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305+不本意ながら捕獲しました。/前



「もー、いーくつでーるーと!」


「出るな、寝ろ」


 ユウヤの場合何処かに出ると正月が来るらしいが何処に出るんだろうか、アサキですが。っていうか外で歌うなよ、家とか学校でならともかく――学校でも出来れば黙ってて欲しいけども――。

 お節の買出しに行くぞー、とか何とかで朝早く起こされたんだがどうしても動く気になれず、結局家を出たのは昼近く。別に急ぐ訳でも無いとか言ってたがだったら明日だって良いじゃないか、という僕の文句は聞き入れられなかった。こんの主夫め……!

 久し振りに外に出てみてもやはり滅茶苦茶寒く、マフラーもコートも身に付けたのにやはり寒い。横の馬鹿はマフラーだけで満足そうに笑っていやがって何がそんなに満足なのか尋ねてやりたいものだ、そのマフラー吹き飛ばすぞ。



「此れで大晦日はゆっくり出来るよー! 皆で初詣だって出来るしね!」


「別に買い物関係ないだろ」


「関係あるよ! 明日お節作っちゃえば明後日ゆっくり出来るでしょ?」


「どっちにしろ僕は暇だけど」


「まぁアサ君はそうでしょうね」


 はん、悪いか。



 外に出るのすら億劫な僕が買い物に付き合ってやっただけで褒めるべきだ。

 と、沢山の食材の詰まった真っ赤なエコバック――最近買ったらしくヤケに推してきた――を引っ提げるユウヤと僕(僕のエコバックは緑だけど)は昼下がりの癖して寒々しい家路を歩いていた。



「……あ、」


「……ん」


 とっとと帰って炬燵で寝てしまおうと思っている僕は気持ち歩みが速まっていたみたいだが、其れは何故か立ち止まったユウヤとの距離が大分空いたことで気付かされた。え、何、どうかしたの。


「ねぇねぇアサ君、あれって迷子だと思う?」


「……は?」


「うん何かごめん面倒なもの見つけてんじゃねぇよって言いたいんだよね」


 僕から見えない曲がり角先を指差すユウヤについ溜息をつくけど、本当に迷子なら置き去る訳にもいかないだろう――僕は一向に構わないけどユウヤが絶対動かない――。少し戻ってちらりとそっちを見てみれば、人影が二つ、だが二つは二つでも幼い影が二つ並んでいた。


「遊んでる、だけかな?」


「公園も何もない此の街中でかばかやろう、声掛けんならとっとと行って来い」


「え、アサ君も一緒に行こうよ」


「何故だ」


 僕と違って子供好きだからああいうのも苦じゃねぇんだろうな、僕だったら絶対嫌々になるだろう。

 結局引き摺られるように、渋々、仕方なく――色々と嫌々なのを告げる為に並べてみた――着いて行くけれど、何かもう子供を見たくも無かったので明後日の方角を見遣っていた。

 なのに、「あー!!」とか、何故そんな叫び声を上げたのか分からなかったけれど、いや、多分僕等が近付いたからなんだろうけど、だからってあー、とか叫ばれたら流石に見ない訳にはいかないだろう。再び渋々其方を見れば、其の叫び声の主であろう子供が僕を指差して硬直していた。何だよ、指差すなよ――


 って、……あ。





「あっくんだー!」


「あ、……みーさん」


 何てことだ、リアルに知り合いだった。正確には、知り合いの姪っ子。

 真っ黒い(つぶ)ら此の上無い瞳を僕に向けてきてきる此の子、ゼン君の姪っ子こと……ええと、ミヤコちゃん、だったっけ。が僕を指差して先程から停止なさっている。


「え!? アサ君小さい子に知り合いとか居たの!? 何で!? 最早羨ましい!!」


「そういう問題かよお前は」


 かっとなって言うから何かと思えば羨ましがるな、こちとら不本意だ。しかし子供にそんなことを言う訳にもいかず、とりあえず「人に指を差しちゃ駄目ってゼン君かお母さんに習わなかった?」と尋ねたけど、みーさんは首を傾げるだけだった。ええい、此れだから子供は。

 しかし指差すのはやめたみーさん、隣に立っていた彼女より少し年上の女の子の後ろに隠れれば、じっとユウヤの方を見ている。


「アサ君、此のあからさまな拒絶は何かな」


「人見知りだってゼン君が言ってたけど」


「っていうか誰? ゼン君の妹さん?」


「姪っ子」


「可愛いからどっちでも良いけどね!!」


 お前何なんだよ。



「みーちゃん? どうしたの?」


「しらないひとぉー」


「大丈夫だよー、ソオが守ってあげるからねー」



 で、だ。

 別にみーさんが此処に居ようが隣の此の子が誰とか全然気にしないんだけども、だ。


「何、君達二人なの」


 ゼン君の家から此処って結構距離あるんだけど、見積もって平均小学一年生の子等が二人で何してるんだ。


「そーちゃんとねー、あそんでるー」


「嗚呼そう」


「あ、さ君、そんな言い方じゃあいけませんよ!」


 ちょっと前から発狂寸前状態になっていたユウヤが覚醒して、僕にそんなことを言ってくる。じゃあお前が話せっつーの。

 そんな気持ちが伝わったのかよいしょ、と荷物を持ったまましゃがんだユウヤはにっこりと笑みを浮かべ、幼い彼女等と話す体制に入る。


「二人で遊んでたのかな?」


「そーです」


「じゃあ、お名前は?」


「そーです」


「……え?」


「ちょっと間違えました、ソオです」


「あ、ソオちゃんなのね、……お家の人は?」


「お家でお仕事してるから、今日はソオがお姉ちゃんでみーちゃんと遊んでたんだよ」


「そっか~、偉いんだね~!」



「デレッデレしてねぇで本題に入れクソヤロウ」


 やり取り見ててちょっと苛々してきやがった、違った意味で僕が発狂しない内にとっとと話を聞け阿呆。

 苛々を抑えることなくユウヤに伝えれば仕方なし、と笑みを濃くして喋る彼女に尋ねる。


「ええと、みーちゃん、て言ったかな? みーちゃんのお家の人は?」


「……おかあさんはいないけど、おにーちゃんはおうちだよ」


「……二人は、このままお家に二人だけでちゃんと戻れるのかな?」



 二人は顔を合わせる、合わせる、けど、――二人してクエスチョンマークじゃねぇか此の野郎。



「ソオ達ね、靴さん飛ばしながら此処まで来たの」


「靴?」


「うん。靴さんが立ったらこっちに行ってね、ひっくり返ったらこっち行くの」


 少女が言うに最初のこっちが右で、後のこっちが左らしい。――要するに、適当に進んできた訳か、ええ?

 ……要するに、ユウヤが最初言ったので間違いじゃあ無かったんだな。



「……はぁ」


「アサ君、此れ見よがしに溜息付かない」








 だって吐きたくもなるだろ、何つー面倒臭さだよ……此れ。




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