287+記憶は無くなるものではなくて、思い出せなくなるだけだとか。
アサキですが。
クラスに帰ったら僕の席に誰かが座ってた、……此の展開最早三回目なんだけど。
「あ、ヒコク君!」
「お、あっ君来た来た」
ゼン君だった、またお前か。
ゼン君は席から退けば僕に席を譲って立ち上がり、フドウの机に両手を置いて待ってたんだよー、なんて呟いた。
「どうかしたの」
「どうかしなかったら此のゼン君が一組にわざわざ来る訳ないっしょ?」
「ゲーム関連の時は直ぐ来るのにね」
「だってゲームだもん」
ゼン君の中でゲーム関連の話って何位くらいに位置付けされているのだろうか、ちょっと気になるけど口には出さないでおいた。
無駄にきりっとした表情を見せたゼン君をスルーした僕とフドウ――ゼン君に対してのフドウのスルースキルは半端ない――を放って、ゼン君はポケットから携帯を取り出した。
「ええっと、ほれ、此れ見て」
「ん」
黒の携帯をかちかちと操作してから其れが僕に渡される、……メール?
「サチトからのメール」
「先輩? あの人今日は……」
「修学旅行の振り替え休日」
確かそうだったはずだ、そしてそんな先輩からのメールが何だっていうのだろうか。
Date:11/10 12:00
From:さっちゃん先輩(笑)
Sab:さぁ!
―――――――――――――
買い過ぎた、選べ\(^0^)/
そんな文面と共に、自宅であろう広げられたお土産の山の写真が添付されていた。
「――随分とユニークな文面だね」
「あんだけノリ悪かったのに完全にエンジョイしたんだろうな此れ」
「あははっ、さっちゃんすから!」
明らかに後輩へのお土産の量じゃあない、山だ、とにかく山だ。でも其れ以上にゼン君がサチト先輩の登録名に『(笑)』を付けていることの方が面白い。
「え、一人一個? ってメール返したら其れで良いっぽかった」
「……あの人、どんだけ金持ってってたんだ……?」
「サチトで此れってことはフウカ先輩はもっと恐ろしいんだろうな」
金持ちの金銭感覚なんて考えるだけで恐ろしいけど、庶民だって此れなんだからあの人は恐らく……うわあ考えるの止そう。
「で? あっ君どうする?」
「二組の奴等は?」
「ゆっ君とカトウちゃんは何でも良いって。カイ君は何かこっちにある此の人形が良いって言ってたね」
人形――何此の人形、緑色のタコだ。いかにも変なもの好きのカイトの気を引くような一品に全僕が呆れた、え、此れを修学旅行のお土産で良いのかカイト。
「ゼン君とフドウは?」
「俺とシギは帰りにサチの家寄るからそん時に」
ふむ、そうか、幼馴染の特権という訳か。
「僕も何でも良い、――っていうのは困るだろうから適当に此れで」
「ん、了解」
ちなみに僕が言ったのは無難にチョコレートでした、チョコレートってコーヒーと一緒に頂くと美味いよね。
ゼン君に携帯を返しつつそういえば今日は一回も見ていなかった、と自分の携帯を鞄から取り出した。
「あっ君って携帯を携帯しないタイプの人間なのね」
「だって怠い」
使って無さ過ぎて綺麗な携帯を開けば新着メールが一通届いていた、おや誰だろう。基本的携帯を通話メール以外で活用しないからメルマガとかは来ないんだが。
「……あ、ユキだ」
何てことだ、今一瞬懐かしいとか思った、とりあえず其れ言ったら怒られそうだから謝っておこう、さーせんユキ。
「ユキ? あっ君が呼び捨てるなんて珍しい、女の子?」
「女の子だったら何だってんだばかやろう」
「え……だってゼン君、フェミニスト……だよ?」
「何でそんなにわなわなしてるの、え、僕が間違ってる?」
「気にしたら負けっすよヒコク君」
ゼン君に関しての事柄は基本フドウが一番だろうな、余裕で笑みを零している。
「で、女の子なの?」
「女の子のようなもの」
「……はい?」
「女の子みたいだけど実は男の子ですがー、みたいな」
確か写真が……嗚呼、あったあった。
使いはしないけど一通りの機能は熟知済みである、確か前にクラスで撮らされた写真を誰かしらが送って来たんだった。……誰だったっけ?
「ほれ」
携帯を覗き込むゼン君とついでにフドウ。
数秒停止してからゼン君が起動した。
「詐欺だよね」
「はい?」
「――可愛い子が男って詐欺だよ絶対!!」
いや何の。
「あっ君の友達って皆格好良かったり可愛かったりするけどさ! 男で可愛いってどうなのよ! あ、いや、あっ君も可愛いよ?」
「殴るよ?」
「ごめんいやマジで」
テンポの上がったゼン君が気付かぬ内に変なことを漏らしたので、座った形での本気で蹴りを入れておいた。
「でも此のユキさん? 凄くハツラツな感じっすよね!」
「っていうか此の子、文化祭来てたよね!? 嗚呼! 居たよ此の子! あれ!? 可愛い子は基本的覚えてるのに何故……!?」
「制服だったからじゃないの」
「嗚呼、野郎の制服なら気付かないな」
ゼン君は僕の隣の無人席に座って頬杖をつきながら舌打ちをした、……本当、此れと金髪さえ無ければまともな人なんだけどなゼン君て。
「あーあ、リョウコちゃんも結構イケてる部類だけど好きな人が居る訳でしょ? あーあ本当女の子って――」
「ちょ……ゼン君!!」
「え?」
「へぇ、カトウって好きな人居たんだ」
フドウが慌てた様子でゼン君に叫ぶと、一瞬呆気に取られてたゼン君は何かに気付いた様子で僕を見た。
「あ、いや、別に好きな人が居るってだけだからね! 此の学校に居るとか全然全然!!」
「?」
「そうっすよヒコク君! か、カトウさんってどんな人が好きなんでしょうね~、あははっ!!」
二人は白々しい笑みを見せたけど、僕には何ひとつ理解することは出来なかったのだけれど。何を慌てたんだろう此の人達。
恐らくひとつの表情変化も見せなかった僕を見て二人ははぁっと息を整えてた、けれど何故だろう、何か可哀相なものを見る目で何処かを見ているゼン君が目の前に居る。
「……カトウちゃん、苦労すんね」
「……多分」
「え、何の話? ん?」
結局二人は教えてくれなかったけれど、僕に関連する話なんてしたっけか、あれ?
幸薄い表情の二人を見つつ、少しだけ考えた僕だった。