245+マジで蕩ける二秒前。
ぴーんぽーん。
「あら、お客さん?」
「あ、俺俺、今日アサキとユウヤ来んだよ」
カイリだ。
大学生はまだ休みじゃねえっつーのに家でうろうろしてる姉ちゃんは一人であらあら言いながら何やら準備し始めた。あいつ等来るだけでどんだけ慌てるんだよあんたは。
「はーいはーいはいは――」
「お邪魔しまーす!」
「未だ出てねえよ俺」
玄関の戸を開ける前にユウヤが乗り込んできた。早えって。
「だって外に居たら死んじゃうって! 外どんだけ暑いと思ってんのさ君は!!」
「凄く」
「お、おおう、その通りだ。……アサ君みたいな切り返しやめて下さい!」
「ははっ、悪ィ悪ィ」
ついしたくなる何でもない切り返し、たまにはいいだろう?
――で、だ。ユウヤが来たっつーことはアサキも居るはずなんだが姿が見当たらない、何処行ったあいつ。
「なあ、アサキは?」
「え、アサ君? ……あれ? 俺の後ろに居た――あ、居た」
ユウヤはちょっと慌てた様子で外を見て、門から乗り出して道路を見れば姿を確認したらしい。俺は出てないから未だ分からねえんだけど……あ、来た。
「ようアサキ」
「あっつい」
「返事おかしくね?」
「日本語訳、とっととクーラーの部屋出せ、だと思うよ」
なんていう横暴な挨拶なんだこいつは……。
でも慣れている所為か、溜息は出るものの呆れるとまでは行かなかった。ていうかアサキに呆れられることはあっても俺が呆れることなんて稀だぜ?
首を傾げて弟の翻訳機と化すユウヤも、その既に死にそうな本体のアサキも、そう遠くない俺ん家まで来るだけなのに汗だくじゃねえか。
……玄関だってのに俺も暑いし、とっととリビングに戻ることにしよう。
「ねえねえカイちゃんにアサキ君にユウヤ君! ケーキ食べる?」
「え、ケーキ!? 食べる食べる!」
「姉ちゃん何時買ったよ其れ。……まあ良いや、アサキ食う?」
「うん」
そして省エネに貢献するが為に二階に行かず一階で姉ちゃん監視――という名の邪魔しているだけ――の元、宿題に取り組んでいる訳だ。
この俺様が七月、しかも夏休み入って二日で宿題なんて……!! 去年までならまだ宿題の量すら把握してねえっつーのに……。高校って宿題の量がぱねえんだって! 頭おかしいんだぜ!? 何なんだよこの分厚い冊子! 俺に死ねってか!?
でも、理由はそうじゃなくて、歴としたのがひとつある。
「あー、宿題終わらねえ……」
「ファイトだよカイト君! あと……ええと……十二頁!」
頑張る気力が吹っ飛んでくんだけど其の頁数。
いやあね、俺も何時も通り、最終日にアサキんとこに行こうと思ってたんだぜ? だけど――
「ちゃんと終わらしちゃわないと、カイト自力でやることになるけど」
「やります」
頼みの綱が、最終日に県外に居るんだよ。
何時だったか此方にやって来た二人の従姉弟――ユウリとオトワっつったっけ?――のところに里帰りするらしくって、其れがなんとお盆過ぎから最終日まで行ってるらしいんだコレが。お盆だけ行けよって話なんだがマヒルさんがお盆も休みじゃないらしくって、医者先生――二人の父さんのことだけど、その人がそんなぶっ飛んだことを言ったんだと。
要するに、お盆までに終わらせないと、俺の二学期の成績が没落する。
「だああああ数学なんざ死んじまええええええええ!!!!!!!!」
「数学が一番楽だと思うんだけど」
「そんなのお前だけだばーか! ゼンだって数学は苦手って言ってたし!」
「カトウとハヤ先輩は得意だって言ってた」
「お、おおう畜生敵う気がしねえメンツ出してくんなよ……」
「大丈夫だよカイト君! 俺が居る!」
だよなユウヤ! 全くいい方向には頼れないが俺にはお前が居るよな!
ケーキを運んできた姉ちゃんが何とも言えない表情で俺とユウヤを一瞥したけれど、其処は笑顔で一蹴することにしたらしい。……理解ある姉ちゃんで良かった。