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166+頑張りました、リョウコちゃん。


 ぴーんぽーん。


 ヴー―――


 ぴーんぽーん。


 ヴー―――かち。


「ふぅ、掃除完了っと」


 ぴーんぽーん。


「あン?」


 マヒルだ。双子が揃って出掛けてるもんだから、思い切ってリビングを完璧に掃除してみた。……え、前にも掃除してなかったかって? いや、あんな比じゃなくて、窓を新聞紙と空雑巾で交互に拭いたりとか、カーテンを元から模様替えしちまったりとか、もう根本的な意味で。……いや、掃除好きなんだよ、なんか。

 掃除を終えて悦に浸っていたら、どなたかやってきたらしい。


「はいはーい」


 おっといけねぇ。まさかこのまま出る訳にもいかねぇよな。三角巾とエプロンなんてしたまま表に出たら「何此の人」って顔されんのは目に見えてらぁ。(※経験済み)

 それらを片手に玄関を開けた――が、誰も居なかった。……あれ?


「……あ」


 掃除機の所為で遅くなってしまったのか、と思って少し表に出てみれば、


「おーい! 二人共ー!」


 見たことのある、弟共の友達が居た。


「あ、マヒルお兄さんだ~」


「え? あ、こ、こんにちはっ!」


「リョウコちゃんにモモちゃん、はいこんにちは」






 という訳で、とりあえず自宅に招いてみた。双子が外出中だと伝えれば、また後で来る、といったものだから。いちいち帰すのも失礼だし、とりあえずリビングで待ってもらおうという訳だ。


「あー、なんかアセロラドリンクとかいう中途半端な飲み物しか無いんだけど」


「私は何でも大丈夫です!」


「私も~、わざわざごめんなさい」


「いやいや、構わねぇよ」


 自宅に女の子だけが居る今の状況に多少違和感を覚えるものの、良い子達だから別にただただ和むだけの俺。恐らくアサキがノリに任せて買ってきたアセロラを二人に出せば、いただきます、と小さく会釈をしてモモちゃんは飲み出した。良い子だ。


「あいつ等何時に帰るかね……遅くならないっつってたのに……」


「いえ、何も言わずに出て来た私達が悪いんです、どうせ届け物ですし」


「まあ、好きにしててくれて構わないから、……ん? 届け物?」


 俺が掃除機を片付けるのがそんなに面白いのか、モモちゃんはにこにこと目で俺を追って来る。けど俺はリョウコちゃんとの会話に首を傾げれば其方を見てみる、が――何故か視線を逸らされてしまった。


「届け物なら、置いてってくれてもいいけど?」


「え、あ、いえ、じっ、自分で渡したいんです!」


「……あらそう」


 そんな真っ赤になって言われたら、流石に強制は出来ねぇわ。第一、一週間前が何の日か考えれば――完全に何を渡すのか予想出来るし。


「こ、今年こそ自分で……!」


「去年はアサキに渡さなかったのか?」


「去年は私が渡しました~」


「だから今年こそ――ってマヒルさん!? 何の話か分かってるんですか!?」


「え……うん、ごめん分かる」


 え、気付いてなかったの? 誰しも分かる反応してくれてるけど、多分セツですら分かると思うんだが。

 しかしリョウコちゃんは静かにワナワナと戦いてしまってるのか、俺を見て停止してしまっている。……何か悪いことをしてしまった気がする。

 そして、リョウコちゃんの一言。



「ご、ご、ご、ごめんなさい!!!!」


「何故謝罪」


 きゃー!! と騒ぎ出してしまったリョウコちゃんの横で、未だアセロラを美味しそうに飲むモモちゃん。……慣れていらっしるわこの子。


「え、ちょ、まっ、どうするのリョウコ! バレてるわ、お兄様にまでバレバレらしわああああああ!!!!」


「モモちゃん、どうすれば良いの、この子」


「このまま騒いでても害はないんです、リョウちゃんですから」


 大人だ。

 モモちゃんに言われた通り、俺は何も関与しないことにした。






「たーんだいまー」


 ユウヤでっす。自宅に帰還なんだぜー! という訳でどたどたと廊下を小走りする。だって寒いんだもん。……うん? そういやなんか靴多かった気がするんだけど――


「マヒル兄ー?」


「おう、お帰り」


「ただいま――で、何この状況」


 自宅なはずなのに、何故かテレビに向かうリョウちゃんとモモちゃんが居た。正確にはテレビじゃなくて、ゲームに向かう、だけど。


「アサキ待ちな感じ」


「なのに何でリョウちゃんゲームしてんの、そしてモモちゃん画面釘付けだし」


「――嗚呼もう! 難しいわね此れ!」


「あ、リョウちゃん後ろに敵がー」


「嘘っ、ちょ、このやろっ」


 しかもリョウちゃんちょっとプロいし。何時の間にゲーム上手くなったんだろ、恋は盲目ってやつかな?


「あ、ヒコクユウヤ」


「お帰りなさ~い」


「あははっ、今気付いたって顔してるけど遅くない? ていうか酷くない?」


 あくまでも笑顔で言ったけど、二人は気にしてないご様子だった。何なんだろう、最近寂しい。


「ユウヤ君、はい」


「え、わ、何此れ?」


 モモちゃんがソファ越しながら可愛らしくラッピングされたピンクの袋をくれた。


「一週間遅いけど、バレンタインだよ~」


 にこにこなモモちゃんにつられて、ついにこにこしたくなる俺。いや、したくなるじゃなくてしちゃいます。


「うわあ、ありがとー!」


「一ヶ月近く遅れちゃったけど、誕生日も兼ねて、だから皆より特別なんだよ~?」


「え、マジ!? わーい!」



「――という口実を元にリョウコちゃんはアサキに豪華な本命チョコを気付かれないように渡す訳か」


「だから何で分かるんですかマヒルさん!?」


 マヒル兄のキッチンからの野次に、リョウちゃんはコントローラーを投げやりつつ叫ぶ。ゲーム機壊すと其の想い人に怒られるよ、リョウちゃん。


「何でって……誰の兄貴だと思ってんだ?」


「そうそう、でもマヒル兄もアサ君同様、自分のことには超疎いんだよね」


 俺のそんな発言に不服そうなマヒル兄。でも本当にそうなんだもん。

 とか言ってたら。




「ただいま」




 簡潔な言葉と共に、弟が帰って来た。

 同時に、リョウちゃんの動きが完全に止まった。


「――……」


 リビングに参上した我等がアサ君。扉を開けて、一通り部屋を見回してから一言。


「じゃ」


「「何処に行く」」


 扉を閉めようとしたアサキにマヒル兄と揃って一言。何故閉めるし!


「何で友達来てるのに閉めるの! ほらっ、入って入って!」


「えー……僕は新巻を読まないと……」


 友達より漫画を選ぶな。しかも真面目に嫌そうなのがタチ悪い。


「ほら、リョウちゃん!」


「え、ああと、わ、分かってるわよ!」


 モモちゃんの催促。リョウちゃんはハッとして鞄を漁る。出て来たのはさっき俺が貰って机に置いたやつの青色ver.。

 アサ君はアサ君でそれを不思議そうに見てるだけ。


「ヒコクアサキ!」


「はい」


 まあ、結構素直なんだけどね、返事は。


「はい此れ! ばっ、バレンタインと誕生日一緒だけどプレゼント! 言っておくけどアレよ!? バレンタインは皆に渡してるんであって、……そう、そうよ友チョコ! 友チョコなんだからね!? 別に入ってるやつも別に私からというかモモと一緒に選んだんだからね!? 良い!?」


「うん」


「それじゃあ帰ります!!!!」


 そう言い切って、リョウちゃんは鞄ごと走り去ってしまった。玄関からお邪魔しましたーっ! と聞こえてくる。


「えぇ!? リョウちゃん待ってー! お邪魔しました~!」


 モモちゃんも慌てて出ていく。慌てながらもぺこり、とお辞儀をしていく辺り、凄く良い子なんだなぁと改めて思う。



「……凄く沢山言い訳してったな」


「何が?」


 開いたソファの前にあるコップを回収しつつ、マヒル兄は呟いた。けど、アサ君は首を傾げるだけだった。




「どうよアサキ、女の子からチョコレートを貰った気分は」


「……」


 アサキは考える。

 そして再び一言。


「何でチョコレート?」


 残念ながら、リョウちゃんの言葉にあった“バレンタイン”の部分は綺麗に脳から抜け落ちてしまったらしい。


 無念リョウちゃん。




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