303+休みの日の学校。
「リョ、ウ、コー!!」
「ひゃ!」
ちょっとした用事で休みだってのに学校にやって来たのだけれど、教室にて私を呼ぶ声に振り向けば、タックル宛らに誰かが抱きついてきた。リョウコです……びっくりした!!
「ちょ、何!? いきなり飛び付かないでよっ!!」
「えへへっ、びっくりしたあ? ごめんなさーい」
にこにこと何がそんなに満足なのか可愛らしい笑顔を向けて来る訳だけれど、嗚呼、やっぱりアンタなのねテナ、其の笑顔に此の子は化粧とかしなくても可愛いんじゃないかしら? なんて思うんだけれど……いや、此れは女の私から見ての見解だから何とも言えないけれど。
という訳で美術部の部活動で学校に来ていたテナだった。
「休みにリョウコに会えると思ってなかったよお!」
「まぁね、ちょっと委員会の仕事間に合わなくて」
「あ、ねえねえ、ミノちゃん見たあ?」
ミノルを探しているのかしら? 首を傾げて尋ねてくるものだからつい辺りを見回してみるけれど、陸上部のあの子を教室である此処で認めることは出来ない、よく考えれば当たり前なんだけど。っていうかテナも何で教室来たのよ、偶然探し回ってて教室ってアンタはミノルを何だと思ってるの。
「ミノちゃん、今日は午前中で部活終わりだって言うから教室で待ち合わせてるんだよお」
嗚呼、そういうこと、何かごめんなさいね馬鹿とか思って……!
私が見ていないと告げればテナは「じゃあもうちょっと待ってよっと」と私の席に座り込む、まぁ私もついでに寄っただけだし少しくらい話し相手になってあげても良いかしらね。
その隣に座って休みの部活なんて懐かしいなぁ、なんて思っていれば、急にテナがぱんっと一度手を叩いて、満面の笑みで私を見上げた。
「ねぇリョウコ! 此れから暇あ?」
「……はい?」
まぁ、部活も無い――あって無いようなものだけど――し、暇と言えば暇だけど。元々暇だから委員会なんてものの為に学校に来た訳だしね。
「此れからミノちゃんと一緒にい、ケーキバイキングに行くのお! リョウコも一緒に行こっ!」
「は? バイキング? でも私今日お金あまり持って来て――」
「券があるのお! 一枚で三名様までだからあ、リョウコも一緒に!!」
先ず昼ご飯どうすんのよ、午前よ、ってツッコミは多分通じないんでしょうね。
ヤケにキラキラした視線を送ってくるものだから有無を言えなくて。……別に良いんだけどね、ケーキ好きだし、券あるなら安いってことだし。
「でも、ミノルに言わなくていいの? アンタが無断で誘って」
「ミノちゃんはリョウコのこと大好きだからきっと喜ぶと思うよおテナ」
嗚呼そう、……普通此処は照れるところなのかもしれないけど何かアンタに言われると別にどうでも良くなるわ。
えーっと、で、バイキングだったわね。うん、此の後本当に予定が無いかどうか考えてみるけれど、此れといって何かがある訳でも無かった。二人とは最近遊んでなかったし、食べがてら話すのも良いかも。
「ええ、別に良いわよ」
「やったあ! 久し振りにリョウコとミノちゃんと遊べる!」
「あれ、何アンタ、ミノルとも遊んでなかったの?」
「うん、最近のミノちゃんは部活で忙しかったからねえ」
腕を組んでうんうん、と頷くテナ、同じ部活動なのに私と偉い違いだなぁ、なんて思いながら未だ姿を見せないミノルに感銘を受けた。陸上部って大変そうだものね……、今更運動部とか絶対に無理だわ。昔は馬鹿みたいに放課後も休みも部活部活部活だったのよね、何で保ったのかしら私?
「ふうん……やっぱり、運動部って大変よね、私の中学の時バド部だったから分かるけど」
「そうだねえ、テナも昔は運動部だったしねえ」
「え、そうなの?」
うん、と自信満々に頷いたテナ。何だ、テナってこう見えて――ごめん、ちょっと失礼だけど――すっごく絵が上手だから昔からずっと美術部一筋なんだと思ってたわ。というかこの前美術部としか言ってなかった?
「テナも薙刀部だったのお」
「な、薙刀……?」
「ミノちゃんは陸上部と掛け持ちだったから、今よりハードだったんじゃないかなあ?」
そういえばそんな部活の話をしたことあったわね……薙刀部……珍しい部活もあったものよね。
……そうよね、よく考えるとミノルは運動部を掛け持ち? 陸上部って其れじゃなくても大変そうなのに、そんな大変そうな部活を掛け持つなんて……あの子の凄さを改めて知った気がしたわ。あの子……滅茶苦茶体力あるのね……そういえば持久走も結構上位に居たし、当然と言えば当然かしら。……あれ? 短距離走の選手よね? そんなに体力って必要? ……まぁ良いか。其れ以上に此れでテナの運動神経がヤケに良い理由が分かった、美術部なのに走るの得意って凄いと思った。
「まぁ、高校では案の定無かった部活だからあ、ミノちゃんも私も今の部活なんだけどねえ」
「そっか、まぁ良いと思うけどね、自分に合う部活なんてやってみなきゃ分からない訳だし」
「そうだよねえ、テナ、絵ぇ描くのは昔から好きだったけどお、今みたいにちゃんとやるのは初めてだしねえ。でもすっごく楽しいからあ、入って良かったなあって思う!」
よく考えれば私もそうだ、ゲームとかやって何が楽しいのかとか思ってたもの。けど誘われるまま入って、結構楽しんじゃってるんだから人間どう転ぶかは分からないわ。
「テナは絵、上手いしね」
「そんなこと無いよお! テナなんて全然! 先輩とか超上手いんだからっ!」
美術部の人の絵とか全然知らないけど、テナがノートとかに描く落描きは充分上手いと思う。教科書とか貸すとびっくりするくらい絵が増えてるし、落描きしないと生きていけないんだと豪語していたのを覚えてる私はどうすれば良いのかしら。あれで上手くないとか謙遜でしかないわ、私の画力の無さ見せてやろうかしら!!
「私から見ればアンタも充分上手いわよ、自信持ちなさいって」
「……ほんとお? じゃあ、何時か見に来てねえ? 絶対だよおリョウコ!」
「はいはい、分かったわよ」
ずいっと前のめりになって言うテナが何処か必死で可愛らしくってつい笑ってしまったけれど、テナもつられるようにして笑ってくれたからまぁ良いかな、なんて思った。
「――テナ、遅くなっ……リョウコと話していたのか」
「あ、ミノちゃん! よしリョウコ、急いで行くよお!」
「あーはいはい。さ、ミノル、行くわよ」
「……? ……ふっ、嗚呼、行こうか」
少ししてやって来たミノルが素っ頓狂な顔をしたのを見て、私とテナは顔を合わせて笑った。アンタが遅くなったのがいけないんだから、さっさと行くわよ!