281+七転八起以前の話。
こんにちは、と言いますか、お久しぶりです、が正しいでしょうか? アスカです。
「――……」
今日は別にユウヤと約束をしている、という訳では無いんですけど、たまには黙って家に遊びに行ってみようだなんて思ってやって来てみました。ふふっ、きっと驚くんだろうなぁ。――なんて暢気な俺の考えは五分後に吹っ飛ぶ訳ですが。
「アスカあああああああああ!!!!!!!!!!」
久しぶりないきなりの勢いに少し驚いたもののまぁ三年間で慣れてますから其処は――嗚呼嘘ですマジでびっくりしました。
「ど、どうしたんですかユウヤ……?」
「やべぇんだよマジで俺死ぬしかない否死ぬるよ自害もんだって!」
「は、はぁ」
ええと、此れは話になりませんからアサキ君に尋ねましょうか。客人をリビングにすら入れず廊下で喚き散らすユウヤを適度に宥め、勝手ながらリビングに入りました、無論俺が先に入ったのは言うまでもありませんけど。
「こんにちは、アサキ君」
「……ん」
――ゲームに熱中してました、此れは聞けませんね。
「あれ、アスカ君?」
どうすればいいんだろう、と何時の間にやらソファの引っ付き虫になっていたユウヤを見つつ思っていれば。
「あ、マヒルさん」
マヒルさんと書いて救世主登場です、キッチンから。――お手軽な救世主が居たものですね、おっと口が滑った。
「久しぶりー、学校帰り?」
「ええ。マヒルさんは帰っていらしてたんですね」
制服のまま来た俺――ブレザーって怠いです――にそう言ったマヒルさんはひとつ頷いて、いらっしゃーい、何か飲む? なんて続けてくれた。何時来ても此の家は明るいですよね。
「ほれユウヤ、ソファ占領してたらアスカ君が座れねぇぞ」
「お構いなく、平気ですよ」
三人は掛けられる白いソファを一人で陣取る引っ付き虫は未だ人に戻らなそうなので放っておきましょう。其れにしてもアサキ君我関せずだなぁ。
ダイニングテーブルの方で紅茶を頂きつつアレ(ユウヤ)の原因を尋ねれば、
「何か、思った以上にテストの結果が芳しくなかったみてぇよ?」
マヒルさんは苦笑して教えてくれました。芳しくなかった――
「――ユウヤ、普段からアレだったのに今回どれだけ酷かったんですか?」
「アスカ君、たまに本当天然で毒吐くよね」
あれ? 今は其のつもり無かったんですけど。
マヒルさんも詳しくは知らないようで、「アサキー、お前知ってる?」と尋ねてみたようですが、案の定答えが返って来ない訳でして。
「二人共喋らないなんて酷いな」
「あははっ、二人らしいじゃないですか」
流石双子です。
「――僕今んとこ最低がユウヤの最高より高い」
とか何とか思っていれば、恐らく発言出来る間が短かったんでしょう、早口でアサキ君がそんなことを言った――やってるの音ゲーですもんね――。
ええと、此の場合アサキ君が凄いのかユウヤが悲惨なのかどっちなんでしょう、俺の勘では完璧に後者ですが。
「んなに落ち込まなくても未だ他のテストもあるだろ? 良くは無いけどそんな落ち込まなくたっていいんじゃないか?」
「……赤点でも?」
「期末頑張れ」
マヒルさんの声にやっと反応を見せたユウヤがちらりとこっちを見ている。
「――三つ赤点でも?」
「はぁ?」
「お前死ねば?」
しかし兄弟の心無い一言で素早くソファに撃沈した。自業自得ですけど見ている分には非常に面白いですね。
「おま、テストで赤点って俺採ったこと無ぇぞ?」
「其れはマヒルさんだからですよ」
「アサキだって無ぇだろ」
「中学に赤点は無かった」
確かに。でもアサキ君なら赤点なんて無いと思うんですがね。本当、DNAがユウヤだけ改造されたんですか此の兄弟は。
「――まぁユウヤ、そんなに落ち込まないで下さい」
でもそろそろ可哀相ですし、ちゃんと言ってあげないといけませんね。
「テストなんかで人の価値は測れません、大事なのは過程なんです、ちゃんと落ち込めたなら次頑張れますよ」
「アスカ……」
「ほらほら、何時までも落ち込んでたら俺が暇なんだから何時もみたく馬鹿みたいに騒いで下さいよ。其れがユウヤでしょう?」
再びのそのそと起動したユウヤは何かを考えて、其れから元気良くひとつ頷いた。
「俺、次絶対頑張るよ! 七転び八起きの精神で!」
「えぇ、頑張って下さいね」
――明るい君じゃないと、何も始まりませんから。
「――テスト如きでそんなに転ばれちゃあこっちも溜まったもんじゃないんだが」
「言うなアサキ」
確かに今は言わないで下さい、また落ち込まれると面倒ですから。