265+自由な文化祭について。/前
「いらっしゃいませー!」
「二年五組でやきそばやってまーっす!」
「お化け屋敷来て下さいねー!!」
高校で始めての文化祭だ、アサキですが。ひっきり無しに飛ぶクラスの宣伝が五月蝿過ぎてそろそろキレる頃だが、まぁ此ればかりは仕方ない、文化祭だし許してやろう。
「あー君はあ、店番の時間も無いし、クラス回ってくればあ?」
「うん、その内行く」
涼しいクラスでのんびりしていたら、ドウモトはきゃらきゃらと楽しそうに笑ってそんなこと言った。店番が無い=やること一切無い訳だから良いんだけど如何せん行きたいところも無い。さっきまで居たフドウが、
『気が向いたらで良いので、ボクの部活の方にも来てくれたら嬉しいっす!』
なんて行ってたが、一体何部と言っていたか。つーかあいつ何部だ、僕知らんぞ。しかし此の目の前のドウモトが「しぎしぎのとこには後であー君一緒に行こっ! 約束だからね!」とか言ってたんだが……まぁ良いか、考えるのは其の時で。
さて。知り合い陣は皆午前中に店番になってしまっているもんで、僕一人なんだが。別に寂しいという訳では全く以って無いが、一人で歩くのなんて周りから変な目で見られるだろうが。だから出歩いてないんだ、ていうか暑いし五月蝿いしやる気出ないし。
「いらっしゃいませー! 他のクラスの出し物の前にどうですかあー?」
「宣伝行って来まーす!!」
うちのクラスの奴等……なんて元気なんだか。何かを売るって訳でも無いのにな、僕なら死んでもやらん。
なんて考えていること数分。
『あ、此処ですね』
『その様だね』
どっかで聞いたことのある声が、五月蝿い喧騒に紛れて聞こえた。ええと、多分知ってる声。
「スランプラリーですってね、やってみますか?」
「ふむ、其れも良いかもしれないが、先ずは体たらくで恐らく此処に居るであろう暴君王子を探すとしようでは無いかっ!!」
「其れもそうですね」
「其れは僕のことか貴様等」
「あ、良かった、直ぐ会えましたね」
「ははっ! やぁアサキ! 元気にしていたかい?」
案の定だった、うちの学校とは違う制服を纏ったアスカ君とユキが何とも爽やかな笑みを浮かべてひょっこり顔を出す、誰が暴君王子だ。
「遊びに来ました、賑やかですね」
「本当やめて欲しいよね」
「ははっ! 実にアサキらしいね!」
何がそんなに楽しいんだか、二人は相変わらずの笑みを浮かべて此方にやって来る。まぁ、過疎ってる訳だし文句はあるまい。
「二人で来たんだ」
「ええ、ユキ君なら暇だろうと思いまして俺が誘いました」
「私もそう思っていたものだから誘ってもらえて良かったよ! 私立校ともなると地元の友達が少なくてね」
苦笑を交える珍しい組み合わせに少々ほう、と感嘆の声をあげて。穏やかに会話を交わす会話を耳にしながら気付いたこと、別に遠慮するような関係でも無いので、さらりと言ってみる。
「ねぇ、二人共学校は?」
二人の学校、土曜日半日あったよね?
「「――……」」
うわ、二人して視線逸らしやがった。何なんだよお前等僕間違えてないだろ。
「……まぁ、細かいことは気にしないでいきましょう、アサキ君」
「そうだよアサキ! こう見えて私は、学校を休んだのは今日が始めてさ!」
「うわっ、サボってきやがったこいつ等。僕が言うのも何な気がするがサボりやが――」
「さあさっ、アサキ! 暇そうなのだし、私達と共に何処かへ行こうじゃないか!!」
「そうですよアサキ君、案内して下さいな」
そうやって自分達のことは流すつもりだなお前等、とかなんとか思いながらも二人に流されて、僕はやっとのことで教室を後にしたのだった、畜生。
「いらっしゃいませー☆ はいっ、三名様ですねっ!」
…………。
「アサキ、気持ちは分からなくも無いが、外から見ているだけでは何も伝わらないよ?」
「うん、そうだね、うん、伝わらないから少しだけ伝えてくるね」
教室を出て数秒、隣のユウヤ達のクラスを覗いてみたらとりあえず――虫唾が走った。
なのでユキのアドバイスを借りて、何かを考えることはせず、
「あ、いらっしゃ痛った!! くおおっ――む、向こう脛蹴り飛ばすのは酷いんでないかなアサキ!!」
「うるせぇお前なんて格好してんだ殺されてぇのかああ?」
とりあえず――何故ユウヤがメイド姿なのかは聞かないから、抹殺することに決定した。
だって兄貴がメイド服だったんだもん、そりゃ蹴るでしょ、いや、勢い的にはもう飛び蹴りで良かったんだが此処は公共の場所だしうわあ僕って空気読めるわー。
「い、いや、ね? 此れは俺が着たくて着た訳じゃなくて、クラスの女の子が俺だったら似合うよ! って言ってくれたからであって!」
「うるせぇ黙れカス死ね朽ちれ滅されろ消えろ二度と同じ空気を吸うな」
「嗚呼もうなんかごめん怖いよアサ君お兄ちゃんを見捨てないで!」
見捨てないで欲しいなら其の藍色のメイド服を脱ぎやがれ、ていうかお前のクラス喫茶店って言ってなかったか? 後ろからやって来た二人はカチューシャ付ユウヤを見れば冷静に、「似合ってますよ」「流石はユウヤだね!」なんて戯言を吐いていた、お前等もまとめて滅すぞゴルァ。
「んまぁ俺調理室側担当だから脱ぐつもりだったんだけどね、はーあ」
「とりあえず死ねって」
「まーまー、あっ君もそうピリピリしないで、お茶でもしていきなよ」
お友達も一緒なんでしょ? なんて付け加えて声を掛けてきたのはゼン君で、其の姿は執事でした。嗚呼そうなの、お前等のクラス執事メイド喫茶って訳か、もう何も言わんよ僕は。
「ふむ、外が暑かったことだし、お茶にしたいところだね!」
「俺も賛成です」
「って訳でそうしていくよ、ゼン君」
「そ? よーし、じゃあ――いらっしゃいませお坊ちゃま方、席にご案内致します」
ゼン君は白々しい芝居と共に僕等を席に連れて行ってくれた、嗚呼、こうやって女の子の視線を集めている訳だ、此の金髪似非執事。
「はぁ、ゼン君って本当何でも似合っちゃうよね、もう駄目、全人類に謝るべき此れ?」
「全人類じゃなくて全生物の間違いだと思うけどね」
まぁゼン君には此れがあるから無理だがな、此のナルシストどうにかすればどうにかなる……はず。
「アサキ君、彼とはお友達なんですか?」
「え? 何言ってんのアスカ君、そんな訳無いじゃん、こんなナルシスト、気持ち悪い」
「ちょーいあっ君、ゼン君にぜーんぶ筒抜けなんだけど? ゼン君だって傷付くのよ?」
「ははっ! アサキは相変わらずなようで何よりさっ!」
此れは褒められたのかどうか危ういところではあるけど、此処が涼しいから許すことにする。ユウヤも調理室に消えて、カイトやゼン君もどうせ午後まで動けないんだし、暫く休んだら此の二人と一緒に午後までぶらぶらするとしようか。
出来れば、あまり体力を使わないところに行きたいな。