267+自由な文化祭について。/後
「きゃあ、二年三組の教室って懐かしいわ〜、友達が居たからよく遊びに来てたのよ〜!」
「はぁ? ウミお前に友達なんて居たのか?」
「んもぅ! セツったら〜……――後で覚えていらっしゃい?」
なんて会話を繰り広げていたマヒル他約二名、公共の場だからだろうか、ウミさんの後でが恐ろしい予感がする、相変わらずアサキです。
「マヒル兄! それにせっちーとウミさん!」
「うわぁ、姉ちゃん……」
「あらユウヤ君にカイちゃんにアサキ君も! うふふっ、こんなところで会えるなんて奇遇よねぇ」
弟の負向きな感情をさらりとスルーしたウミさんは、楽しそうに笑いながら此方に手を振りながら歩み寄って来た。
「其れで、――皆を苦しめている下衆以下のクズは何処に居るのかしら?」
うわあ、ウミさん目が笑ってねぇ。マヒルがどんな説明をしたんだかは知らないが、片手をぱきり、と鳴らしたウミさんは既に戦闘モードだ。ちょ、マヒルマジで何てったんだ。ムカつく先輩が唖然としてしまっているぞ。
「ね、姉ちゃん喧嘩は駄目だろ! 学校だぜ!?」
「ふふっ、大丈夫よカイちゃん、一方的な殴り込みを喧嘩とは呼ばないのよ?」
「其れただの虐めじゃねぇか」
此ればかりはセツさんが正しい。
「おらウミ、今日は殺りに来たんじゃねぇんだから大人しくしろって」
「あらマヒル、冗談よ?」
そして今まで黙っていた本来僕が呼びたかったうちの兄貴が喋り出して、ウミさんの雰囲気も戻って行く。
「で、アサキ、何で呼んだんだ?」
「此のクラスの出し物をクリアしてもらう為」
午後から来ると言っていたから呼んだ訳だが、こうも早く来るとは思ってなかった。来ても暇してただけだったんだろう、――手にタピオカジュース持ってるセツさんを除いて。
「え、何々クイズ? いーじゃんマヒル、やろうぜ!」
「セツなんかじゃ戦力にならないじゃない? 私もやるわよ〜」
「お前等がそう言うなら良いけどよ」
という訳で、再び始まりますクイズ大会。先程言った通り第二ラウンド、ユウヤとフドウはとことん戦力にならない、と分かったものの、『何人でかかってきても構いませんけど?』な態度を揺るがせないあれ(※とうとうあれ呼ばわりになりました)がやっぱりムカつくから僕の独断と偏見により全員に金を払わせた。
「――という訳で、問題ですっ!」
ばばん! ――此の効果音は未だ健在なようだ。
とかなんとか考えていたら、最初に出された問題はなんと、さっきと同じ問題だった。勿論答えられた最初の問題では無く、フドウとユウヤが叫んだ、例の歴史問題。
「また其の問題かよ! 分からないって言ったのに!!」
「助っ人の方々が来たんですから、そりゃあ当然でしょう?」
「うわあもう無理殴っていいかなもう殴っていいよね」
「アサキ落ち着け!」
「――七郎麻呂」
ぽつり、と。まくし立てて喋っていたのをカイトに静止されている中ぽつり、と。
「せ、正解、です」
其の答えを呟いたのは、なんとマヒルじゃなくて、銀色に隠れた瞳を真剣一色に染め上げていたセツさんだった。
「な、せっちー何で!?」
「あ? お前、ゲームとかやってりゃ自然と知れんだろ?」
驚くユウヤに同意しつつも、セツさんの一言には同意出来なかった僕。いや、ゲーム其こまで深くないと思う。
「元々歴史は得意なんだよ、俺」
答える時だけだったけど、たった一瞬だけでもあれだけ真剣なセツさんを見るのは始めてだったかもしれない。小声でマヒルが教えてくれたが、「セツは社会科だったら歴史地理政経倫理何でも出来んぞ、俺よりな」なんて言っていた。マヒルより出来るってことは相当だが、――少しだけセツさんを尊敬した瞬間だった。
――でもまぁ次の瞬間にはウミさんに背中叩かれて倒れてたから、もう何処か行ったけどね。
「ま、ままま、未だ一問、だからな!!」
難易度が先程より高いと認識しているからだろう、吃り方が尋常じゃないよあれ。
「第二問! では此方をお聞き下さい!!」
という訳で二問目。何時の間にやら用意されていた音楽プレイヤーの再生ボタンをかちり、とプッシュした。
~この~木何の木気になる木~♪(※)
「「見たこともーない木ですからー」」
歌うなよ、重要な問題なんだから歌うなよ。
かちりと停止ボタンが押されれば、相変わらずのにこにこ顔で出題者の女子生徒は続けた。
「――此の歌で歌われた木は何の木でしょう?」
「「……」」
嗚呼、知らな過ぎてとうとうユウヤとフドウが黙った。
「あ、あの歌にそんな具体的な木があったのか!?」
「正確にはあれですね、映像として使われた此方の木です」
セツさんの言葉に大半が同意する中で、まさかの写真テロップが出て来た。うわあ、確かに見たことはある木だ。――っていうか。
「ねぇマヒル」
「言いたいことは分かった」
ですよね、目を合わすことなくマヒルにそう言えば、どちらが合わせた訳でもなく、僕等は呟く。
「「モンキーポッド」」
「正解です!!!!」
『えええええええっ!?』
誰が叫んだかは分からなかったけど、確かに叫んでたよ、大多数。
「ちょ、アサ君まで分かったの!? 何で!?」
「今年の高校生ク○ズでやってた」
兄貴と見てたんだよね、二人で『へー』って言った覚えがある。あの高校生○イズって馬鹿みたいに難しいけどマヒルはちょいちょい答えてて、こいつ一ペンどうにかなればいいのに、とか思ってた、少しは其の知識をくれ。
という感じで、何故かあっさり最後の問題。ムカつくあれはやっとのことで真剣に焦り出したらしく今までふんぞり返っていた椅子から立ち上がり、僕等をびしっ、と指差した。
「最後の問題は解答者を一人に絞ってもらう!」
それからそんなことを口走ってくれたもんだから、
「今付け足したルールなんて私がぶち壊してやろうかしら――?」
ってな感じでウミさんの怒りに触れてしまった。――しかし其処はカイトに任せるとして。
「さて、解答者は誰にするかな――?」
『マヒル(さん)』
格好付けて貰ったところ悪いですが、最初から一択なんで。
本人は俺かよ、みたいな顔をしているがお前以外誰が居んだよって話だ。兄貴を知らないゼン君やフドウはきょとーん、としているが、何も言わないなら任せてもらおう。
「では、最後の問題は此の俺から出題しよう」
「お手柔らかにどうぞ」
嫌な笑顔と兄貴の苦笑が見合っている。 此の時点でもう余裕に差があり過ぎる――マヒルは無意識――訳だが。そして出された問題は――
「問題! ――此の世で一番難しい問題とは何か!?」
――だった。
……うん? マヒルが止まってる、分からない……のかな。――いや、僕は分からないんだけど。
「あーらら、お兄さんどうすんのかね」
「ん、どういうこと」
「?」
あっはっは、と楽しそうに笑うは頭の後ろで手を組むゼン君。他の皆様もキョトンとマヒルを見ているから、其の声を聞いたのは僕と真横に居たフドウだけみたいだったけど。
「あっ君さ、矛盾の話知ってる?」
「矛盾? あの、何でも絶対に貫く矛と、絶対に貫けない盾の話?」
「そ、……シギは知らないみたいだから、黙って聞いてな、後で説明してやっから」
「はいっす!」
素直だなお前。
「絶対と絶対じゃあどうなるんだ? っていうことから矛盾って言葉が出来たってんでしょ?」
「――そっか、だから答えられないんだ」
そういうこと、と、ゼン君はにっこり微笑みながら呟いた。
――答えが分かっていても、其れを答えてしまうと其れが世界一難しい問題では無くなってしまう。そんな簡単な問題が、世界一な訳が無いのだから。
「さぁって、頭の頗る宜しいらしいあっ君とゆっ君のお兄さんは、どう出るんでしょうか?」
「……」
其れはまぁ――見てからのお楽しみじゃあ無いかな。
「――答えは、“世界一難しい問題は何か?”という問題」
普段と一切変わらぬ口調で、マヒルが呟いたのと同時に、例のムカつく先輩が口元に笑みを携えたのが分かった。
「――だが、」
けど、其処で終わるマヒルなら、僕が此処に呼んだ意味が無くなるじゃないか。
何時もと何ら変わらぬ不良ルックで、腕を組みつつマヒルは続けた。
「――其の答えを今俺が答えてしまうことで此の答えが正しいとは言えなくなる。何故ならば世界一難しい問題であるはずの問題をこうもあっさり答えられるだなんて其れこそ世界一難しいという定義を冒涜している甚だしいからだ、しかしだからと言って其れ以上に正しいと言える答えがあるはずもない、よって生じるパラドックスをどう説明するというのか――なんてことを今貴方が言おうとしたならば、俺にも言い分があるぞ」
もう飛ばしてしまって構わなくないか(※スルー許可)。
「世界中に存在するパラドックスをどう説明するかなんてファミレスで半ライス大盛りで持って来いってくらい不可思議なことであって、もしも説き明かせるのであれば先ず“パラドックス”だなんて言葉が存在するはずが無ぇんだ、しかし其れが今此処にこうやって存在していて、尚且つ解明されていないとするなれば問題にすること事態が間違えている、否――景品を賭けてまで出している問題にするのなんて、おこがまし過ぎる」
『……』
此の場全員の黙視、というか、マヒル一人が黙らせた感丸出しだけど。
「――と、言う訳で」
静寂を破ったのはマヒルでは無く、つかつかと前に出て来ては何故か余裕たっぷりな笑みを浮かべたウミさんだった。
「正しい答え、教えて頂いても宜しいかしら――?」
嗚呼、流石の僕でも、あのムカつく先輩に同情するよ、全く。
※引用 『日立の樹』