272+目撃! 何の現場?/後
引き続きアサキです。
前回の流れから察して頂ければ分かる通り、僕等は今小さな女の子と歩くゼン君を追跡しています。
「あれは絶対に不倫相手か何かの子供だな……」
「そうね……其れか未亡人に手を出したのかも……!」
「かなり薄いとは思うけど妹とかの線は無いの?」
「ゼン少し前に下に可愛い妹が欲しいって言ってたから居ねぇはずなんだよ」
二人して真剣な面持ちなものだからツッコめないでいる僕。いっそ声を掛けてしまえばいいのにとか思ってるんだけどどうやら未だ未だ此のゼン君追跡隊は続くらしい。
「お、店入ってったぞ!?」
「子供を連れて洋服屋さんだなんて……先ずは子供の機嫌を取るってことね!?」
「お前等はゼン君を何だと思ってるんだ」
二人の中で此の状況がどういうことになっているのか分からないけれどもう僕は諦めて着いて行こうと思う。二人にしたら何やらかすか分からないから勝手には帰れないし、――金髪と幼女が歩く絵図もシュールだというのもまた事実。
洋服屋さんに入ったということで気付かれないように僕等も侵入。目の前の二人はやけにこそこそしてるけど店員さんに怪しまれるからやめて欲しい、いやほんとやめてくれないかな僕にまで被害が来るから。
店員さんの気配に最善の注意を払う僕とは裏腹に、洋服の隙間からゼン君を見遣るカイト。高校生が何してんだ。そして結構な近さに居るからだろうか、二人はどうか知らないが、ゼン君の声が聞こえた。
「うん、とってもカワイーと思うよ?」
「ほんとー? これにするー」
普通に買い物エンジョイしてるみたいだ。
「「子供まで誑かして!!」」
僕からすればお前等の思考回路の方がどうかと思うが。
推定年齢二歳――言葉の発音は未だ未発達らしい――の赤子、は言い過ぎたか、幼女はにこにこと楽しそうな表情でゼン君を見上げている。さっきは遠くて良く見えなかったけど、其の女の子は……ゼン君に似てなくも無い気が……?
「あんな可愛らしい女の子をゼンめ……!」
「犯罪よっ! 今直ぐ通報だわ!!」
「……」
本人達は至って楽しそうだし良いと思う、っていうかこいつ等のことがそろそろ面倒になってきた僕。……うん、そうだ、面倒だ、僕はリアルな身内以外に振り回される気は無い訳だし。最近甘やかし過ぎたのかもしれないなぁ、――此の馬鹿をあはははは。
「カイト」
「何だよ! 今忙し――」
「くたばれ」
「え? うぉ――」
ガツン。
――ガシャアアアン!!!!
カイトを背中から蹴った――優しくだがな――ものだから、洋服の間から覗いていたカイトはそのまま前のめりに倒れ、――そのまま商品巻き込んで倒れましたとさ。人から見れば物凄く良い笑顔だったと思う僕ですが先に言おう、後悔はしていない。物凄い音が反響して頭が沸騰していたカトウもぽかんとしていて、僕は充分に満足である。
「お、お客様!? 大丈夫ですか!?」
――店員さんが寄って来ちゃったことには何だか申し訳無いけれど。
「――という訳でこんにちはゼン君」
「え、あ、うん、ちわーっすあっ君達」
店員さんも大騒ぎした騒動(※騒動起こした張本人)にゼン君が気付かない訳も無く、ちょっと大きな音がしてびっくりしてしまったらしい女の子を抱えて彼は「三人でなあにしてんの」と呆れ顔で僕等の元にやって来た。
今のはお店の中では迷惑なので外に出てきての第一声だった。ゼン君は例の女の子を下ろしたけど、其の子はゼン君の後ろに隠れてしまっている。
「で? あっ君達は何してたの?」
「ゼン君の尾行」
「ちょ、アサキ其れ言って――」
「うるせぇ黙れ滅ぼすぞ」
一番は黙殺が良いんだけど、今日ばかりはもう面倒だからお前には喋らさんぞ。
「え? ゼン君の後着いて来てたの!? ……うわあ、やっべぇの見られた」
……あれ、ゼン君が此れまでに無いような嫌そうな顔をしている。やっぱり何か裏があるのだろうか、此処に来てちょっと僕が心配になってきた。
「うわー、友達にだけは見られたくなかったんだけど」
「「……」」
「だ、大丈夫だぜゼン! 何があろうが俺達は友達だからよ!!」
カイトは既に何かを知った風にそう言った。いや、不倫とか決まった訳じゃないんだけど、カトウもカトウで「やっぱり未亡人に手を出したのね……!」なんて呟いてるけどお前等の中でゼン君はどんだけのプレイボーイになってるんだいやマジで。
「そう? カイ君はヤサシーわ。あんなもん見てそんなこと言ってくれるなんて」
「あったり前だろ! お前が居なくなったらテスト前のノート提出誰に見せてもらえば良いのか!」
其処かい。
「で、ワタヌキゼン。――其の子は?」
少しボケに走ったが、カトウはとうとう真相に迫るべくゼン君の後ろに隠れる幼女を視線で差す。
ゼン君は少し其の子を見た後、にっこりと普段通りに笑って女の子を抱えれば、僕等を見てこう言った。
「此の子はみーちゃん、――俺の子供だよ☆」
「「ええええええええええええ!!!!!?」」
「なあんて冗だ――」
「そう来たか! まさか十五歳で子供!? そういうことか! 通りでちょっと似てる訳だな!!」
「未亡人とかじゃなくて普通にお付き合いして出来たのね! 私ったら酷い勘違いをごめんなさい!」
「え、いや、だから冗談だっ――」
「「うあああああっ!!!!」」
「……あっ君、助けて」
「黙れテメェ等」
流石のゼン君も泣きそうだったので僕はそう一喝してカイトの方だけは蹴り飛ばした。カトウは流石に蹴れまい。
ゼン君に抱えられた女の子も大声を出す二人が怖くなったのか、此方に向けていた顔を逸らしゼン君の首に抱きついてしまった、嗚呼ゼン君苦しそう。
「じょ、冗談かよ!」
「ったり前でしょ、ゼン君君達と同い年なのよ? ゼン君が幾らフェミニストでも子供は作りませんて」
其れは良いとしても今の冗談を信じられたことの方がゼン君ショック、と本気でショックを受けてるゼン君はさておき、脅かすんじゃねぇよ! とかそうよね、あははっ! とか何とか言ってる二人は重症なんだろうなぁ、と。
「此のパターン、信じてくれてたのはあっ君だけっぽいね、リョウコちゃんもそっち側なのね、ははっ」
「僕は信じてたんじゃなくて、そんなことはありえないって思ってただけなんだけどね」
「其れでもじゅーぶんよ俺」
他二人がこうだとな。僕は二人に代わって「で、本当は?」と此方を見ない小さな彼女を見つつ問う。
「んー、尾行してたっていうから全部見てたんだと思ったんだけど、俺がもう一人と歩いてるの見た?」
「うん、亜麻色っぽい髪した女の人でしょ」
「……はぁ、やっぱ見てたか」
ゼン君が溜息とは珍しい、どうやら友達に見られたくなかったものというのは其の人に関係ありそうだ。
「此の子、あの人の子供」
「や、やはり不倫関係か!?」
「未亡人の線は未だあるのね……!」
「カイ君はともかくリョウコちゃんが女性関係関わると此処まで駄目になるとは思わなかったよ」
僕もだよ、とは流石に言わないでおいた。
「あーもう面倒臭ぇ――ミヤ! はいゼン君のお友達に自己紹介して!」
半地が出掛けたゼン君は抱えている女の子の背中をぽんぽんと叩き、其の子を自らと僕達の間に下ろした。ミヤと呼ばれた幼女は最初こそ戸惑っていたものの直ぐに僕等を見上げて、小さい癖してしっかりと、小さくぺこりとお辞儀をした。
「わ、ワタヌキ ミヤコです」
「苗字一緒」
「ミヤは俺の姉貴の娘だよ、――要するに俺の姪っ子! そんで苗字がワタヌキなのは夫さんが死んだとかそういう訳じゃなくて婚姻しても苗字はまんまにしたから! 決して未亡人とかじゃないから其処んとこ宜しく!!」
もう良いデスカ! と叫んだゼン君は再び幼女を抱え直す、嗚呼、此の叔父さんべったべたなんだな此の子に。
「「……」」
「カイ君もリョウコちゃんも思考回路追いついてる?」
「お、おっけ!」
「勿論よ!」
駄目だ此れ。
「それで、ゼン君が見せたくなかったものってのは、もしかしてお姉さん?」
「そ。フェミニストなゼン君が世界で唯一好きになれない姉貴だよ、あんな馬鹿みてぇな髪色しやがって弟の俺の身にもなって欲しいねあの露出狂!!」
お姉さんが露出狂なのかどうかは置いておくことにして、とにかく此れが全て解決したと思うんだけどどうだろう。
「おにーちゃんのおともだちなのぉ?」
「そーよ、でもミヤはこっちのお兄ちゃんだけ覚えればいいからねー、他二人は酷いんだよー、こっちのお兄ちゃんはクラスも違うのに信じてくれたのにさー、こっちの二人はにーちゃんのこと信じてくれないの」
「わかったー、こっちのおにーちゃんおぼえるー」
「え、ちょ! ごめんって! 本当にごめんって!! 俺のことも覚えて下さい!!」
「ごめんなさい!! 私も小さい子と話したいです!!」
すっかりグレたなゼン君、新たな問題発生じゃねぇか。
「だってー、ゼン君だって傷つくしー? あ、みーちゃん、こっちのお兄ちゃんはあっ君だよー」
「あっくん!」
「あ、呼びましたかミヤコさん」
「あっ君二歳児にさん付けは必要無いと思う、せめてみーさんかな」
「じゃあみーさん」
「ちょっと! 俺も混ぜて下さい!!」
「嗚呼、私ったら取り返しのつかないことしたのかしら……」
「姉貴の代わりに可愛い姪の相手をするヤサシーお兄ちゃんのことを節操無しみたいに言いやがって! ……でも仕方ないからミヤに紹介してあげる、みーちゃん、こっちが一号でこっちが二号ね」
「いちごーとにごー?」
「いやいやいや何処の捨て駒だよ俺達」
「何だか寂しくなってきたわ……!」
でもま、こう見えてもゼン君は優しい人だから大丈夫だとは思う。カイトやカトウだって其処までゼン君を酷く思ってるとは思えないしね。
「リョウコちゃんは盲目だったってことで許すとして、まぁ許して欲しかったら今度飯奢ってよ一号」
「誰が一号だい!!」
……多分。