241+夏休みまでの秒読み。
「シュート!!!!」
ポーン、と。
綺麗な弧を描いて僕の横を飛んでいったサッカーボール、其れを蹴ったのは我が兄であって。ノーコンとはこのことを言う、アサキです。
「ちょっとゆっ君! さっきから何回飛ばすかな!!」
「ちっくしょう!」
ギャーギャーと騒いでボールを取りに行くゼン君、もう何回もこの光景を見ている訳だが、ユウヤは一向に自分で取りに行くことはしないらしい、悔しがって地団駄を踏んでいる。
という訳で、僕等は絶賛サッカー中、アサキですが。
夏休みも近いっていうのに――否、近いからこその球技大会といったところだろう。成績を付ける間生徒達を何処かに縛り付けておきたい、そんな教師達の見解ではないだろうか。
ゼン君がボールを取りに行っている中、そろそろと僕の横にやって来たのはさっきまで馬鹿みたいに走り回っていたフドウ、何だか不安そうだ。
「あの、ヒコク君」
「何」
「足、本当に大丈夫なんすか?」
また其れか。本日何度目の質問なんだ、と問えば当に十は超えているがこの阿呆は未だ懲りないようだ。
「大丈夫も何も治ったし、元々そんなに悪くないし」
まあ、其れは先日まで僕が怪我をしていたのが原因だから何とも言えないけれど、此処まで来ると流石にうぜぇな。まあ、捻挫だったしね、でももう一ヶ月くらい経つし、治ったってことで今球技大会に参加しているんだから良いだろうが。
しかし、そう思ってない奴がやはり数人居る。
「そんじゃあっ君はい、ゴールキック」
「あ、うん」
「ちょ、ストップ! アサキストップ!」
ゴールキックだからとボールを受け取ったら――僕キーパーなんです――止められた、相手チームなはずのカイトに。
「何です敵チーム」
「お前怪我してんだから思っきし蹴んなよ!」
治ったっつの。言っても信じてくれないというか、治ってても未だ心配されているというか。滅多に怪我とかしないからこその仕打ち、本当に面倒臭い。
しかしそう言われたなら仕方ない、少しは譲歩して――
「――死に曝せえ!」
「は――――えふっ!!」
――ユウヤに向けて全力トーキックしてみた、ジャストミート。
今まで地団駄踏んでいただけあって反応が遅れたのか、良い具合に浮いたサッカーボールがユウヤの胸の高さに飛んでいって、ぶち当たって、そのまま後ろに倒れた。
そして沈黙。
「――ユウヤー!!!!」
カイトが叫んだ、だが反応がない、ただの屍のようだ。
「ちょ、ヒコク君! お兄さんにぶち当たったっすよ!?」
「え、うん、狙った」
「狙ってぶち当たっちゃうんじゃあっ君相当サッカー上手いんだね」
雨でぬかるんでる地面に倒れるとは、ユウヤも洗濯大変そうだな。慌てるフドウと苦笑のゼン君、僕は全く気にしていないんだけれど。
審判を任されているであろう二年の先輩は少々おろおろしてユウヤの元に向かう、そんなこと無用だとは気付かずに。
がばっ!
ほら、起きた。
「アサキゴルァ!!!!」
あ、怒った。
「――足怪我してたんだからいきなり思いっきり蹴っちゃ駄目でしょ!!!!」
そこかよ。
自分のことじゃない辺りが本当にユウヤらしい。
ずかずかと此方にやってくるなり――泥だらけで――ムスッとして、
「怪我人は安静に!」
と、僕を叱った。
ホントにもうコイツ等は……つい溜息が出た。
「だからさぁ、もう治ったって言ってんだろドカスヤロウ」
「はいごめんなさい」
これで分かってもらえただろうか。心配してくれるのは良いんだが、過保護過ぎるのは考えものだな、と思った。
早く来ないかな、夏休み。