262+てんてこまいで、てんてこまい。
がやがや
周りががやがやしていますアサキですが。文化祭が今週末にあるということで全クラスが大忙しなようだ。
「フウカ違う! そっちじゃなくてこっち!!」
「こっち? ……あ、こっちか」
ガツンッ
「だーッ!! ぶつかってんじゃねぇかよ!!」
「今のはサチトが悪い、一回戻る」
「お前等、備品を壊すなよ」
――なのに僕は至って忙しくない、何故ならうちのクラスの出し物に、準備なんて必要無いからだ。というか――寧ろ教室にすら居ないんだけど。
部活の先輩、基うちの学校たった三人しか居ない生徒会の会長さんがクラスにやって来まして、
『アサキ、暇ならこっち手伝ってもらえるか?』
だなんて言ってきたものだからびっくりだ。ていうか僕はそうでも無かったけど、クラスメイトがびっくりしていた。『え、あ、生徒会長だ』『本当だ、今日は元気なんだ』『ていうかヒコクって生徒会所属してたんだ』など。ちなみに最後の、僕は生徒会なんかに入っちゃいません!
何でも、生徒会の仕事が多過ぎて回っていないとか何とか。確かにそうだな、文化祭ともなればそれなりに頼られる立場だし。他一年四人は二組だしね――ウタカタ先生の所為らしいが、二組は最早危機的状況に陥っているらしい――、少しくらいは手伝ってやろうか、と重い腰を上げた訳だ、致し方なく。
「悪いな、こんなことを手伝わせて」
「え、嗚呼、別に」
「そうだぜハヤ! アサキは最早生徒会の一員だろ!?」
「其の通り」
何て勝手な人達なんだろう、しかしハヤ先輩みたいなまとも(※此れ重要)な人が身近に居なかった所為か、謝られると逆にこっちが構えてしまう。慣れって恐ろしいな。
旧生徒会室、では無く普通の生徒会室――即ち普段ハヤ先輩が一人で仕事をこなしている部屋に居る。引っ切り無しにやって来る様々なクラスの代表達の質問には奇跡的判断力でハヤ先輩が片付け、道具の貸し出しは他二人が騒ぎながらもやっている。一人と二人でぎりぎり回ってるのか此の生徒会は……いや、其れで回っているのが奇跡という訳だ。
「アサキ君」
「……はい?」
「出来れば此れをどかして欲しい」
「嗚呼、はいはい」
先程何処ぞのクラスから頼まれた暗幕をたらふく抱えたフウカ先輩は僕にそう言って、僕は仕方なく壁に立て掛けてあったベニヤ板複数枚をどかす、うわあ畜生重い。
「どうもありがとう」
「どう致しまして」
「ちょっ、うおおっ! あっ、アサキッ! アサキくーん! 俺の方も手伝ってクダサイ!!」
連れて来られたものの結局未だ何もしていない僕だったが、少し前から人の波が絶え間なく続いている。三人しか居ないって知ってるはずなんだから少しは気を遣えと言いたい――当たり前だけど僕はノーカウントで――。
重い荷物も一人ひとりでやらなきゃいけなくなるくらい、生徒会室の入り口はわんさか人が沸いている、此れを見ると余計生徒会なんて入りたくないな。そんなことを思いながらも、重い縦看板に押し潰されかけていたサチト先輩と適当に助け、僕は椅子に座りながらそんな様子を見遣っていた。
「サチト、今俺が外しても大丈夫か?」
「はあ!? 何馬鹿なこと言ってんのハヤ無理だろ此れ見たら分かるだろ!!」
「いや、しかし体育館の時間割に手違いがあったらしくてな、今から行ってしまおうかと――」
「ばーか! お前馬鹿じゃねぇのハヤ!! 其れじゃなくても此のハードスケジュール体育館なんかにお前が行ったら倒れるだろーがよ!! 夏の体育館の蒸し風呂状態ナメんな! 今お前居なくなったら確実に俺とフウカも死ぬからな! 自分を大切にしなさい!!」
相変わらずサチト先輩は、力仕事をしながらもハヤ先輩のお守役の方は完璧だった。……僕でもそう思うけどな、雨で戦闘不能になるくらい病弱なハヤ先輩が今動いてるのだって不思議なのに、他で何かきたしたら終わりだろ此れ。
「だがしかし行かない訳にはいかないぞ、サチトお前が行くか?」
「其れこそ無理! 俺そういうの苦手!!」
「ちなみに私も苦手」
「ほれ見ろ」
本当此の生徒会、ハヤ先輩が居ないと頭脳何も働かないな。とか呆れ顔で思っていたら、クーラーの部屋なのに汗だくなサチト先輩と目が合った。長年の直感が言ってる、――もう駄目だ此れ、厄介ごとに巻き込まれた。
「ハヤ、アサキに任しとけ」
「ほらね」
つい口に出たがそうだと思ったさ、僕って凄ぇ。
「……いや、しかしアサキは正規の役員じゃあ無いぞ? 未だ」
今未だって言ったな生徒会長。入れる気は満々なんだな。
「だーいじょうぶだろ! ええと、ほれ其処に生徒会のワッペンあるし」
「うん、大丈夫、アサキ君なら」
理屈じゃねぇよあんた等。
最早会話に入るのすら怠くなってきた僕はひとつ溜息をついた訳だが、一番の常識人とも言えるハヤ先輩は、未だ悩んだように難しい顔をしていた。
「――……」
「……はぁ」
もう限界だ、仕方ない。
「はい」
「ん?」
「其の書類を貸して下さい、行って来ますから」
「……良いのか?」
「このまま悩んでたら其れこそ人で埋まりますよ此処、少なからずそっちの馬鹿よか良い仕事して来まおっと口が滑った」
「アーサキ君、ほぼ聞こえてしまったぞーい」
お人好しは放っておけない性格なんだ、面倒だが僕しか居ないなら仕方ない。先輩にはあまり使わないでおこうと思っていた暴言が少し顔を覗かせたけど、聞かれていたみたいだから急いで体育館に向かおう。
そういう僕も、大分お人好しなのかもしれないが。