174/遅ばれ進め、修学旅行。/ろく
おはようございますアサキです。
時間的にはおはようであってるはずなんだけど、生憎部屋が暗くて其れどころじゃない。起きてから修学旅行来てることを思い出して――夕方から記憶がないことを思い出す。
……修学旅行先で旅館着いた瞬間ノックダウンってどうよ自分。
疲労満帆過ぎて寧ろ気持ち悪くて死にそうだったところを、ユキとカイトに騒がれたのは覚えてるんだけど。
「まさか朝まで寝るとか……」
朝と言っても未だ目覚まし時計は六時半を差している。起床は七時じゃなかったっけか、三十分早ぇ。
夕飯食ってなけりゃ風呂も入ってない、……うわー、なんかテンション下がる。
「起きたのかい?」
――とか、起き上がって考えていたら。
右の方から声がした。薄暗い中見たら、布団の中から寝起きだというのに素晴らしく笑顔なユキが居た。なんというか――
「おはよう女子」
「君に言われたくないね」
って感じ。いいや、僕は普通だから、ただ男っぽくないだけだから。お前はもう女の子だから。
「……未だ七時じゃないけど」
「ふふっ、声がしたからね」
「眠り浅いんだね」
「少々敏感なのさ」
そう言えばユキも起き上がる。大きく伸びをしたと思えば直ぐさまくたり、となったり。どっちかにして欲しいものだ。
「よく寝たよく寝た、アサキ程ではないが」
「まぁね。自分でもよく起きなかったと思うよ」
「其れはそうだろう、私やカイリが最善の注意を払って行動したのだから」
や、そんな無理して頂かなくても。
「眠っているアサキを起こさぬ様、どんなに一日目の夜でテンションが高かろうが皆頑張って堪えていたよ」
だからそんな無理しなくても。未だ夢の中の面々に目をやれば、僕はひとつ溜息をつく。
「こいつ等を起こす側に回るのは初めてだ」
「ふふっ、昨年はアサキが起こされていたのだね」
「勿論」
「もう体調は大丈夫なのかい?」
「寝たら治る部類のものだからな」
「ユウヤは分かっている様子だったけど、心配していたよ。……あとサクライ先生は呆れていたよ」
先生は心配しろよ。
「でも呆れながら、『あんまし騒ぐなよ、此ればっかりは個人の責任とは言い難いんだから』とか何とか漏らしていたかな」
「……」
……体力がないのは個人の責任で構わないと思うんだけど、そう言ってくれたならそういうことにしよう。
「さて、そろそろ起こすかい?」
未だ七時には少し早い時間、ユキが笑いながら首を傾げる。
「そうだな、一回で起きるとは思えないし」
そうしてやっと、二日目が始まる。