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273+雨天平凡平穏日和。



 頭上から降り続く雨粒を部室の窓から見ています、あ、何だか久しぶり、リョウコです。


「雨、止まないねー」


「だなー」


 何時でも暢気な二人組こと馬鹿二人――嗚呼、此れじゃあ紹介になってないわね、ヒコクユウヤとロクジョーカイリは部室のソファを一人一つずつ使って寝転がりながら呟いた。何時もなら此の馬鹿二人にもう一人加わっても良いんだけれど、今日は珍しくも其のもう一人が大人しく何やら真っ白な書類に立ち向かっているものだから此れまた気持ち悪いのよね、だから雨が止まないんじゃないかしら。


「……」


「ワタヌキゼン、何してるの?」


「んー? 今はサチトから頼まれた部活動別年間会計書類やってるー」


 間延びしている声とは裏腹に生徒会長が座るような机に向かいながらワタヌキゼンはそれなりに真面目な表情でかりかりとボールペンを走らせている。口元に手をやり立て肘をついているワタヌキゼン、……なりが良いから様になるのは良いんだけれど、此れを口にしたら一瞬にして今の表情が消えそうなので言わないでおくわ。馬鹿が三人になったら救われないものね。

 ちなみに先輩達は三人共生徒会室の方に居るらしくて。何でも時期が時期だけに忙しいらしいのよ、色々。


『生徒会選挙やるったってどーせ立候補者居ねぇんだぜ!? うちの学校どんだけアレなんだよ!!』


 とさっき其れを伝えに来たサチト先輩が言っていたんだけど、アレって何なのかしらアレって。

 其の後にさも当たり前というべく『嗚呼、お前等適当に余ってる役職埋めてくれよな』とか言ってたんだけれど……やっぱり私達もやらないといけない、のよね? ――まぁこの有様を見ればワタヌキゼンが余ってる役職の中で重要な副生徒会長をやるのは目に見えて歴然、って感じだけどね。


「……ってあり、そういえばアサ君は?」


「え、さっきまでゲームしてなかったか? ……あ、居ねぇ、リョウコー、アサキは?」


「そっちに居るわよ」


 馬鹿二人がとことん怠そうに起き上がってそう言った。私がそう言って指差したのは給湯室、何か飲みたくなったらしくてさっきテレビ前陣取ってた体制から動き出してた――はずなんだけど……そういえば出てこないわねなかなか。


「アサキー、生きてんのかー?」


 ――返事が無い。何してんのかしらね?

 私同様に気になったらしいヒコクユウヤが立ち上がってそっちを覗きに行く。


「アサキー? あっくー…………ん? 寝てる?」


 ……給湯室で寝てるの?


「あ、さ、くん?」


「……ん」


「こんなところで寝ちゃ駄目だよ」


 見えないところでのそんな会話につい笑ってしまったけれど。給湯室ってそんなに広くなかったわよね? そんなところでどう寝てたんだかちょっと気になるわよ。

 ポットでお湯を沸かしていたらしいヒコクアサキはそのまま座り込んで眠っていたらしい、そんな短時間が待てないくらい眠かったのなら素直に寝てしまえば良かったのに、と思う私。ヒコクユウヤの後から目を擦りながら出てきたヒコクアサキは「寝てない」とか言っていたけど確実に寝てたわよね其の表情。


「お茶飲みたかったの?」


「コーヒーが飲みたかった」


「じゃあ俺が淹れてあげるからさ、あ、皆も飲む?」


「そんなに多くお湯沸かしてないよ」


「直ぐ沸くやつだから大丈夫だよ!」


 五人分くらい余裕だよ! と続けていうヒコクユウヤは確実に淹れ慣れているんだろうなぁ、と思ったのは私だけでは無くて少なからずロクジョーカイリもきっと同じことを考えていたに違いないわ。


「俺紅茶が良い」


「あ、私も」


「ええと、――レモンとミルクがあるけどー?」


「ミルク!」「レモンで」


「……リョウコめ、レモンティーだなんて大人振りやがって! 俺が餓鬼みてぇじゃんかよ!!」


「な、――別にそういう訳じゃないわよ! ただミルクティーよりも今はレモンティーな気分だっただけよ!」


「あははっ、まぁまぁ二人共」


 ヒコクユウヤに宥められてしまうだなんて――と思わない訳でも無いけれど、今は何よりあっちのロクジョーカイリね! 良いじゃないレモンティー! 大人振るんだったらロイヤルミルクティーにしたわよ!! ……あ、ツッコミどころが違うかしら?



「ゼン君はー?」


「あっ君と同じ、ブラックで」



「……ロクジョーカイリ、大人振りたいならアレくらいやってみなさ「無理」否定早いわよ」


 相変わらず普段の冗談のひとつも漏らさないワタヌキゼン、ブラック、って大人過ぎないかしら、私絶対飲めない。そんな私達のやり取りに此処に来て初めて笑みを零したワタヌキゼンは「ゼン君甘いの不得意なのよ」と言った。だからってブラック……舌壊すわよ。


「さあって書類おーわりっと、此れあっちに届けてくんね」


「いてらしゃーい」


 なりはあんななのに本当にやる時はやるのよねアイツ、実は根っからの真面目君なのかも。へらへらしてる馬鹿共――特にロクジョーカイリ――も見習うべきよ! ま、たった今お茶を入れてもらっている私が言うことでも無いんだけど。高校入って私もだれたなぁ……。



「――あ、」


「ん? どうかした?」


「毛布って何処置いたっけか」


「毛布? あっちの机に積んであるわよ」


「マジだ」


 急に声を上げるものだから一体何かと思えば。確かに少し肌寒いけど毛布なんて必要なのかしらね、馬鹿みたいに何時でもハイテンションになれるロクジョーカイリに。そんな考えを見越してか、ロクジョーカイリは不満そうな表情で「横見てみ」と私の右を促した。


「……あら」


「ほれ、必要だろうが」


 さっきまで二人がうだうだしていたソファの片方で、さっきまで眠っていたらしいヒコクアサキが再びほぼ寝かけていた。うつらうつらと、寝る五秒前くらいかしらね。

 本当に何でもある部室内の毛布を抱えロクジョーカイリはソファにまで運んで、


「寝ると寒いだろうし此れ掛けろよ?」


 だなんてお母さんをやっていた。幾ら眠そうな時だって罵倒を忘れないヒコクアサキだけど今日ばかりは本当に眠いのだろう、一度ロクジョーカイリを見たと思えば自分の横に障害物が無いことを確認して、そのまま横になった。どれだけ眠かったのかしら此の子、……す、凄く可愛いとは思う、けど、口にはしないわよ私。自分より可愛い男子って何なのよ、私認めないわ、好きな人の方が可愛いとか認めないんだから……!


「ドンマイ」


「え、口に出てた……?」


「いや、俗に言えば顔に書いてあった」


 このやろう!!

 ヒコクアサキに毛布を被せながらお母さんことロクジョーカイリがそんなことを言うものだから殴りたくなったわ!


 ――でもまぁ、其の後やって来たレモンティーが異様に美味しかったから許すことにするわ。

 外の雨は未だ止みそうにないけど、こういうのんびりした時間も、私は嫌いじゃなかったりする。




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