239+真夏の休日。
「あっちぃ……なぁマヒル、超暑ィ」
「嗚呼、そうだな」
マヒルだ。何だか久しぶりな気もする。
一人暮らしの人の家に上がり込んでおいてその言い草はねぇと思うんだが、髪色だけは涼しげな此の阿呆セツはフローリングにひっくり返りつつそう言った。仕方ねえだろうが、一人暮らしにはエアコンなんざ存在しねえんだよ。
「あっちぃ」
「あっちぃって言うなら来なきゃ良かったろうが」
「そうはいかねーだろ」
溜息交じりに俺が言えば、セツは勢い良く起き上がった。まあそうだろうがよ、目的があるのにひっくり返ったままじゃいられねえだろうし。
「就活の時期だぜ!」
「遅くないかおい」
「――は、置いといて」
しかも置いとくのかよ、確かに就活の時期だけどもな俺達。
ぶっちゃけ俺は何故セツが此処に来たのか知らないんだけど、何か用事があることだけは知っているんだが。肝心なことが分かっていない、だってコイツ此処来て直ぐひっくり返ったんだもんよ。
「んで、何で来た訳よお前、早く話してくれねえと俺今日バイトなんだけど」
「え? 嗚呼そうなんか、悪ィ悪ィ、まあ用事ってもウミからの伝言なんだけどな?」
パシリかよ――セツの名誉の為に口には出さないでおいた。
大学の授業で被ったかなんかで伝言を預かったらしい、メールで伝えりゃいいのになあいつも。セツを伝書鳩か何かと勘違いしてんじゃねえかな。
「“海行きたい”――って」
「……は?」
其れ、伝言というか要望じゃねえか。
「折角の夏なのに海行って水着にもならないで何が楽しいんだ! とか何とか」
「え……別にいいだろ、海とか行くの面倒じゃね? 今時海とか行きたい人なんて――」
「……」
「――ごめん行きたいんだな、分かったからそんな目で俺を見るな」
言った傍から目の前に居たよ、今時海なんて行って喜ぶのは餓鬼くらいだと思ってたけど、結構居るもんだな、……超身近に。
「だって海良いじゃねえか! 日帰りでも良いから行こうぜ!? コレで行かない感じになったら俺とウミの講義中の盛り上がりが無意味になっちまう!」
「分かった分かった、同時に講義中に騒いでいたことも分かった」
お前達本当卒業する気あんのか、そろそろ単位足りりゃいいって訳じゃないんだぜ……?
俺のそんな内心は気付かないセツは餓鬼の如く表情を明るめて喜んでいる、テンションはもう夏休みってか。
「うし! それじゃあ俺はこれで! 今からマッヒーん家(本家)に行ってくるわ!」
「おう、……って、は? 何で俺ん家?」
「涼しいじゃねえか、俺今日家帰れないし? そんじゃ!」
「ちょ! おい! っていうかお前まさかまた金取られ――」
最後まで聞かずにセツは正に星を飛ばして出て行った。明らかにまたカツアゲ、そして更正したが金取り返し忘れる行為に遭ったなあいつ。
まあ、もう慣れたし、とりあえずバイト行く前に双子に連絡いれておくか。