172+遅ばれ進め、修学旅行。/よん
イツキだ、……今一瞬でも誰だよとか思った奴、居たらぶちのめすぞあぁ?
「それじゃあこの後、部屋に荷物運んで直ぐ各班の班長はもっかい此処集合だ」
某寺院を珍しくも時間以内に集合した一組――どうやら騒ぐカイリの目付役はユキが買って出ているらしい――は、泊まり先である此の旅館に着く前にとある京文化を体験した訳だが。
とある京文化、観阿弥やら世阿弥やら、名前くらいは一度は聞いたことがあるだろう――要するに能楽っつーのをだ。
だがまぁ――能なんざつまんねぇだけだよな。
『イツキ先生、今教師が思っちゃいけない一言考えたでしょ』
『いや、全然。さあて、楽しい能楽の時間だぜー』
『イツキ君棒読みだね~』
能見学中にすかさずそう言われたんだが、俺はそんなにもつまらなそうな顔をしてたんだろうか。
や、でも仕方ねぇだろう? 興味無ぇ訳だしよ。生徒共だってそりゃつまんなそうだったし。アサキやらユキやらは何だかんだで見てたみてぇだが、ユウヤはアスカにギリギリで起こされ、カイリに至っちゃ爆睡だったはずだ。
「せんせー」
「何だ」
「うちの班長が全く聞いてない場合はどうするんスか?」
そしてそんな過程を経ている結果、とことん全回復なカイリがんなことを漏らす。若干上がっていた視線を下げれば――体育座りで俯くアサキが目に入った。
「……おいアサキ」
「……」
「返事がないただの屍のよ――」
「あ?」
「先生に向かってあ? はねぇだろあ? は」
ゲームネタにつられたのか、顔を上げる実質大分真面目な優等生は超雑に返事をする。
「テメェのこれからの予定言ってみろ」
「寝る」
違う。
「班長会議だろうが、はーんーちょーうーかーいーぎー」
「眠い」
完全に諸事情じゃねぇか。
「ふふふっ、一日と保たないアサキの体力程愛おしいものはないねっ! 先生、役不足ながら私が代行しますよ」
此方も実は真面目なんだろうけどどう頑張ってもそうは見えないユキがアサキの後ろから突っ掛かる。……未だ六時なんだけどな。
「まあ、代わり居るならまあ良いか。――つー訳で、とりあえず解散!」
事が解決したのは良いが、一組他はとっくに解決してたらしくざわざわしてやがる。
さってと、今日はあと飯食って風呂入って寝るだけだし、やー疲れた疲れた。
「ふふふふふ、夜はまだまだ長いぞイツキ君!」
――疲れた、現在進行形で。
「何だよキクカワ」
「生徒達の見回りが終わったら、三人で飲み会に決まってるじゃーん☆」
「馬鹿野郎、校長のジジィに見つかったらどうすんだ」
「あ、ごめん四人だ」
「込み!? 校長込みかよ!! あの校長真面目だったんじゃねぇのかよ!」
「あはははははイツキ先生、もう僕は諦めてますから」
既に目が死んでるアヤメを見て、俺もあえなく諦めた。
飲むのが嫌なんじゃねぇが、初日くらい休ませろや。