297+テスト前って結構テンパる。
ユウヤでっす! 放課後でっす! 学校って授業中は長く感じるのに終わると直ぐ日が暮れちゃって。何でだろうね、って昔アサキとマヒル兄に言ったら其れこそクソ長い説明をされたのを覚えている……。ええと、平たく言えば相対性理論っていうやつで――ああもう其処から平たくない! っていうか今の俺にそんなこと考えてる時間無いんだってー!!
「――だから、何度同じ説明させれば分かるのよっ!」
「何回でも! せめてもう五回は教えて欲しいかなっ!」
学校帰りの道ですら時間が惜しい! テストがこんなに迫ってたなんて俺思っても見なかったもんで……!!
部活も無いしゲームに夢中なゼン君が勉強教えてくれないしアサ君平日だと帰ったらほぼ百パーセント寝ちゃうし! ってことで学校帰りの道を歩きながら教えてもらっています。本日の先生はリョウちゃんです。数学とか化学とかそういう理数系は得意だっていうから教えてもらってるだけど、普段教えてくれてる人は俺がどれだけ馬鹿か分かってて教えてくれてるからすんごい初歩から教えてくれるんだよね。けどリョウちゃんは「こんなに出来ないのによく学校通ってるわねアンタ……!!」とか完全な真顔で言ってくれちゃうもんで苦戦しています。
ちなみに俺は自転車通学だけど歩いてるよ、リョウちゃん歩きだし! 俺の自転車は後ろでだれてるアサ君が持ってくれてるよ! だれてるなら教えてくれれば良いのに!
「まず、何を出すかは分かってるのよね?」
「其処まで馬鹿にされちゃあ困るぜ姐さん! こう見えてざっと見るからに――」
「見えてと見るからにじゃ被ってんぞ」
「……エックスですね分かります」
「良かった、分かって」
そ、其れくらい分かってたもん!! だたちょっと日本語ミスったのをアサキが何か言うから吃っちゃっただけだし!!
家路まで歩いてみると案外遠いもんだなぁ、なんて思ってる時間なんて無いんだけどそう思ってしまった俺は、はたと正面から歩いてくる人影に気が向いてつい笑顔になった。
「あ、せっちー!!」
「せっちー?」
リョウちゃんは不思議そうに首を傾げたけど、あの銀髪は間違いない。俺の方を見たからぶんぶん手を振ったら「おお、ユウヤ?」なんて呟いて人影ことせっちーがこっちにやって来た。っていうかせっちー、会うの文化祭振りじゃない?
「久し振りー!」
「おう、ユウヤもアサキも久し振り。えっと、リョウコちゃんでおけ?」
「あ、はい、お久し振りです、セツさん」
そうか、せっちーとリョウちゃんなんてもっと久し振りなんだ。二人共覚えてたようで何よりだよ! ――ってアサ君、少しくらい反応返そうよ、自転車のベルで遊ばなくていいから。
「今学校帰り? 怠ぃなー」
俺は今日休みだしー? とかなんとか嫌味な一言を付け足してせっちーは何時も通りへらへらしていた。こっちはテストで切羽詰ってるって言うのに!!
俺やリョウちゃんがノートやら何やらを持っていることで其れに気付いたらしいせっちーは、若干うわあ、的表情をしてから俺のノートを覗く。
「嘘、テスト? 無いわー」
「無いわーって言ってもやらねばならぬのだよせっちー」
「あっはっはそりゃそうだよな、俺も高校ん時死んだ覚えあるわ」
「せっちーだもんね!」
「ははっ! ――とっても複雑な心境だ、俺」
幸薄い表情を見せたせっちーのことはまぁ気にしないけども。
「ていうかセツさん、こんなところで何してんの」
そろそろ帰って勉強しなきゃな、とか思っていたらやっとのことで弟が喋り出した。まぁ俺も気になってたんだけどさ、だってせっちーの家こっちじゃないじゃない。
聞かれたことにキョトンとしたせっちーは後頭部で手を組みながら少し考えている様子を見せて、「俺はー……特に何ってことはしてないけどな……」とか呟き出した。え、何も無いの?
「大学休みで暇だったから本屋行ったりゲーセン行ったり公園行ったりしてただけだぜ?」
「い、良い大学生が何故公園……!」
「リョウちゃん、せっちーにツッコミを入れたら負けだよ」
自由奔放だしね、此の人俺が言うのも何なくらい自由だから。わなわなしてるリョウちゃんをそう宥めてみるけど、せっちーは結局笑い飛ばすだけだった。
「んまぁテスト頑張れよー、俺でも赤点がギリ回避してたんだからな!」
「うええっ、せっちーの裏切り者ぉ!!」
「え、な、何かごめん」
弱いなおい。
本当に何の用事も持ち合わさずに出歩いていたらしいせっちーはじゃーなー、とのんびりした調子で再び何処かに消えていった。
「相変わらず愉快な人だなぁ」
「お前に言われたらおしまいだな」
「其れもそうね」
せっちーじゃないけど複雑な心境だよ畜生。
っていうかそんなことしてる場合じゃない……! べ、勉強しなきゃああああああ!!!!