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284+祝日の物思い。


「うあー、外超暗ぇ……」


「ていうか寒い」


「姉ちゃんに絶対怒られる……、メール入れとこ」


「というか寒い」


「お前寒いしか言ってねぇけど?」


「五月蝿い寒い」


「分かった、お前が寒いことは存分に分かったからとりあえず一旦チャリから降りろ、発進出来ねぇよ」



 我が儘な奴だな、アサキですが。

 休日。十一月の祝日こと文化の日、自由と平和を愛して文化をすすめるなんて理由で作られた日だそうだがぶっちゃけ言ってる意味はよく分からないよね。国民の祝日の大半は天皇の誕生日だと言うけど今日も確かそうだった気が。関係無いらしいけど。

 自由も平和も愛しに愛しまくっている僕はカイトに引き連れられて一日ぶらぶらしていた。暇だった――そして本が買いたかった――から良いものの普段じゃ絶対にしないことだ、家ん中以外遊びたくないよ僕。

 何時も通り自転車の荷台に乗る僕にそんなことを言ったカイト、寒いのにあまり動かさないで欲しい。


「あー、帰るのって何でこう怠いんだろうなー」


「寒いからじゃない」


「あれ、なんかお前と会話が成立しなくなってんだけど」


 病み上がりな癖して遥かに薄着のカイトはまさかの防寒具無しだ、お前半袖にパーカーって死ぬのか、お前は女子か、冬にスカート履く女子か。あれ寒くないのねぇ。



 カイトと違い防寒ばっちりな僕は発進し出した荷台に乗り何も考えずにカイトを背もたれにぼうっとする。畜生此れでも寒い、だと……?

 ちなみに此の乗り方はあからさまに危ないらしいので、良い子の皆は真似しないでね、かっこはあと。


「ゲーセンにあんだけ居座ったのも久しぶりだよなー」


 車通りの少ない道で、反響するカイトの声。


「誰がさんがUFOキャッチャーに熱中してたからね」


「お前だってそうだろうが!」


「僕はそうでも無いし」


「嘘つけ! あんだけキレかけててどの口が――」


「首に手刀入れんぞ」


「怖ぇよだが其の体制でどうやるのかが気になる……!」


 喋っていた方が暖かいということもあるけれど、個人的に喋ってないと大分やばいです。(※睡魔的な意味で)





「――もう冬だよな」



 物思いげ、とまでは言わないけれど、カイトがそう呟いたのを聞いてだったら其の薄着は何だ、とツッコまなかった僕を誰か褒めろ。


「あーあ、また一年終わるよ」


「そりゃ月日は誰にでも平等だしね」


「平等? そうか?」


 ん? そうでしょ? とは返さなかったけど、とりあえず沈黙で応えてみる。



「いや、深い意味は無ぇけど。……人生の時間が本当に平等だったら、不公平とかってなくなんのかな、って」



 ――そういえばそうだ、僕はあっさりと口を滑らしていたらしい。


「不公平、ね」


「悪が生き延びて善が死ぬ、みたいなゲームじゃ絶対に無いことが現実にゃあるっつー……あー、俺上手く説明出来ねぇから察してくれ」


「うん、分かった」


 そんなの分かってるって、お前が馬鹿なことくらい。其れと、お前の言ってることだって。




「カイト」


「あ?」


「相対性理論ってさ、」


「ちょ、難しい話パス」


「難しくないから聞け馬鹿野郎」



 僕がお前如きに難しい話する訳ないだろ。



「――楽しい時の時間は短くて、辛い時の時間が長い、ってことらしいんだよ、感覚的な問題で。……ちゃんとした意味は僕も知らないんだけど」


「あ、確かにそういうのある」


 発信源はマヒルだから僕もちゃんとは知らないけど。




「感覚でそう感じても、経ってる時間はやっぱり同じで、」


 だから人の時間は一緒で。でも、


「楽しいことが沢山あったから、時間が過ぎるのが凄く早く感じて、」


 感覚的にはきっと沢山の楽しいがあったから。



「――早くに亡くなった人はきっと、本当の時間じゃ計れない程の沢山の幸せがあったから」


 なんじゃないかな、なんて。

 カイトが考えてることなんて直ぐに分かった、――亡くなってる母親のことだろうから。




「ふーん、……何か俺よく分かんねぇ、難しい」


「此れが難しいなら一生分からないな、お前には」



「――まぁ、お前が俺を案じてくれてんのは分かった」


「……」


 其処は分かるのか、質の悪い。



 といっても、今の話はそれこそカイトにする為に見繕った話だから、僕はそうは思ってないけれど。

 どちらかと言えば人が死ぬ理由こそが不条理な訳だし、幸せ過ぎて死ぬくらいなら不幸な方が良いと思う人も中には居るだろうから。



 そして何よりカイトが言った言葉。


『悪が生き延びて善が死ぬ』


 ――其の言葉の方に、僕は真理を感じたから。





「人生、ゲームのようには行かないよ」


「だろうなー、悪が絶対勇者にやられてたら、どんだけ世界は平和なんだか」



 其の通りだよ、本当に。

 でも、世の中そうは絶対に行かないんだ。心からそう思うよ、僕は。










「――何より、此の僕が生きてる」



「……あ? 何か言ったか?」



 家に近付くにつれて車通りも増えてきた。丁度聞こえなかったらしい言葉にそう興味がある訳でも無いらしいカイトは、そのまま自転車を走らせる。


 何時か教えてやるから、今は黙って走ってろ。



 ――本当、其れが真理だから。





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