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231+梅雨の合間に体育祭。/後,3


『とりあえず、競技を全うしてしまうのが先です。恐らく不正――というか、本人達はそんな悪気ないんだろうですが――其れを行っているのはごく少数、クラス全体が、という訳ではないでしょうから、終わってから僕が其処の担任に声を掛けておきましょう』


 何とも教師らしくそう言った先生に『先生かっこいー☆』と言って叩かれてから早数分、俺はアサ君と共にスタート位置に立っていた。


「五組、……だよね?」


「一位のクラスに決まってるだろ、とりあえずは抜かすが優先」


 どうやら不正行為にやる気が沸いてきたらしい我が弟は、ピンクのはちまきをする某クラスを凝視していた。一組はそんなにバトンミスが無いらしく、ピンクの後ろを走る紫が見受けられる。


「ふふっ、悪は許せませんかアサ君や」


「悪を許せない訳じゃない、下らない行事に下らないことをする馬鹿が許せないんだ」


 要するに許せない、って訳か。



 ハヤサカ先生は体調不良だの何だの理由をつけて欠場するみたいだったけど、恐らくもう五組の担任に声を掛けに行ってるんだろうな。あの人は仕事だけはちゃんとしてるってアサ君行ってたし。

 ピンクのアンカーが出て直ぐ、アサキも出た。アサキの走力に勝てる人なんて生まれてこの方同年じゃあユキちゃんしか知らないから大丈夫だとは思うんだけどさ。


「ごめんっ、とちったわ!」


 そう言って俺にバトンを持ってきたのはリョウちゃんで、勿論、というのはおかしいけど、リョウちゃんもバトンを落としていた。

 あんだけバトンを落としてても、俺達のクラスは三番、此の分は追いつけるかちょっと曖昧なところだったけれどアサ君が居るしねー、俺も不正は許せないんだよ! ――なんて言っていたから。



「――ヒコク君!!!!」


「あっ君!!」


 そうやってさっきまで居た場所からした声に、ちょっとだけ驚いた。

 でも、もっと驚いたのは――



「え、……アサ君!?」



 俺のちょっと前を走ってたアサキが、俺が走るカーブの先、直線トラックに潰れていたこと。

 こけた……? いや、でもこけるなんて、確かにアサキは運動不足だとは思うけど、走ることに関してはアサキは神掛かってるし。

 つい近くの人混みに目が行ってしまう。……やっぱり、此処は先生が居ないし、人混みだからバレる心配はまず無い。人にどうやってバトンミスさせてるのかとか考えてたけど――こんな簡単な手だったんだね。

 近くに落ちている輪ゴムを見ながら、俺は思った。

 本当は駆け寄りたかったんだけど、そんなことをしたら絶対にアサ君に怒られるから俺は走り続けるんだけど。立ち上がったアサ君を抜いてでも――


「――え?」


 抜いた――はずだったんだけど。

 俺がアサキを抜いた瞬間に、アサキは初速度から最高潮に俺を抜いてった。今までの走力は何だったんだっていう比で飛ばすアサ君、立ち上がったのが早かっただけあって、これなら抜けるんじゃないかな……?

 でも、


『アイツコロス』


 すれ違い様に呟かれたその台詞には、本当に殺意が篭っていて、一瞬俺の背筋が凍った。





 我が弟ながら、なんという殺意。

 殺意を動力に変えるとは、どういったシステムなんだろう?





 

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