191+ある意味驚異的な人物。
「姉ちゃん起きるべし!」
「――にゃ!」
あふぁ……何? 今何が起こったの……?
「はーやーく起きてっ! 起きて起きて起きて起きて起きて起きろごら!!!!!!」
「はううぅ、起きてるよぅ、起きてるから~……」
未だ朝なはずなのに、ユズが起こしてくるなんて珍しいなぁ……あ、モモですよ?
人の部屋にやって来たと思いきや、気付けば私の上に乗っかってますユズ君。あう、バタバタしないのー。軽いからって乗られたらお姉ちゃん潰れるよ~。今年から中学生でしょ? ……まあ私から見てもユズはちっちゃいけどね、私より身長無いし。
「早く起きろって! 姉ちゃん置いてっちまうぞっ!」
「なあに? ……何処か出掛けるの?」
きらきらとした視線を起き上がった私に向け、ユズ君は相変わらずいそいそとしている。うーん……一体何に置いてかれるんだろう私。
「コトナとリョウコちゃんが一緒にケーキバイキング行こうぜって誘ってくれたんだよ! 行くぞ!」
「バイキング?」
寝起きのお姉ちゃんにそんな胃がもたれる話はしないで欲しいかも……。私が着替え始めても人のベッドでばたばたし続ける弟を見ながらそう思った。……ていうかお姉ちゃんが着替え始めたんだから「ばっ、ちょ、俺が出てってからにしろよ!」とか無いのかな? そういう弟が男になる瞬間とか――
「ケーキー!!!!」
――うんないみたい。
所詮ユズは未だ小学生だった。
「リョウちゃんコトちゃんおはよ~」
「おはよモモ、既に十二時なことには目をつぶってあげるわ」
「おはようモモちゃん」
ユズ君に物凄くせかされて外に出たら、リョウちゃんとコトちゃんが居た。待たせちゃったかな、ごめんなさい。
「でも急にケーキバイキングだなんてどうしたの?」
「コトナが商店街のくじ引きで当ててきたのよ、四枚ね」
「ふふふっ、お姉ちゃんには出来ない芸当ね」
「はいはい」
コトちゃんは相変わらずだけど、私とユズ君を誘ってくれたのは嬉しいな。
「そうなんだ~、ありがとーコトちゃん!」
「良いのよ、モモちゃんやユズが喜んでくれるなら本望だわ」
「アンタは私より二人の方が大好きだもんね」
呆れるリョウちゃんの横でコトちゃんはこくん、と頷いてくれた。はぅ、こんな可愛い妹が私にも居たらなぁ……! ちなみにうちの弟は脳内ケーキの世界にトリップしてます、要するに心此処にあらず。作るのも好きなら食べるのも好きなんだよね……今時有名な草食系男子ってやつかな? ああなったら暫く帰って来ないからいっかな。
「何を言ってるのよお姉ちゃん、お姉ちゃんのことだって好きよ、昨日の夕御飯が何だったかしら、っていう思考の重要さくらいには」
「全然じゃないのよっ、思い出す必要性が感じられないわよっ!」
不吉な笑みを浮かべるコトちゃんと、懲りずにツッコむリョウちゃん。えへへ、やっぱり仲良いよね二人って。姉妹ってそんなものなのかな? ユズと仲悪い訳ではないと思うけど、ん~、いいなあ〜……。
「ね、ユズ君」
「あん?」
あ、戻ってきてた。
「ユズ君は私と仲良いのかな?」
「あー……知らん。でも多分良いと思うよ、俺の友達とか、こうやって姉ちゃんと出掛けたりしねぇって聞くし」
「そっか、何か嬉しいな~」
「そんなことよかケーキケーキ! 姉ちゃんトロいんだから走るぞ!」
「ふえー!」
そう言ってユズは拳を頭上に掲げて、空いている手で私の手を掴んで走り出した。うああ、待ってよ~、リョウちゃん達未だ来てないよ~!? そう思いながらもこけないように走り付き合う私、此処で止めてあげちゃうのも可哀相だからね。
うんうん、私お姉ちゃんだなぁ。
「ホワイトデーのお返しのつもりだったんだけど、喜んでくれてるみたいで良かったわ」
「え、アンタが? バレンタインあげてなかった?」
「あげたわよ、けどユズはバレンタインもホワイトデーもくれたわ」
「……確かに、私も貰ったわ」
「一言だけ言わせて貰えば――複雑だわ」
「ドンマイコトナ」
ランユズキ、大分難しい人物だという。