295+十二月といえば。
「走れ橇よー風のようにー雪の中をー」
兄の気が早い、アサキですが。
あれよあれよと年の終わり月となってしまった、やりたかったこととか別に思い浮かばないけれど早いなぁ、とは思う訳で。
師走というのは年末になると坊さんが経を上げる為に『師馳す』ことから来てるのはWiki先生に頼らずとも皆知っていることだっていうのは――いや、他にも由来はあるらしいけど――……うん、ハードル上げるのはやめよう、目の前で此れみよがしにクリスマスツリー飾り付けてるこいつが知っているとは思えない。
学校から帰宅して直ぐ、食卓机にてぼうっと頬杖を着く僕はそんなことを考えながらユウヤを見る、お前何歳だっけ。
「こらアサキ! 暇なら此れ手伝ってよ!!」
「嫌だよ面倒臭ぇ、そういうのはマヒルに頼めよ」
「居たらとっくに頼んでマス!!」
ぎゃーぎゃー騒ぐユウヤの言う通り、先月まで馬鹿みたいにひょっこり帰省していた――近いけども――マヒルは再びひょっこり帰って行った。『テスト近いんだよな』とか漏らしていたけど本当にただただ暇だっただけなのか兄貴よ、どんだけ自由なキャンパスライフだよお前。
「折角のクリスマスなんだから楽しもうよ! ほら、皆でパーティーしようパーティー!!」
「どうせただのイエスの誕生日だからな?」
「そういう冷めたこと言わないの!」
チッ、うぜぇ。
騒ぐなら一人で騒いでくんねぇかな畜生、口に出したらマッハで落ち込みそうな言葉が脳内につらつら浮かぶけれどまぁ良いでしょう、此処は大人しくゲームしましょう。
「よし、出来た!」
「あ、てめ、いきなり叫ぶなクソ野郎」
つい驚いてムービースキップしてしまったじゃないかどうしてくれる。あーあー分かんない、何でこうなったのか分かんない。後で見直すっきゃねぇな此れは。
先までユウヤが居た方向を見れば姿は無く、何処に消えたかと背後を見ればキッチンに居た。
「……何が出来たの」
「勿論美味しい夕ご飯ですけれど」
「ちょっと待て、未だ五時だ」
夕飯早ぇよ、何で先走ったよ。
「何、急にどうしたの」
「今日のメニューは鳥手羽のから揚げです」
「あれ日本語通じねぇ」
無駄なキメ顔で何言ってんのこいつ、否、何が言いたいの。
「一人でクリスマス気分してたらテンションの下げ方が分からなくなったもんで」
「……其れを料理にぶつけたってか」
「オールライト!!」
「英語の日本語的発音うぜぇ」
あ、落ち込んだ。
「こ、此れでも最近英語頑張ってんだからね!?」
「遅い、三年前からどうにかしろ」
あ、更に落ち込んだ。
……ん、此処は励ましておいた方が勉強意欲向上したのか? しまった間違えた。
「ふっ、どうせ俺は実技以外オール2だよ……」
「え、待て其れ初耳」
「どうせそうだもん! 俺得意科目なんて無いし無理無理無理!!」
うわあ滅茶苦茶自暴自棄、面倒だけれど放っておくと暫くシケてより面倒なんだっていうことを僕はよく学んでいる。
だから何か言葉を、ええと、
「べ、勉強だけが人生じゃないよ」
「じゃあ何か俺を褒めて!」
「……」
――しまった思い浮かばない。
「……」
駄目だマジ泣き五秒前の表情だやばい面倒になる急がなければ……! 待て待て待てさっきまで元気だったろ此れだから喜怒哀楽に忠実な奴は困る!!
「良いもん俺の利点なんか家事くらいしか――」
「お、お前が居ないと僕が生きていけないだろ」
――我ながら際どい台詞吐いた。
……慌ててると人間たまにやらかすよね。此れ場面が場面で相手が違ったら大変だった、っていうか僕そんなキャラだったか。……久しぶりにテンパり過ぎた。
とりあえず表情には出ていないだろうから一度咳ばらいをして落ち着こう、ユウヤがポカンとしてる。
「家事だって立派な利点だろ」
「……まぁ、アサ君からすれば――コントローラー振りかぶらない怖い!」
悪かったな此の野郎、どうせ生活能力は向上しねぇよ。
「まぁとにかく、人には向き不向きがあるんだから仕方ないよ」
「アサ君が運動嫌いなように?」
「……もう其れで良いよもう怒んないよ」
僕を怒らせたいんだろうかこいつは。
けれどマジ泣きしてシケるのは回避出来たようでそうかそうか、と数回頷いている。
「うん、よし、頑張ろう」
「何を」
「苦手なこと! ――そうすればアサキの生活能力も上がる気がげふっ!」
「死にさらせ」
「事実じゃん! っておま、やめんしゃい其れ花瓶花瓶花瓶!!!!」
とりあえず、今日も平和だなぁと思いました。……え、違う? 何が?