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256+夜の余暇。


 引き続いて俺だ、……嗚呼、マヒルな。



「ふっふっふっふっふ――」


 夕飯を終えて、何だか遅く帰って来た親三人衆共々飯を終えてから。何故かハザラさんが不気味に笑みを浮かべ出した。


「頭痛いし寒い」


「え、大丈夫アサ君、クーラーダイレクトに浴びてるからじゃない?」


「大丈夫かよ其れ。オトワ、毛布持って来てやんな、……あ、姉ちゃんが持って来よっか?」


「ううん、俺が持って来る」


「あー、今日は動いたから疲れたわー、もう眠いー」


「お疲れだね奥さん、先に寝る?」


 ――まぁ、俺にしか聞こえてないみたいだったけど。

 本人も寂しかったんだろう、気付いてる俺ですら気づいてない態度だったものだから、がたん、と座っている椅子を元気良く鳴らして思い切り立ち上がった。体調不良を訴えて寝転がるアサキとそんなアサキに毛布を掛けるオトワ以外は、そんなハザラさんを訝しげに見た。


「皆っ! 夜は未だ未だ始まったばかりなんだよ!? ほらほら義姉ちゃんも! もうお眠だなんてイイ歳してねーるーなー!!」


「寝てな――いひゃい、ほっへひっはんはいでー」


「こらこらハザラ、レディが何してるんですか」


 我が家の母上の頬を軽く――だが発音出来ないくらいには強く引っ張って、ハザラさんは再び叫んだ。


「ほらほらっ義姉ちゃん兄ちゃん! 折角買って来たんだから!」


「…………嗚呼!」


 あ、母さんが動いた。

 ハザラさんと同じく思い切り立ち上がり、ぱたぱたと小走りすれば寝転がるアサキを飛び超えて――いこうとしたらしいが愛息子を飛び越えることに抵抗があるらしく小さく迂回し――面倒臭ぇな――玄関へ向かった。そして其処に置いておいたのであろう袋を持って来れば、唖然とする俺達に向かって母さんは、意気揚々とこう一言叫んだ。



「皆っ! ――今から花火やんよっ!」














「わー、綺麗だね!」


「いやっほう!!」


 騒がしいなおい、でも気持ちは分かる、手持ちの花火であろうと花火はテンションが上がるものだ。

 昼よりは少しだけ涼しくなった、といっても未だ気温は三十度を裕に振り切ってるんだけど。田舎ならではの縁側のある中庭で、俺達は母さん達がたらふく買って来た手持ちの花火をやっている。ま、俺あ見てるだけなんだが。


「あ、火ィ消えちゃった」


「俺が付けてやんよ!」


 アサキの呟きにユウヤが意気揚々に名乗り出たが、案の定チャッカマンでないただの煙草などに使うライターはなかなか付かない。意気揚々としてたのは最初だけじゃねぇか、途中でやる気失って「父さん、パス」って諦め早ぇよ。


「どりゃあああああ!!」


「お姉、花火で其の掛け声は無い」


 此方の姉弟も楽しいそうで何よりだ、親共はそんな楽しそうな子供達を見ているだけで充分らしく、俺の横――要するに縁側に座っている。……かっこ、ハザラさん抜く。


「わあ! 三色花火って楽しいね! ほら見て見て、ピンクから緑になったよー!」



「……あの人、確か三十後半だったよな……?」


「良いんじゃないですか? ハザラは昔から元気だけが取り得だったから」


 まぁ、兄貴がそういうなら良いんだけどよ。


「はーちゃんのこと言う暇あったらあんたもやりなさいよ、あんた未だ二十……一? だった、わよね?」


「息子の歳を忘れるなーい」


 まぁ、あってるけども。


「そうよ、二十一なんて未だ未だ子供でしょう? だったら一緒に花火とかでわいわい楽しみなさいよ!」


「はぁ、嫌だよ面倒臭い、母さんがやれば?」


「むきーっ!」


 何だよ、何で怒る(?)んだよ。

 困惑しながら隣の父さんを見れば、ふふっ、と何時も通りの含み笑いを浮かべた父さんが「マヒルにも楽しんで欲しいんですよ、奥さんは」と要約してくれた。毎度のことだが凄ぇな父さん、何で分かるんだ。


「毎回言っているでしょう? 奥さんも僕も、マヒルには迷惑掛けっぱなしだからって」


「じゃあ俺も言ってねぇか?」


 笑顔には笑顔で。父さんと俺とじゃ笑顔の種類が大分違うだろうけど俺は言う、もう恒例となった、一言を。


「父さんと母さんは、仕事のことだけ心配してりゃ良いんだよ。強いて心配するなら双子だけで良い、何かあっても、俺がどうにかするから」


 片膝をついてそう言えば、父さんも母さんも顔を見合わせる。其れから俺を見て、母さんはひとつ溜息を、父さんは小さく苦笑した。


「分かってるわよ、もう」


「ありがとうございます」


 と、つられて俺が笑えるような一言を吐いた。



「でも」


「……?」


「今くらいは行って来なさい」


「……はい?」


 え、え、何其れ、どういう――


「ぎゃー!!」


 何というジャストタイミング、明らかに弟の声が聞こえた。

 仕方がないので見てみれば。


「た、ちょ、うああああっ! 来んなしコノヤロウ!!」


 何故かねずみ花火に追いかけられているユウヤを見つけた。


「まるで僕の生き写しみたいだ、ミステリー」


 しかもやったのお前かアサキ。




「ほらマヒル! 助けてあげないとっ!!」


「双子のことは、マヒルがどうにかしてくれるんだよね?」


 そして両親はそう言って、俺が溜息をついたのなんて知らない振りをする。


「――わーったよ、仕方ねぇな」


 俺が靴を履いて縁側から降りれば、何とも満足そうに微笑んだ二人。

 ――ま、此れも親孝行の一環になるんなら。



「ぎゃああああああ!!!!」


「よし、次」


「アサキ、ナイス鬼畜だな!」


「容赦無いよね、ていうかお兄がやるねずみ花火なんで縦にユウヤお兄に向かうの、ある意味凄いよ」



「アサキ、そろそろ許してやれ、な?」





 たまにはこういうのも、良いんかもしれねぇな。




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