187+卒業式前日だろうが、何時も通りに行こうよ。
「号令」
「きりーつ!」
アサキです。何時になく真面目な服装でやって来たサクライ先生。それもそのはず、実質今日が最後の授業だ。何てったって明日は卒業式、……ユウヤが面倒臭いんだろうな。
「着席!」
「――はいじゃあやること無ぇから外でサッカー」
「「最後なのに」!?」
僕とカイトの声が綺麗にハモった。他のクラスメイトはポカンとしてしまっている、約二名は「サッカーだって~」「楽しみだねはっはっは!」とか言ってるが気にしたら負けだと思ってるよ僕は。
「ばっかお前等、最後だから思い出作りだろ」
「だ、だって先生スーツじゃん!」
「はあ? 大人っつーのはスーツのひとつやふたつ汚したって困らねぇんだよ」
「貴方だけですねソレ」
立ち上がり先生を指差すカイト、今回ばかりはお前の方が絶対的に正しい。
「まあ、ぶっちゃけりゃ――最後の授業とか何したら良いか、分かんねぇんだよ」
「――……」
そんな先生の一言で、教室は刹那静まった。立ち上がっていたカイトも大人しく座り、何だか一気に卒業の空気。
……何だよ此れ。卒業の話は明日で良いじゃん、嫌だとしても明日には絶対卒業するんだからさ。だったら今日は普通に、何時も通り、楽しく授業をした方が百倍良い。
「ねぇ先生」
皆が卒業モードなのは勝手だけど、僕まで巻き込まないで欲しい。別にこんな中学に未練なんて無いし、悲しくもないんだから。――だから。
「何時もみたいで良いじゃん。サッカー、やろうよ」
ね、サクライ先生?
一瞬僕が何を言っているのか分からなかったみたいだったけど、先生は直ぐに何時もの憎ったらしい笑みを浮かべた。最初は憎たらしくてニヒルだけだった笑顔も、三年も経てば此れ程心強い笑みはない。
「――ほう、運動嫌いのアサキからそんな台詞が出るとはな?」
「辛気臭いのは嫌いなんだ」
途端、静かな教室にダンッ! と打撃音が響く。勿論それはサクライ先生が教卓を叩いた音、何もかもが何時も通り――これが僕等のクラスだ。
「よっしお前等、――今日は制服のままで良い! 女子はスカート嫌な奴だけ着替えて校庭に集合しろ! どうせ使わなくなる制服だ、明日に支障が出ねぇ程度に騒ぎ倒すぜ!」
『はい!』
クールかと思えばかなりの傍若無人でクラスを翻弄してくれたサクライ先生。そんな先生に翻弄されながらも一緒に騒いだクラスメイト。どうでも良い奴等だったけど、――明日で別れる訳、だよね。
「ほらっ、アサキ行くぜ!」
「最後なのだから楽しもうじゃないかっ!」
「――うん」
寂しくは無い。
でも、少しだけ虚無感がある、かもしれない。