ忘れたから貸せなかったしね、だから――ってあれ、あっくーん?」
免疫力なんて微塵も持ち合わせてない癖に何してんのあの馬鹿、スキー研修も近いのに其れで風邪引いたらどうする気なの、別に僕は一向に構わないんだが行けなかったら行けなかったで絶対落ち込むし其れが一番うぜぇんだよなあいつ。スキーだけならともかく歩きで学校行くの怠いし。総計するととにかく――風邪引かれたら面倒なのは絶対僕であるということだ。
ゼン君の声も聞かず自分のロッカーへと向かえば中に入れておいた自分のジャージを持ち出して、そのままゼン君に投げ付けた。我ながら言おう、よく届いたな。
「持ってけ泥棒!」
「あっ君テンションぶっ壊れてるけど大丈夫かしら」
うるせぇテンション壊れ気味なのは自分がよく知ってらぁ。
再び苦笑したゼン君はじゃ、届けとくね、と言って教室を後にした。
「ゼン君やっさしいねえ、テナ感心しちゃったあ。下手したら惚れちゃいそうだよお?」
「ゼン君にっすか……? ……ゼン君、確かに格好良いすけど……」
「ナルシストなのと女好き無くせば良い物件だろうけどな、あと弱ロリコン」
「弱ロリコン!? 其れミヤコちゃんだけにっすよ!?」
「ミヤコちゃんってだあれえ? あ、でも安心してえ、テナはシギシギのこともあー君のことも大好きだからあ」
フドウもドウモトも何か言ってるけど、僕は一人全国何処を探しても完璧な人って居ないものだよな、とつくづく思った。まぁあのマヒルにすら苦手なもんがあるんだから仕方ないか。