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193+騒がしい日々のその後には。


「ようアヤメ」


「何でこんな所で会うんですかねイツキ先生」


 マシロですよ、随分と賑やかだった初めての生徒達が去ってから数日。特に変わりない日々の中で、そして此れからも続く日々の中で、あの子達の存在はこれからもずっとずっと、忘れることの出来ない存在として心に残り続けるのでしょう。


 ――とかなんとか言ってみるのも束の間。


 相変わらず変わらない同期生基職場仲間と――何故デパートで出会わなきゃならないんですかね。

 フードコートで目が合ってしまったイツキ先生。そりゃ住んでいる場所だってそう遠くないし、会ったって仕方ないとは思うんですけどね。


「こんな所で会うなんて奇遇ですね、一人で何してるんですか」


「そりゃ俺の台詞だ」


「僕は弟と一緒ですよ、今迷子になってますが」


 ――本当、慣れたデパートで迷子ってどういうことなんでしょうねあの子は。


「セツか……幾つだよ」


「三月で二十歳になりましたよ」


「ドンマイ」


 励まされてしまいましたよ。最近うちに遊びに来たイツキ先生は奇遇にもセツと――そりゃ住んでるんだから――会って、一緒に遊んでましたよね。


「にしてもアレ、セツと会ったことなかったんですよね」


「んあ? ……嗚呼、高校ん時の話か其れ」


「勿論。……そうか、セツは僕が大学の時に実家から出て来たんだった」


 相変わらずだるっだるなイツキ先生は放っておいて、僕は思い出したように拳をぽん、と手の平につく。そっかそっか、すっかりもっと前から居たのかと思った。……あ、今の話はあれです、僕が未だ、イツキ先生のことをイツキ君と呼んでいた時の話です。……分かりますかね?



「中学で親離れかよ、凄いねぇ?」


「あっはっは違いますよ、うちの親が特殊で、子供達に興味関心が薄かっただけです」


 食事は与えて貰ってたし、小遣いだって普通に貰ってたし。けれど、連絡無しに夜中まで帰らなくても怒らないし、テストで悪い点を取っても怒らなかった。うちの両親は確実に他の家とは違ったんですよね、でも何が違うのかと言われれば答えられはしない。甘い訳でもなく、育児放棄という訳でもなく、何と無く他人行儀な家庭、という感じで――何処か違和感のある家族でした。言ってしまえば――歳の離れたルームシェアって感じで。

 家族の中で本当に身内だと思えたのは何時だってセツだけだったし、恐らくセツも僕だけだったと思います。本当、よく分からない家族でした、僕達は。


「高校の時聞いた話じゃあるが、お前ん家ってマジよく分かんねーよな」


「まあ、そういうのも有りなんじゃないですか?」


 高校の時、というのも変な感じだけど、僕と此の人は高校が一緒だった。大学で違えてまたこの歳で再会するとは思いませんでしたが。

 ま、腐れ縁ってやつですか。



「あ、シロめーっけ!」


「ッ――セツ、何処行ってたの?」


 何か予想以上に感慨に耽っていたら、後ろからどつかれた。痛いよ、加減が出来てませんよ其れ。


「あり、いっきーも居らァ、やっほう」


「おう、久方」


「セツ、話を聞いて下さい」


「ん、エスカレーター逆走してた」


 大迷惑じゃないですか。





「――じゃ、俺は帰るわ」


 セツが「折角いっきー居る訳だし、一緒に何か食うか」とか言い出して数十分、そう言ってイツキ先生は席を立った。


「用事ですか? ……というかイツキ先生、何で貴方此処に一人で――」


「待ち合わせ、だよ。早く来過ぎてたんだがお前等のお陰で暇潰せたわ、じゃーな」


 セツはひとりもぐもぐと咀嚼をしながらもイツキ先生に手を振っていた。去り方までキザな感じですよあの人、相変わらず過ぎる。


「そうだねセツ、セツが食べ終わったら僕達も帰ろうか」


 一度頷くセツ。……自分で言っておいてアレですが、別に喋っても怒らないんだけどな、もう二十歳な訳だし。でもまあ、本人が守りたいならいいんですけどね。


 たまにはこういう、平凡な日も大事、だよね。




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