289+里親探して三千里。
ユウヤですよ、夕食の買出しの帰りですよ。
ふふっ、今日は特売だったから美味しいお肉を大量ゲーッツだぜ。まぁそうは言ってもうちは二人だから結局買い溜めになるんだけどね、弟そんなに食わないんだわ此れが。食える癖に食わないって感じなのか、そんなに大食いじゃないのかは分からないけど。食おうと思えば多分俺よか食えんじゃないのかなぁ、……嗚呼、俺が勢いつけて食い過ぎなのか納得。
「ユウヤく~ん」
「ん?」
そんなどうでも良いことを納得していれば、何処からか俺を呼ぶ声が聞こえた。うん? 一体何処から?
「あ、モモちゃん!」
「こんばんは~」
未だこんにちはだけどモモちゃんだから良いよね! なんて甘い考えはさておき。とことこ、と此方に歩み寄ってくるモモちゃんは何時も通りへにゃんとした笑みを浮かべていた。そして何かを手に抱えている、……うん、アレは何だ? 近付いていけば分かったけれど、其れはダンボール、そして其の中には――
「見て見て~、可愛いでしょ?」
「うん、可愛い猫たちだね! でもダンボールに入れて抱えることは無いと思うよ」
「だよね~」
数匹の、正確には三匹の子猫が居た。畜生可愛いじゃねぇか。
「親戚の猫ちゃんが子供を生んだっていうからね、貰ってきたの~。実はもう二匹居て、でも五匹も貰えると思ってなくてびっくりしてね」
「へぇ!」
「というか多分、うちじゃあそんなに飼えないんだよね~」
「え?」
少し困り気味なモモちゃんはダンボールの中の猫を見てから俺を見る。
「だから今友達の家回ってて、一匹はうちに、あと一匹は貰ってもらえたんだけど……」
実際の猫ちゃん五匹も居たのか。
うーん、猫は確かに可愛いけど、……あのアサキが小動物を飼わせてくれる気がしないしなぁ……。
「うちは駄目だと思うしねぇ」
「だよね~、アサキ君だもんね~……何かごめんね」
アサキ、納得されちゃってるよ。
でもまぁだからと言って此処で見捨てる訳にもいかないよね、友達が困ってるのを放っておく訳にはいかない! って訳で、
「俺も一緒に回ってあげるよ! きっと見つかるから!」
夕飯の買出し帰りなことを既に忘れた俺は、モモちゃんと一緒に里親探しの旅に出ることにした。
女の子のお友達は一通り回ったということで困り果てていたらしいモモちゃん、ちなみにリョウちゃんの家は妹ちゃんが猫アレルギーだそうで無理なんだって。本人は至極惜しい顔をしてたらしいけど。
「カイト君とかは?」
「ロクジョー君? 猫とか大丈夫かなぁ?」
何となく猫とか好きそう、どうだろうか。という訳で連絡を取ってみよう。やっぱこういうのは先に電話で連絡した方が良いよね?
『猫? ああ、良いぜ』
軽っ。
『あーでも姉ちゃんに聞いてみるわ、今家に居ねぇから、保留にしといてもおけ?』
「うん、全然大丈夫だよ!」
という訳で里親一人目決定(仮)。案外居るものだなぁ、こういう軽い人。モモちゃんは「流石はロクジョー君だね~」なんて言ってたけど、……まぁ、ウミさんなら何だかんだで大丈夫って言ってくれそうだよね!
探すより電話で聞いた方が早いことがたった今此処で発覚した俺達は、其処から一番近かった公園で知り合いに片っ端から電話することにした。アスカとユキちゃんは中学の時に動物飼えないって言ってたし、――アスカは体調の問題で、ユキちゃんはリョウちゃん同様動物アレルギーのお母さんが居るとか――後は誰に掛けようか?
「モモちゃんは知り合い全部回ったんだよね?」
「うん、元々友達とかも少ないし」
おっと墓穴を掘った、モモちゃんが寂しそうだ! ええと、ええと、あ、そうだ。
「じゃあモモちゃん、俺の高校の友達に聞いてみるのはどう?」
「ユウヤ君のお友達? 私は猫ちゃん達が幸せになれるなら誰でも良いんだよ~」
よし、それなら選択肢も増えるよ! 小動物好きな人とか……あ、ミノルちゃんとかどうかな?
『猫? すまない、うちは犬を飼っていて喰われるから無理だな』
猫を喰う犬って怖いよミノルちゃん。
「ま、まぁいいんだけど、其の犬が凄く気になるよ俺は、今度見に行ってもいいかしら」
『全然構わないが喰われないように気をつけてくれ』
え、俺も喰われるの? え、どれだけ危ないわんちゃん飼ってるミノルちゃん! ミノルちゃーん!!
とうとう其の犬の詳細は教えてもらえなかったけど、今は其の事は置いといて――いや、本当は気になって仕方ないんだけどね!?――里親探しを急ごう。
『猫? 何故に猫?』
シギ君の携帯に掛けたはずなのに何故かゼン君が出た。あれ……間違ってないよね……。
事情を説明していると途中から『え、ちょ、ゼン君何でボクの携帯出て……ちょ、ゼン君返してー!!』なんて声が聞こえてきたんだけど良いのかな説明続けて。
『ふむふむ、要するに例のモモちゃんが困ってるという訳だね』
あれ、此の人には其れしか伝わらなかったのか。
『でもなぁ、シギ、お前ん家ハムスターとか犬とか居たろ』
遠くから『居るっすー』と緩い声が聞こえた。
『俺ん家もなー』
そしてさらに遠くから『ミヤちゃんにゃんこ欲しー!』なんて声がした、誰だろ、っていうかゼン君何処に居るんだ君。
『え、ミヤにゃんこ好きなの? 俺としては女の子のピンチは俺のピンチでもあるし貰ってあげたいのは山々だけど、んー……ゆっ君、ちょっと待ってて』
「ん? どうするの?」
『同居人に電話する』
そう言えばゼン君は俺との通話を繋いだまま、自分の携帯か何かで連絡を取っているらしく暫し沈黙が走った。
『あ、姉貴? うちってさぁ、動物飼うの有? ……嗚呼、事情はさておき猫、……うるせぇクソ野郎俺はイエスかノーかだけ聞いてんだよ』
ゼン君、フェミニストなのに本当お姉さんだけは嫌いなんだね。……いや、逆にゼン君に嫌われるお姉さんが凄いのか?
「ユウヤ君、ゼン君どうだった?」
「未だ分からないけど……」
『イエスなのね、良いのね? ……はぁ? ミヤだってにゃんこ欲しいって言ってんだよばあかあとはお前次第だし俺的にはお前の意見なんざどーでも良いの、分かる? ……あー、はいはいはいワカリマシタお姉サマじゃーな! 働き過ぎて朽ちればいいのに』
――凄い会話だなぁ、面白いくらいに。
『あ、ゆっ君? 良いってよ、優しいお姉サマが』
「そ、そう? よか、良かった、よ?」
優しいお姉さまなんて絶対思ってないよ此の人、さっきまで電話越しでも分かる超アレな空気出てたのにあっさり戻るゼン君恐ろしい。そして其の空気に触れながら『ミヤコちゃん、オレンジジュース飲んでも良いんすかね?』『飲むー!』なんて会話が後ろで成立していることがもっと恐ろしい、慣れてる、シギ君も其のミヤちゃんって子も慣れてる……!!
「で、どうしよっか」
「あと一匹だよね~」
それから色んな人に連絡入れること三十分、俺の方のストックも切れた。結構身近な人が貰ってくれることに感謝だけど、やっぱりそう簡単に見つからないんだなー。
モモちゃんが持つダンボール箱の中には子猫が三匹、一体どうするもう一匹、余るのは誰だにゃんこ達よ。――なんて考えていたら、手に持っていた携帯が震えた。おお、バイヴ設定だったんだっけ、……ってアサ君?
其処で俺は、自分が夕食の買出し途中だったことを思い出す。
「ああああああああ!!!! アサ君ごめんなさい許して!!!!」
『……第一声目から何よお前』
光の速さで通話ボタンを押せば先手必勝謝ってみたけれど、どうやら見当違いだったらしい。不思議そうなアサ君の声に俺の方がキョトンとする。お、夕食の催促でなかった一体……?
『お前今日スープ作るとか言ってなかった?』
「え、言った」
『コンソメスープとか言った?』
「言った、まぁコンソメスープって言いましても固形のコンソメを使いまして其れにお肉や野菜を入れるという邪道メニューですが」
『コンソメっていっつも、ええと、此の、何とも言えないゾーンに置いてある赤いやつに入ってるよね?』
「何其の何とも言えないゾーンって、普通に調味料置いてあるところとか言ってくれればいいじゃん」
アサ君には何とも言えないゾーンに見えたのかもしれないけどさ。
『中身、空っぽだよ』
「え? コンソメ?」
『うん』
「嘘、マジ? 此の前未だあった気が――」
『何処かの誰かがコンソメ刻むの手伝わされて弾け飛んだじゃん』
「ごめん、何か自虐ネタ言わせてごめん」
たまにあるやる気ある周期の時手伝ってもらったら見事に三角コーナーにシュートしたんだっけあははっ! ……少しでも生活能力を付けさせなきゃなんて兄心出さなきゃ良かった。
でもまぁわざわざ報告してくれたんだから買って帰らなきゃだよねっ、スーパーの袋持ってスーパー行くのも何だけど此処はまぁ行くしかない、ぐっじょぶ俺!
『あとさ』
しかし本題があった。
『――今家にカイト来てんだけどさ、猫如きの里親探しで僕の夕飯が遅くなってるって本当?』
嗚呼もうカイト君の馬鹿あああああ!!!!
「え、本当!?」
『居ないんじゃ仕方ないでしょ、とりあえず見つかるまでうちに置いとけば? 其れより飯』
そう思ったもののアサ君は其処まで怒っていなかった、っていうか何か優しかった――ただお腹が減っていたからなのかもしれないけど――。
里親さんが見つかるまでうちに猫を置いておいて良いだなんて……! 天変地異か何かが起きるんじゃないの、ねぇ!!
『とっとと帰って来い、其れかくたばれ』
「ふぁい」
天変地異無いね、うん。