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285/500

285+一部が沈黙で居続ける話。

 ユウヤでっす、何時も通り部室でうだうだしていまっす! 最近では珍しく、八人全員が揃っているっていう。……ってあれ? 先輩達揃ってて良いんだっけ?


「サチ先輩サチ先輩」


「あー? ――どぅあっ!!」


 ――格ゲー中に話掛けてごめんなさい。

 ええと、気を取り直して。



「先輩達、……明日から修学旅行じゃなかったですか?」


「嗚呼、そーだけど?」


 そう、二年生は明日から来週まで修学旅行に行くらしいです。ちくしょー羨ましい。

 俺だったら確実に浮かれに浮かれて準備したものを入れたり出したりしてるであろう――そしてなかなか準備始めないアサ君を駆り立てるのに必死になっているであろう――ことだろうに、此の先輩方三人は何だか余裕綽綽(しゃくしゃく)というか、うん、そうだ、浮かれ感が無い。




「楽しみで浮かれたりしないんですか……!?」


「そんなに浮かれるものか?」


「浮かれるでしょ!?」


 つい立ち上がってしまった、いや、だって修学旅行だよ修学旅行!! 俺が三学期のスキー研修をどれだけ楽しみにしていることか……!!

 テレビの格ゲーの片手間に俺と会話していた先輩はキョロリと辺りを見回し、


「アレだって修学旅行行くんだぜ?」


 と言って、最早見慣れた光景となっている机で寝ているハヤ先輩を視線で差した。……浮かれて、ないな、っていうか意識が無いな、寒そうだから毛布掛けようっと。



「じゃあフウカ先輩は!?」


「?」


「修学旅行! 楽しみですよね!?」


「楽しみ」


 良かった! 真っ当な神経してる人居た!!



「――皆で夜な夜なゲーム大会」


「楽しみ方が違うよ先輩!!」


 真顔で何そんなこと言ってるんですか! あれ? 修学旅行って、……あれ?

 一年の中で俺一人が喋るっていう珍しい光景を繰り広げて何だか修学旅行の醍醐味が分からなくなってきた中――他の皆は其れこそゲームに熱中しているぞ☆ 其れはもう怖い勢いで――、とりあえず俺は眠るハヤ先輩に毛布を掛けることにした。


 一人頭を悩ませつつ毛布を先輩に掛けたは良いけど、先輩の手元をよく見たら何等かの書類が置かれていた。伏して寝ているからよくは見えないけど、明らかに生徒会の書類だってことは俺にも分かるってものだ。


「修学旅行前だっていうのに大変だなぁ……」



「……あ、言い忘れるとこだった」


 生徒会長って大変、というかうちの生徒会はハヤ先輩以外動かないから大変だっただけか。

 そしてそんな俺の呟きに反応したサチ先輩は、ゲームを中断してソファとコンピュータを陣取る一年集団に声を掛け、とてつもなく良い笑顔を作った。



「俺達が居ない間、ハヤサカが生徒会にやって欲しいことあるって言ってたから頼んだ」


『……』


 ※此の沈黙はスルーの沈黙ではなく、『ええー』の沈黙です。



「まぁそんな面倒なことじゃねぇからさ、ほら、体育館の倉庫整理」


「超面倒じゃねぇかよ馬鹿サチト」


 星が飛びそうな程の笑顔に透かさずツッコミを入れたのは勿論幼馴染でした。


「お前が修学旅行で楽しんでる時に仕事ってだっるー、ゼン君全力でやる気起きひんわー」


「何で大阪弁なんだよお前」


 ソファに凭れ全身で怠さを表現するゼン君、隣のアサ君を見れば身動きは無いもののもう完全蚊帳の外ぶってるよあの子。


「第一俺達未だ生徒会所属って訳じゃねぇでしょ? なのになあんでやんなきゃなんないの、ゼン君だって忙しいんだけど」


「未だったってもう一週間もすれば決まるだろうが、其れくらいのロスタイム良いだろ?」


「黙れ碌に仕事もしていない屑野郎」


「あれ? 俺今さらりと爽やかに罵倒された?」


 確かに満面の笑みだったはずなんだけどなゼン君。元々酷い性格をしてる訳じゃないけど幼馴染は別なのか結構辛辣な言葉を吐くんだよね、シギ君には全然だけど。

 そうそう、生徒会の方も結局俺達全員所属することになったそうで。空いてる副会長は勿論ゼン君が、もうひとつある庶務の役職はアサ君が(先輩達が勝手に決めて)やることになった、……まぁ妥当かなとは思うけど、結局は皆でやらされるんだよね。サチ先輩が言う通り正式に名前が連ねられるのはもう少し先らしいんだけども、先輩達にはそんなことどうでも良いらしい。


「ちゃんとお土産買って来てやるからさー頼むってー」


「まともなの買って来いよな」


 買って来なくてもやらなくちゃいけないんだろうけどね。


「私も皆に買って来る、楽しみにしてて」


「え、良いんですか?」


 フウカ先輩はこくこくと頷いている、……良い先輩だ。


「ハヤも買うつもりでいるとは思うけど、直ぐには手元に来ないと思っていた方が良いわ」


「あははっ! そりゃ言えてんな!」


 楽しそうなサチ先輩の声に少し頭を悩ませる俺、え、どういう意味?



「――修学旅行明けのハヤが、まともに学校にやってくる訳が無い」


『……』


 ※此の沈黙は憐れみの沈黙です。


「……先輩……修学旅行楽しめるのかな……」


 中学の時のアサ君は一日目で死んでたんじゃなかったっけ……え、其れ以上? 大丈夫なの?


「ちゃんと俺が無理させねぇから大丈夫だよ」


「サチ、お守り役が板についてんな!」


「あっはっはそうだろそうだろ、やっべ褒められてねぇ!」



 其処まで話して再びハヤ先輩に視線を向けてみたけど、話し声に起きる気配は一切無かった、フウカ先輩曰く「体力温存中」らしいです。








「って訳で、俺達居ない間は任せたからな」


「はいはーい、此のゼン君にまっかせなさーい」


 部活に来ていたとはいえやっぱり早めに帰るらしいサチ先輩が、ハヤ先輩を起こしてからゼン君にそう言って軽くハイタッチのようなものを交わしていた。


 ううむ、何だかんだ言ったけど、やっぱりお土産が楽しみだなぁ。




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