283+一日遅れでこんにちは。
アサキです。
秋――季節の変わり目だからか、体調不良の人が多くてクラスはマスクだらけ。僕は風邪なんて滅多に引かないし、周りの人もそんなマスクなんてする人居ないから良いんだけど。
「今日こそ絶対にあっ君に勝つ、っていうか此の前言ったの持ってきてくれた?」
「ん」
体調絶好調過ぎる人とか、
「ゼン君何時になったらアサ君に勝てるんだろうね、カイト君とどっこいどっこいだから難しいだろうけど」
「いーや、カイ君よりは絶対ゼン君の方が強い! ――って言ってもカイ君休みだから張り合い無いんだけど」
全力投球で絶不調な人――カイト先月四回休んだ――とかなら居るんだが。
三人で部活に向かいつつそんな平凡な会話をしていれば、「アサキ!」と後ろから僕を呼ぶ声がした。一体誰だろう、何を考えるでも無く振り返れば、其処は廊下奥、手を上げて小走りしてくるハヤ先輩が居た。
「あれ、ハヤ先輩――」
「「走らないで下さい!!」」
まさかのハモり、と言いたいところだが僕も同じことを言おうとしていた。言われた本人は急ブレーキをして苦笑していたけれど。
「お前達は俺を何だと思っているんだ?」
「病人」
「体調不良がデフォ」
「容赦無いなお前達」
ユウヤとゼン君は真顔でそんなことを言っている、ハヤ先輩が寛大な人で良かったな。……僕も同じことを考えていたとはやはり言えまい。
「今日は大丈夫だよ、絶好調だから」
「ハヤ先輩の絶好調ってどれくらい何ですか?」
「五十メートル走を走り切れるくらいだ」
可愛い絶好調だなおい。
サチト先輩が横に居ないことがこんなに不安――主に周りが――になるとは思っていないであろう此のストイックな生徒会長は腕組みをして、しかも真顔でそう言えば思い出したように僕等を見た。
「リョウコを見なかったか?」
其れが了見な様子の先輩、貴方がカトウを探しているなんて珍しい。
「リョウちゃんなら委員会ですよ」
同クラスのユウヤがそう言えば、ハヤ先輩は少し考えるようにして自分の背後、僕等が向かおうとしていた部室の方向を親指で差す。
「お客さんが来てるんだが……お前達も知り合いか?」
「あ、二人共こんにちは~」
「モモちゃん!?」「……ラン?」
部室に言ったら意外な人物に出会った。うちの制服では無いブレザーに身を包んだにこにこ笑顔ことランだった。
「ど、どうしたのモモちゃん! 学校帰りだよね!?」
「うん、そうだよ~。あのね、ハロウィンだからだよ」
……理由になってない。
「皆にお菓子のお届けにきました」
ということでもう一度理由を聞いたらそういうことらしかった。
「ハロウィンだからってうちの弟が張り切り過ぎちゃって。だから皆にあげようと思ってリョウちゃんに昨日お話したんだけど、驚かそうと思って出待ちしてみたの」
「出待ちって言ってもリョウちゃん未だ委員会だよ?」
「うん、うろうろしてたら会長さんが助けてくれたの~」
其れは不審だったから話し掛けられただけでは。そんな意味を込めてハヤ先輩を見たら苦笑された、案の定だな。
「声を掛けたらリョウコの知り合いだというから連れて来た、ちゃんと来賓扱いにしてあるから居ても問題は無いぞ」
流石は会長だ、抜け目が無い。
「此処で待っていれば来るだろう、ゆっくりしていってくれ」
「はい、ありがとうございます」
「さて、俺はお茶でも出すか」
「え!? 先輩がやるなら俺がやりますって!」
「何だゼン、俺のは飲めないとでも言うのか?」
「いや違いますって、身体に聞いて下さいって」
結局、今日は頗る調子が良いらしいハヤ先輩が給湯室へと去っていった。あの人からは本当に目が離せないGC部一行、サチト先輩何処行ったし。
「はいユウヤ君」
「わ、ありがとー!」
とか思っているのは僕だけなのだろうか、少なからずゼン君は同感なのだろうが目の前の身内が黙らないんだけど。
「はいアサキ君も~」
「ん」
可愛らしくラッピングされた袋をくれたラン、まぁ貰えるものは貰うけども。
するとランは隣に立つゼン君を見て、「沢山あるからアサキ君のお友達さんも貰ってくれますか?」なんて言って首を傾げた。
「え? 俺?」
「はい、弟が作ったものなんだけど……」
「是非! ゼン君可愛い女の子がくれるものなら大歓迎だよ!」
酷い身長差の中笑顔で会話を交わせばランは「可愛くなんてないですよ~、あ、私ランモモって言います」と今更に自己紹介をしてぺこりと頭を下げた。
「俺はゼン、ワタヌキゼン、ゼン君って呼んでね」
「分かりました~、はい、此れどうぞ」
自己紹介を済ませたところでやっと目的の品を渡したランは、ユウヤに勧められてソファに落ち着いた。
給湯室からハヤ先輩が戻って来て。
「どうぞ」
「ありがとうございます~、あ、会長さんも貰ってくれますか?」
「勿論、喜んで」
口元に笑みを携え、ハヤ先輩は其れを受け取った。ハヤ先輩は相変わらずイケてるメンズだ、なんて思った僕は古いだろうか。
「あれ? そういえばアサキ君、ロクジョー君は?」
「休み」
そっか~、と続けたランは別に他意が無かったらしく、ハヤ先輩が煎れた煎茶を飲んだ。美味しいと一言漏らしていたがそりゃ美味しいだろう、だってフウカ先輩が自宅から持ってきたんだから。
「リョウちゃん、未だ来ないのかな?」
「さっきメールしたんなら、ランが此処に居ること知ってんでしょ?」
「うん、どうしたのかなぁ……」
「あ、ごめゼン君、ミスった」
「ちょ、ゆっ君此処でミスは無い、死ぬ、俺死ぬぎゃああ!!!!」
暫くしたら二人が飽きた。先輩はPC弄ってるからまぁ言いとして、お前等ゲーム熱中し過ぎだろ。
「楽しそうな部活だね~」
「まぁ、他よりは」
「リョウちゃんも毎日楽しいって言ってたよ、良かったなぁ」
お前等、本当仲良いな、とは思う。お互いがお互いを思っているというか、唯一無二の親友というか。ほやほや顔で笑うランとカトウは別に昔から仲が良い訳じゃなかったと聞いたことあるし、まぁ、大切なのは過ごした時間の量じゃないということか。
「ねぇアサキ君」
とかなんとか茶をしばきながら考えていれば、不意に名前を呼ばれて一瞥する。
「――リョウちゃんのこと、お願いだよ?」
「……?」
「――ごめんモモ! 遅れたわ!!!!」
どういう意味? そう聞き返す時間無く、慌てた様子でカトウが部室に入って来た。慈しむような笑みを向けて来ていたランはすっかり何時ものにこにこ顔に戻っていて、僕の疑問は募るばかりなのだけれど。
「あっ君!!!! 助けて!!!!」
「死ぬー、アサ君パス」
とりあえず今はそっちが五月蝿いので、そっちを先に片付けようと思った。
――お願い、か。何だったんだか。