31+来ちゃいました。
「う、うう……」
「り、リョウちゃんどうかした……?」
どうしよ、来ちゃった……。
こ、こんにちは、昨日はお騒がせしました、リョウコです。皆からはリョウって呼ばれてます……ううう。
「リョウちゃんが行こうって言ったから来たんだよ……?」
「わ、分かってるわよ……? でも、心の準備ってもんが……」
今、幼馴染で親友なモモと、ある一軒の家の前に立っています。表札には――“緋刻”という文字が。
「リョウちゃん、アサキ君にハンカチ借りて、返したいからって……」
「え、えぇ! 明日でもいっかなとか思ったけど、こういうのは……早めの方が……」
私は小さな袋に入れてあるハンカチを見た。昨日帰ってすぐ洗ってアイロンをかけたハンカチ……ま、まぁ借り物だから此れくらいは当然よねっ! いちいち二組の友達に聞いて家まで来たって当たり前よねっ!
「――リョウちゃん可愛い」
「何か言った?」
「ううん、何も」
何でも良いわ、もう五分近く此処に居るんだもん。早くこのインターフォンを押して返して帰るのよ、私!
「じゃ……いくわよ……?」
「うん」
「……」
よし、押すわ、押すのよリョウコ! こんなちっぽけなボタン、私に押せない訳ないじゃない! さぁ!!
すぅー……はぁー……(※深呼吸)
「リョウちゃん、深呼吸って心を落ち着ける方法としては間違ってるらしいよ?」
「え、そうなの?」
「うん、テレビでやってた」
うわー、知識が増えたわー。――じゃなくて!!
よし今度こそ――
ガチャ
「行ってくるー!」
「「あ」」
「え?」
扉が開いた、私は未だ押してないのに。しかも其処に居たのは違う方。
「ヒコクユウヤだわ」
「だね」
「……」
間。
「えーっと――ごめんなさい!!!!」
バタンッ!!
「「……」」
えええええええええ!?
「ユウヤ君、昨日からずっとあんな感じなの。私見る度謝ってきて……謝るのは私なのに……」
それじゃあ二人でずっと謝り詰めじゃない! ……其れは其れでとても面白そうだから見てみたかったわとか思ってないんだからね?
「とにかく、どうする?」
「どうしようか……」
少し考えていると。
ドタドタドタ
『ちょ、待て、押すな、こける』
『いーから! きっとアサ君に用があると信じたい!!』
『希望的観測じゃねぇか』
ドタドタドタ
と中からこちらに走って来る音が斑に聞こえる……。――えぇ!? ヒコクユウヤの奴ヒコクアサキを連れて来ちゃったの!? 待ちなさいよ! 私未だ心の準備が……!!!!
ガチャ
「「あ」」
「り、リョウちゃん……?」
ヒコクアサキと私が同時に相手を見つけて一言。
扉のノブを持ったまま固まるヒコクアサキと其の後ろで隠れてるヒコクユウヤ。
「どうしたの」
「うあ、えと……」
どうした私! 何時もの私らしく!! はっきりズバッと物申すのよ!!!!
「……」
「――こ、此れ返しに……ねっ?」
私はどこの乙女よぉおおおおお!!!!
小さく微笑む様に私はヒコクアサキにハンカチを差し出す。いや、まぁこんなで良いのよ。渡せればこんなだって!!!!
「嗚呼……んなの明日で良かったのに……」
「“思い立ったら祝日”よ!」
「リョウちゃん、今日祝日じゃないよ……?」
「今日日曜日じゃなかった?」
「ラン、ユウヤ、そしてカトウ、それを言うなら“思い立ったが吉日”……だ」
ちょ、間違えた! てか頭良いなコイツ!!
「と、とにかく返したんだからね! 後、ヒコクユウヤ!!」
「は、はいリョウコ様!」
「様は要らない! アンタは私に正しい事をしたんだから謝らないで! 次謝ったら今度は私が直々に殴ってやるんだから!!!!」
「分かりましたリョウコ様!!」
だから様は要らない! 敬礼するんじゃないわよ!! そして何で本名になったのよ!!
「ちなみに私にも謝らないでねユウヤ君、私が、叩いちゃったんだから……」
「う、うん、分かった……」
そして私はすぐにその場を去――
「カトウ」
――れず。
「な、何?」
背を向けて、すぐに去ろうとした私を呼ぶ奴。ヒコクアサキ、あんたは一体何なのよ!!
「わざわざどーも、ありがと」
………………あ。
「あ、あ、あ……当たり前の事をしたまでなんだからね!!!!」
「え!? ちょっと、リョウちゃん待ってよ~!」
モモの言葉を聞く事なく、私はついダッシュした。な、何なのよリョウコ!! 何があったのリョウコ!!
私はそれが分からないまま、とりあえず家までダッシュした。
一方。
「アサ君」
「ん」
「リョウコ様――じゃなくてリョウコちゃん、完璧に……ううん、何でもない」
「何、……そういえばユウヤ、お前アスカ君家行くんじゃないの?」
「……行く気ってか気力ってか無くなっちゃったから良いや。突撃するつもりだったんだけど」
「そ」
何時までも平凡なヒコク家があったりする。




